アクリル酸エチルとは
図1. アクリル酸エチルの構造
アクリル酸エチル (Ethyl Acrylate) とは、アクリル酸エステルの一種である有機化合物です。
EAと省略形で表記されることもあります。常温において、無色透明の液体であり、水への溶解度は1.5g/100mLです。揮発性を呈し、エステル臭と言われる果実などの香りに似た強い匂いを有します。
化学式はCH2=CHCOOC2H5であり、分子量は100.1、CAS No.は140-88-5です。引火性があるため、消防法では危険物第4類 第1石油類 非水溶性液体として指定されています。
アクリル酸エチルの使用用途
アクリル酸エチルは、反応性が高いことから、各種化学反応の反応剤として汎用性の高い化合物です。そのため、他のアクリル酸エステル一般と同様に、広範な産業分野において製品原料として活用されています。
具体的には、繊維処理剤、粘接着剤、塗料、合成樹脂、アクリルゴム、エマルジョン等の原料です。更に、皮革や紙などの加工剤や自動車部品、衣料、マスカラなどへも応用されています。また、種々の医薬品中間体の合成試薬として広く活用されています。
その他、香料としても使用が可能です。自然界では、パイナップルおよびボーフォールチーズの揮発性成分として検出されています。
アクリル酸エチルの原理
アクリル酸エチルは、融点-76.5℃、沸点80.5℃、引火点-3℃、密度0.953〜0.959g/mL (20℃) の物質です。アクリル酸エチルの原理を合成方法と反応の観点から解説します。
1. アクリル酸エチルの合成方法
図2. アクリル酸エチルの合成方法
実験室などにおけるアクリル酸エチルの一般的な合成方法は、酸触媒存在下におけるアクリル酸とエタノールのエステル化反応です。アクリル酸はもっとも簡単な不飽和カルボン酸であり、化学式はCH2=CHCOOHです (IUPAC命名法では2-プロペン酸 (2-propenoic acid)) 。アクリル酸の工業的合成法は、プロピレンの酸化が挙げられます。
工業的には、レッペ反応及びその改良反応を用いて合成されることもあります。アセチレン、一酸化炭素、エタノールを原料とし、臭化ニッケル (II) 触媒によって合成を行う方法です。
そのままでは保管中に発生したラジカルによってポリマー化してしまうため、市販品には、通常ヒドロキノンやヒドロキノンモノメチルエーテルなどの重合禁止剤などが添加されています。
2. アクリル酸エチルの反応
図3. アクリル酸エチルの各種反応
アクリル酸エチルの具体的な反応例は、以下の通りです。
- 高級アルコールとのエステル交換反応 (酸性または塩基性触媒存在下) による同種のアクリル酸エステル合成反応
- マイケル付加反応
- 反応性モノマーとしてホモポリマー及びコポリマーの形成
(コポリマーを形成する化合物: エチレン、アクリル酸とその塩、アミド、エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、マレイン酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等) - Diels-Alder反応 (ジエノフィルとして反応)
特に、ルイス酸触媒存在下では、マイケル付加でアミンと反応し、高収率でβ-アラニン誘導体が生成します。また、Diels-Alder反応の例として、シクロヘキセンカルボン酸エステルの合成反応が挙げられます。この反応は、アクリル酸エチルと1,3-ブタジエンとの[4+2]環状付加反応です。
アクリル酸エチルの種類
アクリル酸エチルには、産業用の大型容量製品や、試薬用途の小型製品があります。化学分野における試薬用の小型製品の主な容量規格は、1g, 5g, 25g, 50g, 100g, 100mL, 500mL, 1L等です。産業用製品では、15kg缶、180kgドラム缶、ローリーなどの荷姿で流通しています。
アクリル酸エチルのその他情報
アクリル酸エチルの安全性情報
アクリル酸エチルは、下記の危険性が指摘されているため、正しく取り扱うことが重要です。
- 眠気又はめまいのおそれ
- 長期又は反復ばく露による神経系、呼吸器の障害
- 水生生物に毒性
- 長期的影響により水生生物に毒性
ラットとマウスでの実験により発がん性も示唆されていますが、ヒトで発がん性があるかどうかはまだ結論が出ていません。
尚、各種法令では、下記の通り定められています。
- 労働安全衛生法 通知対象物 政令番号 3表示対象物 政令番号 3
- 化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) 1-3 (98%)