塩化金酸とは
塩化金酸とは、3価の金を含む黄金色ないし赤黄色の針状結晶です。
塩化金酸は、テトラクロロ金酸 (英: tetrachloroauric(III) acid) や金塩化水素酸 (英: hydrogen aurichloride) とも呼ばれます。通常は、四水和物 (HAuCl4・4H2O) として存在します。
塩化金酸は、腐食性があるなど毒性が強い物質です。劇物にも指定されているため、取り扱いには注意が必要です。
塩化金酸の使用用途
塩化金酸は、金属としての利用の他に、陶磁器の着色、ルビーガラスの製造、金メッキ、インキ、ガラス着色など、装飾用途でも広く利用されています。そのほか、写真感光材や医療品、アルカロイド用試薬、触媒、金粉、金ナノ粒子等の製造なども使用用途の1つです。
金メッキや金ナノ粒子など、塩化金酸を使用した生成物は、導電性や安定性が高いことが特徴です。そのため、電子材料の電極等といった用途に使用されることもあります。
塩化金酸の性質
塩化金酸は、水に極めてよく溶けます。アルコールやエーテルにも可溶です。塩化金酸は水に溶けると、テトラクロリド金 (III) 酸イオンである[AuCl4]−を生じます。水溶液中では加水分解して[AuCl3OH]–を生じるため、酸性を示します。
塩化金酸には潮解性があり、加熱によって分解して塩化金 (III) と塩化水素が生じます。保管や取り扱いの際には湿度にも注意が必要です。
塩化金酸の水溶液は橙黄色です。塩化金酸の水溶液に光を当てると、分解して紫色の金コロイドが析出します。
塩化金酸の構造
塩化金酸は3価の金のクロリド錯体であり、化学式はHAuCl4です。溶液中のテトラクロリド金 (III) 酸イオンである[AuCl4]−は、四配位の平面四角形を取っています。
塩化金酸の四水和物は、オキソニウムイオンを含んだ淡黄色の針状結晶です。化学式ではH3O+AuCl4−・3H2Oと表されます。
塩化金酸の無水物のモル質量は339.785g/mol、四水和物のモル質量は411.85g/molであり、四水和物の密度は3.9g/cm3です。
塩化金酸のその他情報
1. 塩化金酸の合成法・反応
塩化金酸は、金を王水に溶かすか、金を塩酸中で塩素と反応させることで生成します。この水溶液を蒸発析出させると、四水和物が得られます。
塩化金酸を加熱すると、塩素 (Cl2) 、塩化水素 (HCl) 、金 (Au)に分解します。具体的には、熱するとAuCl3やAuClを経由して分解し、強熱すると塩素が発生してAuが残ります。
2. 塩化金酸塩の特徴
塩化金酸塩の具体例として、塩化金酸ナトリウムや塩化金酸カリウムなどが挙げられます。それ以外にも、アルカリ土類金属の塩、アンモニウム塩 (NH4) 、コバルト塩 (Co) 、ニッケル塩 (Ni) なども知られています。
3. 塩化金酸ナトリウムの特徴
塩化金酸とナトリウムの塩の化学式は、Na[AuCl4]です。塩化金酸ナトリウムは、金塩とも呼ばれています。通常の塩化金酸ナトリウムは二水和物です。金を王水に溶かして生じたHAuCl4溶液に、塩化ナトリウム (NaCl) を加えると生成します。
塩化金酸ナトリウムの二水和物は、黄色の斜方晶系結晶であり、平面正方形型の[AuCl4]−を含んでいます。金-塩素結合 (Au–Cl) の距離は、およそ2.28Åです。塩化金酸ナトリウムは水に可溶です。
加熱するとCl2を失って、Na[AuCl2]が生じます。塩化金酸ナトリウムは、写真、陶器、ガラスなどの着色や電解金めっき液だけでなく、他の金化合物の製造原料として利用されます。塩化金酸カリウムも、塩化金酸ナトリウムに似た性質を有する塩です。
4. 塩化金酸の危険性
塩化金酸を吸入した際には、鼻、喉、気管支などの粘膜を刺激します。皮膚に触れた塩化金酸を放置すると、赤色の斑点が皮膚に残るほか、塩化金酸が眼に入ると、粘膜を激しく刺激します。
それに加えて無機金塩類は、強い酸化作用や腐食性があるため、比較的危険性が高いです。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/16903-35-8.html