リン酸型燃料電池とは
リン酸型燃料電池 (英: Phospheric Acid Fuel Cell)とは、電解質にリン酸水溶液を用いる燃料電池のことです。
都市ガスやLPガスを改質して得られる水素を燃料として、発電を行う装置です。固体高分子型燃料電池と同様に1970年代という比較的古くから開発が行われ、早期に製品化されたことから他の燃料電池と比較して実績や信頼性の面で優れています。
一方、他の方式と比較して単位体積当たりの発電効率に劣ること、白金触媒を用いているため比較的高コストなのがデメリットです。また、基本的に200℃程度の高温で動作させますが、低温で動作させる場合は一酸化炭素による被毒に注意が必要なことなどが課題として挙げられます。
リン酸型燃料電池の使用用途
図1. ガス種を切り替えて発電する仕組み
リン酸型燃料電池は、信頼性と耐久性の面では非常に優れている燃料電池です。そのため、病院、ホテル、オフィスビル、下水処理場などに導入された実績が既にあります。弱点である発電効率の低さをカバーするため、据置型の電源として主に用いられます。
燃料電池パッケージには、燃料電池本体のほか、発電した直流電流を交流電流に変換するインバーター、燃料を水素に改質する改質装置、冷却装置、制御装置が含まれます。100kW程度の発電力を持った製品が実用化されており、都市ガスや工場運転に伴う副生成物である炭化水素を改質した水素を供給することによって発電を行う仕組みです。
発電は200℃程度の高温で行われますが、多くの製品では排熱を温水プール等の熱供給源として使用する、コジェネレーションシステムの仕組みが取り入れられています。今後、都市ガスやLPガスから改質した水素だけでなく、各工場から副生成物として発生する水素を利用して発電することで、よりコストを下げることが期待できます。
また、ガスを水素に改質して発電するため、災害などにより都市ガスかLPガスのどちらかの供給が停止しても、ガス種を切り替えて発電を継続することが可能です。
リン酸型燃料電池の原理
図2. リン酸型燃料電池の発電の仕組み
リン酸型燃料電池は、水素が酸化され水が生成する際に発生する化学エネルギーを電気に変換することによって起電力を得ます。
1. 天然ガスの改質
原料に都市ガスを使用する場合、脱硫及び水蒸気改質、一酸化炭素の酸化のプロセスを経て高純度の水素が燃料極に供給されます。脱硫は、Ni, Mo系などの脱硫触媒を用いて天然ガス中の硫黄分を反応性の高い硫化水素 (H2S) に変換し、酸化亜鉛 (ZnO) で吸着除去する方法です。
脱硫した蒸気を、触媒の存在下で水蒸気と反応させることで、水素と一酸化炭素になります。触媒はニッケル系や、ルテニウム系のものが用いられます。この反応は吸熱反応のため、熱の供給が必要です。一般的には、余剰水素を燃焼させた熱を利用します。
ここで生じる一酸化炭素は白金触媒の被毒 (触媒の反応サイトに吸着し、触媒反応効率を低下させること) を引き起こす物質ですが、200℃付近で動作させるため固体高分子型燃料電池よりも一酸化炭素の許容濃度が高いです。
2. 発電
燃料極に供給された水素は白金触媒下で酸化されて水素イオンと電子となり、電解質であるリン酸水溶液中へと供給される一方、空気極側では空気中の酸素が電子を受け取り水素イオンと反応し、水が生成します。この時電子が外部回路を移動するため、電力を取り出すことが可能です。
この電池によって得られる起電力は、1.23Vとリチウムイオン電池等と比較すると低くなっています。一般的に施設用電源として用いるには200V程度の電圧が必要なため、複数のセルをスタックして使用します。
リン酸型燃料電池の構成
図3. リン酸型燃料電池の構成
燃料極はリン酸で腐食されにくく、気体を通しやすい多孔質のカーボンを用います。電解質はリン酸水溶液を用います。
電解質を燃料極、空気極が挟み込み、セパレータで各々のセルを隔てる構造です。また、燃料極及び空気極には白金触媒が担持されています。