ガンダイオードとは
ガンダイオードとは、マイクロ波帯の発振器などに用いられるダイオードの一種です。
ガン効果を利用したダイオードを指します。主に用いられるのがN型のガリウムヒ素 (GaAs) で、GaAs結晶に直流電界を加えていき、ある閾値を超えるとマイクロ波領域で発振が起きることを物理学者のJ.B.Gunnが発見しました。そのために、この現象はガン効果と呼ばれています。
ガンダイオードは負性抵抗となる領域を持っており、この効果を用いてマイクロ波の発振器などに用いられます。ここでの負性抵抗とは、電圧が増加すると電流が減少する電気的な特性のことです。
ガンダイオードの使用用途
ガンダイオードは、ガン効果を用いたマイクロ波領域で発振器レーダー向けの用途が一般的です。
ガンダイオードをキャビティや導波管内にマウントして直流電圧を加えると、結晶の厚みに応じて固有振動で発振します。構造は比較的簡単ですが、周波数の安定度がVCOやPLLで制御する通常のマイクロ波の制御方式と比べてよくないため、通信以外にドップラー効果を用いた速度センサー向けに使用される場合が多いです。
身近な使用用途としては、野球のスピードガンや、速度取り締まり用のレーダーなどが挙げられます。
ガンダイオードの原理
ガンダイオードは、2つのエネルギーバンドを有する半導体結晶において、臨界電界を超えた電圧を加えたときに、エネルギー準位の高いバンドに電子が高速に遷移した際に生じるマイクロ波帯域の発振現象を活用しています。GaAs結晶のエネルギーバンド図は、波数に対するエネルギーのグラフを書いた際に、底のエネルギー、波数値が異なる2つの伝導帯を持ちます。
電圧をかけると電流が流れますが、この電流を担う電子は伝導帯にいる電子です。通常伝導帯の底のエネルギーが低いほうに電子が多く存在し、電圧が高くなるにつれエネルギーの高い伝導帯にも電子がうつるようになります。ある一定の電圧を超えた時に、低いレベルの伝導帯の電子が高いレベルの伝導帯に移動し、その結果で移動度が減少する現象が発生します。
この現象により、ある電圧を超えた時に電圧を上げても、見かけ上の電子の移動度すなわち電流値が下がる現象が発生し、負性抵抗の特性を持ちます。電圧をさらに上げていくと、低いレベルの伝導帯の電子が高いレベルの伝導帯にうつりきり、再び電流が増加していきます。
この際に、急激な電子の高速移動が雪崩的に生じて、マイクロ波帯域で起こるのが発振現象がです。一般のVCO (電圧制御発振器) においては、トランジスタのインピーダンス整合を活用した負性抵抗を活用していますが、ガンダイオードは半導体結晶の固有のエネルギーバンドをうまく活用しています。
ガンダイオードのその他情報
1. 速度センサーへの活用
ガンダイオードの代表的な用途の速度センサーは、一般にドップラー効果という物理現象を用いています。ドップラー効果とは、高速で移動する物体に照射した電磁波の反射波は、照射したもとの周波数と見かけ上の周波数が変わって観測されるという原理です。
GaAs結晶におけるガンダイオードの周波数は約10GHzであり、この周波数変動差分から照射した物体の速度を算出しています。ちなみに、この周波数の変動差分は物理用語で「うなり」と表現されており、野球のスピードガンや自動車の速度計測用の100km台の速度計測に関しては10GHzの周波数に対する変動分は非常に小さい割合になります。
2. サブテラヘルツ周波数への展開
サブテラヘルツ用周波数発振器の研究材料としてもガンダイオードや類似のインパッドダイオード、および共鳴トンネルダイオードが、研究機関において現在注目されています。Beyond5G/6Gや光通信分野のサブテラヘルツ周波数への応用に伴い、比較的簡易にサブテラヘルツ周波数の電磁波を生成可能な2端子デバイスであることから、研究開発がなされている状況です。
参考文献
https://detail-infomation.com/gunn-diode/
https://sunatsubu.at.webry.info/201607/article_3.html