シクロヘキサンとは
図1. シクロヘキサンの基本情報
シクロヘキサンとは、ベンゼンの水素付加等によって生成されるシクロアルカンの一種です。
ヘキサメチレンやヘキサヒドロベンゼンとも呼ばれます。シクロヘキサンはガソリンに似た臭気がある無色の液体です。広く溶剤として利用されています。
シクロヘキサンの分子式はC6H12、分子量は84.16であり、沸点は80.74°C、密度は0.779g/mLです。シクロヘキサンには、いす形、舟形、半いす形、ねじれ舟形と呼ばれる立体異性体が存在し、いす形が最も安定です。
シクロヘキサンの使用用途
シクロヘキサンは、ナイロンの合成中間体であるカプロラクタムやアジピン酸の原料として利用されており、ナイロンの製造に最も多く利用されています。シクロヘキサンの日本国内生産量はおよそ300トン、工業消費量はおよそ100トンです。
その他にも、塗料、エーテル、ワックス、ゴム用の溶剤、油脂抽出、ペイントおよびワニスの除去剤、溶剤型接着剤、エアゾール接着剤に使用され、多くの用途があります。溶剤としては、合成・洗浄等の用途の他に、液体クロマトグラフ分析用溶離液等、分析用途としても広く使用可能です。
シクロヘキサンの性質
シクロヘキサンは極性溶媒には溶けにくく、有機溶媒には溶けやすいです。シクロヘキサンは揮発性が強いため、極めて引火しやすいです。麻酔作用を有するため、取り扱いには注意しなければいけません。
例えば、長期間シクロヘキサンが皮膚などに触れ続けた場合には、皮膚炎のような病気を引き起こす可能性があります。吸引した際には、低濃度では頭痛を、高濃度では意識障害を招きます。とくに低濃度では、ほぼ臭いがないため注意が必要です。
シクロヘキサンの構造
図2. シクロヘキサンの立体配座
シクロヘキサンの立体配座の中で最も安定なのはいす形で、ねじれ舟形、舟形、半いす形の順です。
置換基を持つシクロヘキサン環の場合には、置換基のかさ高さによって立体障害が起こるため、他の配座の方が安定になることもあります。
シクロヘキサンのその他情報
1. シクロヘキサンの合成法
工業的に大部分のシクロヘキサンは、パラジウム触媒やニッケル触媒を使って、ベンゼンを接触水素添加することで生産されています。石油改質の過程で生じるメチルシクロペンタンは、触媒を使用しシクロヘキサンに転化して、利用することも可能です。
工業的に得られるシクロヘキサンは、シクロヘキサノールやシクロヘキサノンに転化されて、最終的にはε-カプロラクタム、ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸などに変えられます。これらの化合物は、6-ナイロン (英: Nylon 6) や6,6-ナイロン (英: Nylon 66) の原料として用いることが可能です。
2. シクロヘキサンの環反転
図3. シクロヘキサンの環反転
シクロヘキサンやシクロヘキサン型構造を有する環状化合物のいす型立体配座では、環平面に対して平行方向と垂直方向の置換基が区別されます。環平面に対し平行方向をエクアトリアル (英: equatorial) 、環平面に対し垂直方向をアキシアル (英: axial) と呼びます。エクアトリアルは「赤道方向の」を表し、アキシアルは「極、軸位」などの意味です。
環を形成するそれぞれの結合軸で自由回転するため、シクロヘキサンはふね型立体配座を経由して、2つのいす型立体配座が互いに入れ替わります。これを環反転と言います。環反転によって、エクアトリアルはアキシアルの向きに、アキシアルはエクアトリアルの向きに変わることが可能です。
3. かさ高い置換基を持つシクロヘキサン環
置換基同士の距離は、アキシアル型の方がエクアトリアル型よりも接近しています。かさ高い置換基を持つシクロヘキサン環の場合には、立体配座の安定性に影響を与えるため、置換基がアキシアル型を避けて、エクアトリアル型を取る立体配座が優位になることも知られています。