イオン注入装置

イオン注入装置とは

イオン注入装置とは、イオン化した物質を別の物質に注入することで、注入された物質の特性を変化させるための装置です。

半導体に広く使用されている単結晶のシリコンウエハーなどの材料は、そのままでは絶縁物質です。それに異なる物質のイオンを注入することで、電気的特性を変えることができます。

イオン注入装置は、主に半導体デバイスの製造における、不純物の注入工程において使用される他、半導体以外の材料分野においても、材料の特性を変化させるために使用します。ここでは、半導体の製造工程で使用するイオン注入装置について説明します。

イオン注入装置の使用用途

イオン注入装置は、半導体製造過程における不純物の注入工程で使用されます。半導体の基板に広く用いられているシリコンウエハー等は、そのままでは絶縁物質であり、電流を流したり、電気信号を伝えたりすることはできません。ウエハーに外部からイオンを注入することで、n型半導体もしくはp型半導体という電気的特性を持った部分が形成されます。

n型半導体は不純物として電子を多く持つ元素が注入された半導体で、p型半導体は不純物として正孔を多く持つ元素が注入された半導体です。なお、イオンを注入することを、ドーピングやイオンの打ち込みと表現することもあります。

n型半導体を作る際には、窒素やリンや砒素などの第15族元素のイオンを使用します。一方、p型半導体を作る際に使用するのは、ホウ素やアルミニウムなどの第13族元素のイオンです。イオンの注入を行うのは、エッチングによって回路部を形成した後の工程です。

ウエハーの上面は、エッチングによって、ウエハーの表面が露出した部分と、フォトレジストに守られた部分に分かれます。そこにイオンが注入されるとウエハーの露出した部分が、イオンの種類に応じて、n型半導体若しくはp型半導体となります。

イオン注入装置の原理

イオン注入装置は、イオン源、分析部、スリット、加速管、偏光板、レンズ、走査器、シリコンウェーハステージ、高温注入治具等で構成されています。真空状態になったイオン源部に、イオンを発生させるための元素であるリンやボロン、ヒ素などを投入し、電磁界を用いてプラズマ状態のガスにします。

プラズマ化したガスの中から、イオン注入に使用する物質のイオンのみを加速管へと進めるのが、分析部とスリットの役目です。イオンは加速管の内部で加速され、その先にある偏光板とQレンズの中を通過することで、イオンビームとして形が整えられます。

走査器の役割は、イオンビームをX,Y方向に走査することです。イオン注入の対象となるウエハーは、シリコンウエハーステージ上に正確にセットされており、そのウエハー表面上をイオンビームが走査することで、イオンが注入されます。

ウエハーの後面には高温注入治具があります。高温注入治具の役割は、ウエハーを加熱することです。ウエハーを加熱することでイオン注入による結晶欠陥の発生を抑制し、セルフアニーリング効果によって欠陥を消滅させることができます。

イオン注入装置の選び方

イオン注入の際のパラメーターには、使用するイオンの種類、注入するイオンの運動エネルギーと注入量、注入対象となるウエハーの大きさや種類など、非常に多くのバリエーションがあります。したがって、1台のイオン注入装置だけで全てのイオン注入工程を担うことは困難です。

例えば、リンやボロンなどのイオンを高濃度で注入する場合は、高電流・高エネルギーのイオン注入装置が必要となります。また、イオンを注入するウエハーが、SiCのような高温で動作するパワーデバイス用ウエハーの場合は、ウエハーを高温に加熱できる装置が必要です。

その一方で、イオン注入装置は、高価格の製造装置です。イオン注入装置を選択する際には、注入するイオンの種類と注入量、適応可能なウェーハサイズ等の必要な条件を満たしていることが前提となります。その上で、装置価格やスループットとの関係等を慎重に検討することが大切です。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1989/52/12/52_12_805/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/62/2/62_77/_pdf/-char/ja

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