PCRプレートとは
PCRプレートとは、PCR実験を行う際に反応容器として用いるプラスチック製実験器具です。ウェル(穴)と呼ばれる窪みに試料を入れ、PCR反応を行います。
PCRチューブを用いる場合と比べて、サンプル数が比較的多い、中規模~大規模実験の場合に用いられます。32ウェルプレート、48ウェルプレート、96ウェルプレート、384ウェルプレートなど、様々な大きさのものがあり、形状や、色なども、様々な種類があります。また、自動化プロセスを利用することができるのもプレートの特徴です。
PCRプレートの使用用途
図1. PCRプレートとPCRの原理
PCRとは、polymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の頭文字をとった略語であり、DNAポリメラーゼを使用して短時間に対象のDNA配列を1コピーから数百万コピーまでに増幅する手法です。具体的には、下記1〜3の一連の反応を「サイクル」と呼び、25〜35サイクルを繰り返します。
- 変性:2本鎖DNAテンプレートを加熱し、DNA鎖を分離させます
- アニーリング:プライマと呼ばれる短いDNA分子を、標的DNAの隣接領域に結合させます
- 伸長:DNAポリメラーゼが、各プライマーを起点として3′末方向に向かってテンプレートの相補鎖を合成します
PCRにおいて、温度サイクルおよびインキュベート時間を自動制御するのに用いられる装置がサーマルサイクラーです。正しくPCRプレートを選択するためにも、自分の使用するサーマルサイクラーや機器の仕様を正しく理解しておくことが必要です。
また、PCRにはスタンダードPCR、グラジエントPCR、リアルタイムPCR/qPCRなどの様々な種類があり、目的に合わせて適切なPCRを選択する必要があります。同時に実験の種類に合わせて実験器具・試薬を適切に準備することも重要です。
PCRプレートの構造
図2. 96ウェルPCRプレートの各部の名称
1. ウェル部分の構造
材質は、一般的にポリプロピレンが用いられています。ポリプロピレンは化学的に不活性であるため、熱サイクル中の温度の急激な変化に耐え、反応成分の吸収も最小限に抑えることができます。効率良い熱伝導のため、管壁は均一で薄くなるように製造されています。ウェルの色は、透明、半透明、白色などの種類があります。
製造にあたっては、埃や、エンドヌクレアーゼ、パイロジェン、DNAなどの不純物が含まれることの無いよう、清潔な製造環境が用意されます。これは、製造中に製品が汚染されると、不純物が残存してPCRを阻害したり、DNA断片が非特異的増幅のテンプレートとなったりして、実験精度の低下が起きるためです。
2. プレート部分の構造
32ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェルなど、様々なサイズのプレートがあります。96ウェルプレートの中には、24ウェルずつ(稀に8ウェルや32ウェル)に分割できるようになっているものもあります。また、フレームの色には様々なものがあり、同時に複数のプレートを使用する場合、異なる色のものを使い分けることで、モニタリングがしやすくなります。
スカートとは、プレートを取り囲むパネルのことで、形状はノンスカート、セミスカート、フルスカートの3種類があります。また、プレート表面の周辺部位はデッキと呼ばれ、フラットデッキとレイズドデッキがあります。プレートの角の加工処理にはノッチという名前がついています。
シーリングにはキャップまたはフィルムを用います。プレートの大きさや、サンプル数、開閉頻度などに合わせて選択することが重要です。
PCRプレートの選び方
図3. PCRプレート / 部材の種類の例
1. ウェル部分
まずは、実験の種類に合わせて選択することが大切です。例えば、ウェルが透明の製品は、内容物の確認が容易ですが、ホワイトの製品は蛍光がウェル外に屈折拡散するのを防ぐ効果があるため、qPCRの感度が上昇します。
ウェルの容量サイズが反応液量に合ったものを使用することもまた重要です。反応液量が多すぎる場合には、熱伝導が十分でなかったり、反応液が漏れたりする可能性がありますが、一方、反応液量が不足する場合には、反応液の蒸発や、サンプルの消失が起こる恐れがあります。一般的に、ウェルの容量サイズは、96ウェルプレートの場合は0.2 mLまたは0.1 mL、384ウェルプレートの場合は0.02 mLであることが多いです。
また、自分の使用するサーマルサイクラーやその他機器に合ったものを使用することも大切です。ウェルの高さは、通常の高さのもの(スタンダードプロファイル)の他に、高さが低いもの(ロープロファイル)の2種類があります。ロープロファイル製品は、Fastサーマルブロックに対応しています。また、空間領域が小さいため、熱伝導率が高くなります。
2. プレート形状
使用するサーマルサイクラー等の機器の仕様に合わせて選択することが必要です。特に、ロボットプラットフォームを用いて自動化する場合は用途にあったものを選ばなければなりません。
例えば、セミスカート及びフルスカートプレートには側面があるのでロボットグリッパーで掴むことができ、更に、ハイスループット実験での記録と追跡に用いるバーコードを付けることが可能です。また、自動化用プレートには強力なポリカーボネートフレームで構成されたものを選ぶことが必要です。
なぜなら、ロボットグリッパーからかかる力や、急速な加熱・冷却に耐えなければならないためです。これらのプレートにおいても、反応液への効率的な熱伝導のためウェル部分は均一で薄いポリプロピレンである必要があります。
フラットデッキは、ほとんどのサーマルサイクラーに適合するデザインですが、一部のサーマルサイクラーや機器ではレイズドデッキが適合します。また、使用する機器により適したノッチの位置も異なっています。
ウェルの位置を示すレタリングには、隆起レタリングと彫刻レタリングがあります。隆起レタリングの方が見やすい反面、自動化する場合には確実に周縁部をシーリングできる彫刻レタリングの方がより適しています。
参考文献
https://www.n-genetics.com/products/search/detail.html?product_id=3879
https://www.bio-rad.com/ja-jp/category/pcr-plates?ID=N5WAKA15
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/qpcr-basic47/