クエン酸鉄とは
クエン酸鉄とは、クエン酸を酸化させて、鉄と塩を作ったものです。
酸化の程度によりクエン酸第一鉄とクエン酸第二鉄が存在します。鉄分は人間の身体にとって必須のミネラルであり、不足すると貧血の原因となります。人間は、主に食物から体内に鉄分を吸収しますが、その時の鉄分は「ヘム鉄」「非ヘム鉄」という状態で食物中に存在しています。
しかし、近年は鉄分を効率よく吸収するために非ヘム鉄の吸収を高めたキレート鉄の鉄分サプリが開発され、注目を集めています。キレート鉄は鉄分の吸収を高める効果があるアミノ酸やクエン酸と、非ヘム鉄を結合させることで作られます。キレート鉄の中でもクエン酸と結合させたクエン酸鉄は、比較的手頃に合成できることから注目されています。
クエン酸鉄の使用用途
クエン酸鉄の使用用途は主に下記の通りです。
1. 鉄欠乏性貧血などの治療薬としてのクエン酸鉄
クエン酸鉄は、赤血球の生成に必要な鉄を補給するために
鉄欠乏性貧血などの治療薬やサプリメントとして使用されています。鉄イオンの酸化数によって2価のクエン酸第一鉄と3価のクエン酸第二鉄があり、それぞれ体内での挙動や作用機序が異なります。
クエン酸第一鉄は消化器官から吸収されやすく、体内でリンを吸着した後も排出されにくいため、主に鉄欠乏性貧血の治療に用いられます。体内の鉄分を補い、ヘモグロビンの生成を促進することで貧血の改善を図ります。
2. 高リン酸血症の治療薬としてのクエン酸鉄
一方、クエン酸第二鉄は消化器官から吸収されづらく、リンを吸着した後も排出されやすいため、高リン酸血症の治療に使用されます。有機鉄が体内のリンの濃度を調整することで、慢性腎不全などの病気によって引き起こされる高リン酸血症を改善することができます。消化器官でリンを吸着したまま排泄させることを目的として、クエン酸鉄は高リン酸血症の治療に用いられます。
リン結合能が高いクエン酸第二鉄を主成分とする製剤は、消化器官内で食物由来のリン酸と結合し、リン酸鉄を生成します。リン酸鉄は水に溶けないため、体内で吸収されずに排泄されます。この作用を利用して、高リン血症の治療に用いられます。
以上のように、クエン酸鉄は鉄欠乏性貧血や高リン酸血症などの治療薬として、それぞれ異なる作用機序を持って使用されています。
3. 肥料としてのクエン酸鉄
鉄は植物の光合成や呼吸において重要な役割を果たす栄養素の一つです。しかし、土壌中に含まれる鉄は植物が吸収できない形で存在することが多く、植物は根から分泌されるクエン酸を使って鉄イオンと錯体を形成し、吸収しやすいクエン酸鉄として吸収することが知られています。
クエン酸を含む施肥を行うことで、栄養素不足の土壌での植物の生育を保つことが期待されます。実際にクエン酸の施用試験がいくつかの作物で行われ、栄養素不足の土壌での生育が改善されることが確認されています。これにより多くの作物が栽培でき、収穫量が増加することが期待されます。
クエン酸鉄の構造
図1. クエン酸第一鉄の構造式
クエン酸第一鉄は、クエン酸イオンと2価の鉄イオンで構成された配位錯体です。配位結合とは一方の原子 (イオン) から他方の原子 (イオン) に電子を供給することによってできる結合で、共有結合の一種とみなされます。配位結合によって生じた化合物を総称して錯体といいます。
図2. クエン酸鉄の錯体
クエン酸第二鉄はクエン酸イオンと3価の鉄イオンで構成された配位錯体です。クエン酸に含まれるヒドロキシ基 (水酸基) のいずれかが鉄イオンと結合してさまざまな配位錯体を形成します。クエン酸第一鉄の結晶は1種類の構造を持ちますが、クエン酸第二鉄の結晶は複数の形態をもちます。
図3. クエン酸第二鉄の構造式
クエン酸鉄のその他情報
1.クエン酸鉄の安全性情報
クエン酸鉄は、一部の人に副作用を引き起こすことがあります。報告されている副作用には、食欲不振、悪心、嘔吐、発疹、かゆみ、光線過敏症などがあります。これらの症状が現れた場合は、すぐに担当医や薬剤師に相談することが大切です。。また、労働安全衛生法では「名称を表示及び通知すべき危険物及び有害物」とされています。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/KAG_DET.aspx?joho_no=29879