偏光顕微鏡

偏光顕微鏡とは

偏光顕微鏡

偏光顕微鏡 (英: Polarized Optical Microscope) とは、光の偏光を選択して観測する光学顕微鏡です。

理科の実験で使用する光学顕微鏡は、物質に当てて反射した全ての光を接眼レンズに通して観察しています。光は進行方向に対して垂直な方向に電場と磁場が振動する波です。電場の振動方向が規則的な光を偏光と呼びます。偏光顕微鏡では物質から反射した特定方向に振動する偏光を観察します。

直線偏光を物質に当て、偏光状態の変化を色や明暗として観察することができます。偏光を選択し、顕微鏡で観測すると、物質の状態や成分を特定することが可能です。

偏光顕微鏡の使用用途

偏光顕微鏡は、もともと鉱物の状態や成分を知るために使用されていましたが、現在では、高分子やバイオテクノロジーなどの開発現場でも使用されています。偏光状態の変化は、分子配向や結晶構造を反映しているため、高分子の内部構造を評価できます。さらに、温度調節機器と組み合わせることで相転移挙動の観察が可能です。

偏光顕微鏡を使用した大きな発見の1つに液晶があります。液体でありながら固体のような分子配列を持つ液晶は、偏光顕微鏡の観察で初めて確認され、今日の液晶テレビなどの開発に繋がりました。

また、生体物質などは液晶と同等の状態や分子構造を持っているものが多く、今後も医療や製薬の分野で偏光顕微鏡が活躍していくと考えられます。

偏光顕微鏡の原理

偏光顕微鏡には、光の偏光を選択するフィルターが用いられており、試料の光学特性を反映した光学顕微鏡像が得られます。

1. 偏光顕微鏡の構成

通常の光学顕微鏡は、光源、試料ステージ、対物レンズなどから構成されています。光源から放たれた光が物質に当たり、その光が対物レンズに入って接眼レンズから観察できます。偏光顕微鏡の原理も基本は光学顕微鏡と同じですが、異なるのは光源と試料の間にポラライザー (偏光子) 、対物レンズと接眼レンズの間にアナライザー (検光子) と呼ばれる2枚の偏光板が設置されている点です。

光源から出る光は、全方位を含む蛍光灯などと同じ自然光です。この光をポラライザーに透過させることで偏光に変え、観察対象となる物質に当てます。物質を透過したときに向きが変化した偏光は、ポラライザーに対して直角にしたクロスニコル配置のアナライザーを通過し観察できるようになります。

2. 偏光顕微鏡の画像

偏光顕微鏡で屈折率に異方性のない試料を観察した場合は、ポラライザーから出た直線偏光の偏光状態は変化せず、アナライザーを透過できないため、接眼レンズから観察した際の視野は暗い状態です。

偏光方向に応じて屈折率が異なる性質 (複屈折性) を有する試料を観察した場合は、入射する直線偏光の振動方向が試料の光軸と一致しているとき、入射光の偏光状態は変化せず、上記と同様に暗視野となります。一方、入射光の振動方向と試料の光軸が異なるとき、入射光は試料の複屈折性により2つの偏光成分に分かれ、その合成成分は、試料透過前の偏光状態と異なる状態です。偏光状態が変化することにより、光がアナライザーを透過して明視野となります。

偏光顕微鏡像が色づいて見えるのは、試料の複屈折性により2つに分かれた光の光路差によるものです。偏光顕微鏡では、試料の光軸に対して偏光を当てる角度を変えるため、物質を置いたステージが360°回転することができます。

偏光顕微鏡のその他情報

偏光顕微鏡の応用

偏光顕微鏡は、結晶ドメインやその向きまで調べることができるため、他の光学測定法と組み合わせて用いることができる手法です。

1. 蛍光測定
偏光顕微鏡は、蛍光測定と組み合わせて使用できます。通常の蛍光測定では、結晶ドメインのさまざまな位置や向きからのアンサンブル情報です。しかし、結晶ドメインの向きによって光学特性が変わるため、結晶方向を特定できる偏光顕微鏡が活躍します。偏光顕微鏡を用いて、入射光に特定方向の偏光を持つレーザーを入射し、特定方向の偏光情報の発光を観測することができます。

2. 時間分解測定
偏光顕微鏡は、時間分解分光法と組み合わせて使用することもできます。通常の時間分解分光法は、結晶ドメインのさまざまな位置や向きからのアンサンブル情報ですが、偏光顕微鏡により結晶ドメインの向きや位置を決めて、吸収や発光の時間分解分光測定が可能になります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です