コールタール

コールタールとは

コールタール (coal tar) とは、石炭を乾留させ、発生した高温ガス状物質を冷却して得られる液状の物質です。

低温乾留で作る低温タールと高温乾留で作る高温タールがあり、一般的には低温タールを指します。基本的に多種類の芳香族炭化水素の混合物ですが、CAS登録番号は、8007-45-2です。

コールタールは、以前は都市ガス製造における石炭乾留の副産物として得られていました。しかしながら現在は、都市ガスの原料が天然ガスなどへ移行したため、製鉄所における製鉄用コークス製造の副産物として生産されています。

コールタールの使用用途

コールタールの主な使用用途は、タール分留製品原料、防錆塗料、漁網染料、油煙、燃料です。かつては枕木や木電柱などの木材の防腐剤や、トタン屋根の塗料として広く用いられていましたが、近年では建材の移り変わりやコンクリート製の普及により、使用されることが少なくなっています。炭素電極の支持材にも使用されていました。

また、コールタール製剤には角質溶解・形成作用、止痒作用があるため、かつては医療にも用いられていた物質です。特に、皮膚疾患の1種である乾癬では、かつてはコールタールを外用するゲッケルマン療法が行われていました。しかし、後述する発癌性が指摘されてからは行われなくなってきています。

タール分留製品

コールタール分留成分より製造される物質

図1. コールタール分留成分より製造される物質

生産されたコールタールを原料として蒸留をすることにより、タール分留製品の製造も行われています。分留成分のうち、比較的軽質な留分であるタール軽油は、BTX (ベンゼントルエンキシレン) やスチレンモノマーに使用される物質です。

カルボル油およびナフタリン油はフェノールクレゾールなどに使用されます。アントラセン油はカーボンブラック (炭素微粒子) に、ピッチはピッチコークスにそれぞれ使用されます。

コールタールの性質

コールタールの主成分

図2. コールタールの主成分

コールタールの主成分は多環芳香族炭化水素です。主な化合物と含有率は下記の通りです。

  • ナフタレン: 5%–15%
  • ベンゼン: 0.3%–1%
  • フェノール: 0.5%–1.5%
  • ベンゾ[a]ピレン: 1%–3%
  • フェナントレン: 3%–8%

外観は茶褐色あるいは黒色で、粘性の高い液体です。ナフタレン様の特異臭を呈します。比重は1.18-1.23です。 水に微溶であり、ほとんどがベンゼン、ニトロベンゼンに溶解します。

また、一部のアルコール等や苛性ソーダ溶液にも部分的に可溶です。

コールタールの種類

コールタールは、各種鉄鋼製品の防蝕剤、木材の防腐剤、研究開発用試薬製品として販売されています。

防錆防食材としては16 kg、2.5 kgなどの容量で提供されている製品です。研究開発用製品としては100 mL、500 mLなどの容量があります。

また、コールタールは蒸留法により分留されてタール分留品としても販売されています。主なものとその用途は次の通りです。

  • ピッチ: 電極用バインダー
  • クレオソート油: 防腐剤、塗料
  • ナフタリン: 染料、顔料
  • タール酸: 樹脂原料、顔料

コールタールのその他情報

1. コールタールの安定性及び反応性

コールタールは通常の取り扱い環境下においては安定ですが、酸化性物質等と反応します。保管の際は酸化性物質との接触を避けることが必要です。

また、燃焼により黒煙、一酸化炭素、二酸化炭素などの有害物質が発生します。

2. コールタールの安全性

コールタールの有害性

図3. コールタールの有害性

コールタールは、人体への有害性が確認されている物質です。具体的には、発がん性、 経口摂取による有害性、軽度の皮膚刺激、アレルギー性皮膚反応の可能性、重篤な眼の損傷、遺伝性疾患を引き起こす可能性、神経系の障害、呼吸器への刺激などが挙げられます。

IARC発がん性リストではグループ1 (発癌性あり) に分類されている物質です。なお、コールタールは世界で最初に確認された発癌性物質と言われています。1916年、山極勝三郎と市川厚一は家ウサギの耳にコールタールを塗擦する実験を行い皮膚がんの発生を確認しました。

この実験は、世界ではじめての化学物質による人工での癌の発生例として知られています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0722.html

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