金属顕微鏡とは
金属顕微鏡とは、射型顕微鏡あるいは落射型顕微鏡とも呼ばれており、光学顕微鏡の1種です。
一般的に、工業用顕微鏡と言われているものの多くは金属顕微鏡を指しています。「金属」と名前が付けられていますが、金属・鉱石・セラミック・半導体などの光を通しにくい試料の表面が観察対象です。金属顕微鏡では、試料から反射する光を用いて拡大された観察像を得ます。
同じように試料からの反射光で観察するものとして実体顕微鏡がありますが、両者の違いは以下の通りです。
金属顕微鏡と実体顕微鏡の比較
金属顕微鏡 | 実体顕微鏡 | |
拡大倍率 | 数十~数百倍 | 数~数十倍 |
解像度 | 高い | 低い |
被写界深度 | 浅い | 深い |
観察対象 | 平滑面 | 立体 |
照明方法 | 落射照明 | 任意 |
金属顕微鏡の使用用途
金属顕微鏡は、金属組織や合金を始めとして、セラミックス、半導体やプラスチック系の電子部品、岩石や鉱石の観察などに使用されています。具体的な使用用途は、以下の通りです。
- 金属の鋳造や精錬、冶金などの現場で、原材料の物理的あるいは熱的処理前後の状態変化の観察。
- プラスチックや半導体製品などの加工現場で、実体顕微鏡では確認できない微細なへこみや傷などの不具合の点検。
- 精密機械工業や電気・電子工業などの生産現場での品質管理。
- 金属組織学、鉱物学などの研究あるいは教育。
金属顕微鏡の原理
図1. 透過照明と反射照明で観察した同一視野のイメージ
透過照明観察と反射照明観察の一番大きな相違点は、透過で暗く見える部分が反射では明るく見えるということです。従って、生物顕微鏡では見えなかった情報が金属顕微鏡により補えます。微生物や細胞などを観察する通常の光学顕微鏡 (生物顕微鏡) は試料を透過してきた光を対物レンズと接眼レンズとによって拡大するため、透過型光学顕微鏡とも呼ばれています。
図2. 落射照明光学系 (偏光観察仕様)
金属顕微鏡も光学顕微鏡の1種なので、生物顕微鏡と大まかな構造は同じですが、光が透過できない試料を高倍率で観察するための独自構造を持っています。それが対物レンズを通して照明する「落射照明光学系」です。この光学系では光源から放出された光がハーフミラーで反射され、対物レンズを通って観察試料に到達し、試料からの反射光が対物レンズと接眼レンズを通って人の目で観察されます。
金属顕微鏡の選び方
金属顕微鏡には10万円以下で購入できるポータブルなものから、レンズセットや撮影装置などのオプションを含めれば数百万円の価格となる大型のものまで、様々なタイプがあります。金属顕微鏡を選ぶ場合は、まず使用目的を明確にすることが大切です。実際に選択する際は、以下の点を考慮します。
- 試料表面が下向きの方が良い場合、あるいは試料の交換を迅速に行いたいのであれば、鏡体が試料の下にある倒立型を、そうでない場合は正立型を選ぶと良いです。
- 試料の光学的異方性など、偏光特性の観察を目的とする場合は、偏光フィルターセットが標準で付属する偏光顕微鏡を選択します。
- 透過照明観察も行いたい場合は透過・反射照明を瞬時にワンタッチで切り替えできるものが最適です。
- 観察イメージの写真・動画撮影を頻繁に行いたい場合は、カメラを取り付けたままで双眼観察のできる3眼タイプが最適です。
- 100倍を超えるような高倍率で試料を正確に移動させたい場合は、メカニカルステージやXYステージなど、目的に応じたステージを選択します。
金属顕微鏡のその他情報
1. 主な光学フィルタ類
金属顕微鏡にも生物顕微鏡と同様のフィルター類が用意されており、試料の光学的特性を詳細に観察するのに役立ちます。
色温度変換 (LB) フィルター
照明の光源に用いるランプの種類によって色温度が変わるため、観察する試料の色は光源により変わってしまいます。光学顕微鏡では試料の色が重要な観察要素の一つです。
文献などに書かれてる色との比較を正しく行うためには、同じ色温度で観察する必要があります。そこで、最も普遍的な光源である太陽光と同じ色温度にするために用いられるのが色温度変換フィルタ-です。
色補正 (CC) フィルター
色補正 (CC) フィルターは、光の三原色である赤・緑・青、あるいは色の三原色であるシアン・マゼンタ・イエローそれぞれの光の強度を調整することで、色の微妙な調整を行うものです。
偏光フィルター
偏光フィルターは光源の直後 (試料の前) に入れるポラライザーと試料と接眼レンズの間に入れるアナライザーのセットです。ポラライザーを通った偏光が、試料によって反射された際の偏光状態の変化をアナライザーにより判定します。
試料の結晶構造などにより偏光状態が変化するため、偏光フィルターを用いることで結晶の光学的特性や高分子の内部構造を知ることができます。
2. 金属顕微鏡用試料の調整
金属顕微鏡で観察する場合、試料表面を平滑に仕上げて、対物レンズからの光が垂直に入射されるようにセットしなければなりません。反射光での顕微鏡観察では、試料表面の傷などでは強いコントラストが得られますが、結晶の光学的方位の違いやわずかな組成の違いなどは判別できないことが多いです。
そのため、加工しなくても表面が平滑なもの以外は、観察前に試料を切断・研磨したり、見えにくい微細組織を見えやすくするエッチング処理などが必要となる場合もあります。
研磨片の作成
試料を適切な大きさに切断して研磨するためには、ダイヤモンドカッターや研磨装置を用います。 また、鉱物の研究などで、透過照明観察と反射照明観察の両方を切り替えながら作業を行いたい場合は、研磨薄片という特殊な研磨片が必要です。研磨片の作成はある程度自動化できますが、研磨薄片の作成には十分な経験と知識が必要となります。
エッチング処理
図3. 硝酸によるエッチングで現れた閃亜鉛鉱中の成長模様
本来はあるはずの結晶粒界や微細な構造が見えない場合、試料表面のエッチングにより解決できる場合が多々あります。エッチングには酸などによる化学的な方法と電解による方法があります。
参考文献
https://www.olympus-lifescience.com/ja/support/learn/03/043/