アクリル酸エチルとは
アクリル酸エチル (英 : Ethyl Acrylate) とは、アクリル酸エステルに分類される有機化合物です。
常温では無色透明の液体で、水に溶けにくい性質です。揮発性が高く、エステル臭と言われる特徴のある刺激臭を有します。アクリル酸エチルは、塗料、接着剤、繊維加工、樹脂合成など、幅広い分野で活用される化学物質です。高い反応性を持つため、合成試薬としても重要な役割を果たします。一方で、引火性が高く、健康や環境への影響もあるため、安全対策を徹底することが重要です。
アクリル酸エチルの使用用途
アクリル酸エチルは、幅広い産業分野で利用される汎用性の高い化合物です。以下のような使用用途があります。
1. コーティング剤や塗料
アクリル酸エチルを含むポリマーは、透明性が高く、耐久性や耐水性に優れているため、自動車塗装、建築塗料、金属コーティングなどに利用されます。
2. 接着剤・粘着剤
強力な接着性を持つポリマーを作れるため、木材、プラスチック、紙、金属 などの接着に使われます。
3. 繊維加工・仕上げ剤
布地の耐久性や防水性を向上させるために利用されます。
4. 合成樹脂・アクリルゴム
アクリル酸エチルを共重合させることで、プラスチック製品やゴム製品の特性を改善できます。特に、軽量で透明な樹脂材料の改質剤としての役割があります。
5. 医薬品・化粧品分野
特定の化学成分の合成試薬として広く使用されています。
アクリル酸エチルの性質
アクリル酸エチルの性質を以下に示します。
- 分子式 : C₅H₈O₂
- 分子量 : 100.12 g/mol
- 外観 : 無色の液体 (20℃、1気圧)
- 臭い : 刺激臭
- 融点 : -71.2℃
- 沸点 : 99.4℃
- 引火点 : 8℃
- 比重 : 約92 g/mol (25℃)
- 溶解性 : 水に5g/100mL。ジメチルスルホキシドに微溶、クロロホルムに可溶、エタノール・エチルエーテルに混和。
- 密度 : 0.9234g/mL (20℃)
1. アクリル酸エチルの合成

実験室でのアクリル酸エチルの合成方法は、酸触媒存在下におけるアクリル酸とエタノールのエステル化反応が一般的です。アクリル酸の化学式はCH2=CHCOOHで、もっとも簡単な不飽和カルボン酸です (IUPAC命名法 : 2-プロペン酸 (2-propenoic acid)) 。工業的なアクリル酸の合成法は、プロピレンの酸化が用いられます。また、レッペ反応が用いられることもあります。レッペ反応とは、アセチレン、一酸化炭素、およびエタノールから、臭化ニッケル (II) を触媒として合成する方法です。
保管中に発生したラジカルによって自然にポリマー化してしまうことを防ぐため、市販品には、通常ハイドロキノン系の重合禁止剤が添加されています。
2. アクリル酸エチルの反応

具体的な反応例は、以下の通りです。
エステル交換反応
酸性または塩基性触媒存在下で高級アルコールと同種のアクリル酸エステルを合成します。
マイケル付加反応
ルイス酸触媒存在下では、アミンと反応しβ-アラニン誘導体を高収率で生成します。
ホモポリマー及びコポリマーの形成
反応性モノマーとして重合や共重合が可能です (コポリマーを形成する化合物: エチレン、アクリル酸とその塩、アミド、エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、マレイン酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)。
Diels-Alder反応
ジエノフィルとして反応します。一例として、シクロヘキセンカルボン酸エステルの合成反応が挙げられます。この反応は、アクリル酸エチルと1,3-ブタジエンとの[4+2]環状付加反応です。
アクリル酸エチルの種類
産業用の大型容量製品や、化学分野における試薬用途の小型製品があります。製品の規格や流通形態を以下に示します。
- 試薬用の小型製品 : 1g、5g 、25g 、50g 、100g 、100mL 、500mL 、1Lなど
- 産業用製品 : 15kg缶、180kgドラム缶、ローリーなど
アクリル酸エチルのその他情報
1. アクリル酸エチルの安全性情報
アクリル酸エチルは、下記の危険性が指摘されているため、正しく取り扱うことが重要です。
- 眠気又はめまいのおそれ
- 長期又は反復ばく露による神経系、呼吸器の障害
- 水生生物に毒性
ラットとマウスでの実験により発がん性も示唆されていますが、ヒトで発がん性があるかどうかはまだ結論が出ていません。
2. 各種法令
- 労働安全衛生法 : 通知対象物 (政令番号 3) 、表示対象物 (政令番号 3)
- 化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) : 1-3 (98%)
- 消防法 : 危険物第4類、第1石油類非水溶性液体