三酸化モリブデン

三酸化モリブデンとは

三酸化モリブデン (英: Molybdenum trioxide) とは、モリブデンの酸化物で、組成式MoO3で表される物質です。

CAS登録番号は、1313-27-5であり、別名は、酸化モリブデン(Ⅵ)です。モリブデン化合物の中で最も大規模に生産されている物質である他、天然には鉱物 (モリブダイト) として産出します。

三酸化モリブデンの使用用途

三酸化モリブデンの主な使用用途は、 触媒、金属モリブデン・モリブデン塩原料、金属表面処理剤、防錆剤、潤滑剤、セラミックス添加剤、焼結金属添加剤、難燃剤・減煙剤などです。耐熱性や強度が極めて高いため、他の金属に三酸化モリブデンを添加することで耐熱性や強度を高めことができます。

三酸化モリブデンが添加されている金属にはステンレス鋼や鉄鋼などがあります。これらの金属の主な使用用途は、自動車の部品や船舶用部品、切削工具材料、石油やガス等のパイプライン用などです。

また、クロム、炭素、モリブデンを混合した金属をクロムモリブデン鋼と呼びます。クロムモリブデン鋼は硬度や耐摩耗性に優れており、一般的な工具や自動車などの機械部品に用いられています。化学工業用途としては、石油脱硫触媒、水素化分解触媒、酸化触媒、顔料・試薬、肥料、防錆剤などの用途があります。

三酸化モリブデンの性質

三酸化モリブデンの基本情報

図1. 三酸化モリブデンの基本情報

三酸化モリブデンは、分子量143.94、融点995℃、沸点1,155℃であり、常温常圧で白色もしくは緑灰色の固体です。密度は4.69g/mL、アンモニア水及び水酸化アルカリ溶液に溶け、水に溶けにくい性質があります。不燃性の物質です。

三酸化モリブデンの種類

三酸化モリブデンは、研究開発用試薬製品や、産業用材料製品などとして販売されています。幅広い用途があるため、製品展開も様々な種類があります。

1. 試薬製品

試薬製品としては、5g、25g、100g、500gなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。通常、室温で保管可能な試薬製品です。また、通常の試薬製品以外には、電子顕微鏡用のTEM回折試料などの製品があります。

2. 産業用材料

産業用材料としては、鉄鋼用添加剤や、顔料、着色料、触媒など、様々な用途を想定した種類があります。粉末やブリケットなど、様々な形状で提供されている産業素材です。

三酸化モリブデンのその他情報

1. 三酸化モリブデンの合成

三酸化モリブデンの合成

図2. 三酸化モリブデンの合成

三酸化モリブデンは、工業的には二硫化モリブデン加熱の焙焼、すなわち加熱によって合成されています。実験室的製法では、モリブデン酸水溶液と過塩素酸の反応によって合成されることが一般的です。

2. 三酸化モリブデンの化学反応

三酸化モリブデンと水素の反応とモリブデン酸イオンの構造

図3. 三酸化モリブデンと水素の反応とモリブデン酸イオンの構造

三酸化モリブデンの二水和物は容易に水和水を失って、一水和物を生成する物質です。三酸化モリブデンが水に溶けるとモリブデン酸になり、塩基に溶かすとモリブデン酸イオンを生じます。

また、三酸化モリブデンは、高温条件で水素と反応させることにより単体のモリブデンを生成します。この反応は、鋼鉄などに添加される金属モリブデンの製造に利用される反応です。

3. 三酸化モリブデンの有害性と法規制情報

三酸化モリブデンは、次のような有害性が指摘されています。

  • 強い眼刺激
  • 呼吸器への刺激のおそれ
  • 発がんのおそれの疑い
  • 生殖能又は胎児への悪影響のおそれの疑い
  • 長期にわたる、又は反復ばく露による呼吸器、生殖器 (男性) の障害
  • 長期にわたる、又は反復ばく露による腎臓の障害のおそれ
  • 水生生物に有害
  • 長期継続的影響によって水生生物に有害

三酸化モリブデンは、これらの有害性により、各種法令によって規制されている化合物です。たとえば、労働安全衛生法では、名称等を表示すべき有害物質、危険性または有害性等を調査すべき物、などに指定されている他、PRTR法で第一種指定化学物質に指定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1313-27-5.html

三酸化ヒ素

三酸化ヒ素とは

三酸化ヒ素 (英: Arsenic trioxide) とは、ヒ素の酸化物で、化学式As2O3で表される物質です。

三酸化二ヒ素と呼ばれることもあり、CAS登録番号は1327-53-3です。天然には方砒素華、クロード石などの鉱物としてわずかに存在しますが、非常に強い毒性があります。

具体例として、土呂久鉱山では過去に三酸化ヒ素の鉱石によって多数の死者が出たという事件が挙げられます。

三酸化ヒ素の使用用途

三酸化ヒ素は非常に強い毒性を持つため、殺鼠剤、殺虫剤や、農薬として使用されてきた歴史があります。虫歯や白血病治療薬にも用いられてきましたが、副作用として慢性ヒ素中毒やガンにかかることが多く、近年では使用が減少しつつあります。

工業的には金属ヒ素やヒ素化合物を製造する際の原料として用いられる物質です。その他には、触媒、ガラスの脱色、脱硫剤、顔料、染料製造、媒染剤、魚網・皮革の防腐剤、散弾用鉛の硬化剤、半導体製造におけるドーピングや、結晶育成原料などの用途を挙げることができます。

三酸化ヒ素の性質

三酸化ヒ素の基本情報

図1. 三酸化ヒ素の基本情報

三酸化ヒ素は、分子量197.841、融点312.2℃、沸点465℃であり、常温常圧において無色無臭の固体です。昇華性があるため、強く加熱すると酸化ヒ素 (III) のガスを発生します。このガスは強い溶血作用を持つ性質があります。

密度は3.74g/mL、水への溶解度は20g/L (25°C)です。アルコール、クロロホルム、エーテルに溶けず、グリセリンに溶解します。水に溶かすと水和して亜ヒ酸 (As(OH)3) となり、弱酸性を示します。酸解離定数pKaは、9.2です。

三酸化ヒ素の種類

三酸化ヒ素は、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類には、10g、25g、50g、100g、250g、1kgなどの種類があり、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。室温で保管可能な試薬製品として扱われます。

毒物及び劇物取締法における毒物であるため、購入・保管には所定の手続きが必要です。

三酸化ヒ素のその他情報

1. 三酸化ヒ素の合成

三酸化ヒ素の合成

図2. 三酸化ヒ素の合成

三酸化ヒ素は、硫化ヒ素を空気中で加熱する酸化反応によって得ることができます。実験室的製法では、三塩化ヒ素の加水分解によって得ることが可能です。

2. 三酸化ヒ素の化学反応

三酸化ヒ素の化学反応

図3. 三酸化ヒ素の化学反応

三酸化ヒ素は、両性酸化物であり、酸とも塩基とも反応します。また、フッ化水素や塩化水素と反応して、それぞれフッ化ヒ素や塩化ヒ素を与えます。オゾン、過酸化水素、硝酸などの強い酸化剤によって酸化され、この反応の生成物はヒ酸もしくは五酸化二ヒ素です。

3. 三酸化ヒ素の有害性

三酸化ヒ素は、非常に毒性の強い化合物です。GHS 分類では、「急性毒性 (経口) : 区分2」「 眼に対する重篤な損傷・眼刺激性: 区分2A-2B」「生殖細胞変異原性: 区分2」「発がん性: 区分1A」「生殖毒性: 区分1A」などに分類されています。

具体的な危険としては、下記のものが挙げられます。

  • 飲み込むと生命に危険
  • 強い眼刺激
  • 遺伝性疾患のおそれの疑い
  • 発がんのおそれ
  • 生殖能又は胎児への悪影響のおそれ
  • 消化管、心臓、骨格筋、呼吸器の障害
  • 長期又は反復ばく露による中枢神経系、末梢神経系、免疫系、呼吸器、肝臓、腎臓、皮膚、血管の障害

4. 三酸化ヒ素の法規制情報

三酸化ヒ素は前述の有害性により、毒物及び劇物取締法で毒物に指定されている物質です。それ以外にも、労働安全衛生法では、名称等を表示すべき危険有害物、及び、名称等を通知すべき有害物質、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物、特定化学物質第2類物質、管理第2類物質、 特定化学物質特別管理物質に指定されています。

PRTR法では、第一種指定化学物質に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが厳しく求められる化合物です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0055.html

三塩化リン

三塩化リンとは

三塩化リンの基本情報

図1. 三塩化リンの基本情報

三塩化リンとは、化学式がPCl3で表されるリンの塩化物です。

三塩化リンは600ppmでも数分で死に至るほど、毒性や危険性が高いです。GHS分類で、眼刺激性、皮膚刺激性、急性毒性 (経口) 、特定標的臓器毒性 (単回、反復ばく露) に分類されています。

三塩化リンの法規制は、労働安全衛生法で名称等を表示・通知すべき危険物および有害物に指定されています。リスクアセスメントを実施すべき危険有害物に該当しており、毒物・劇物取締法では毒物です。

三塩化リンの使用用途

三塩化リンの使用用途は幅広いです。例えば、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、殺虫剤、除草剤、水処理剤、界面活性剤などに用いられます。有機合成で有機ホスフィン配位子の導入剤や医薬中間体原料に使用可能です。

三塩化リンは、最も安価で多用途に用いられる3価のリン化合物です。そのため多くのリン化合物の出発原料に用いられています。難燃剤や可塑剤として広く利用される塩化ホスホリルのほか、医薬・有機合成の塩素化剤として広く用いられる五塩化リンなどの原料に利用されます。

三塩化リンの性質

三塩化リンの加水分解

図2. 三塩化リンの加水分解

三塩化リンには刺激臭があり、さまざまな金属を腐食します。融点は−112°C、沸点は74〜78°Cで、無色または黄色の発煙性液体です。

エーテル、ベンゼン、四塩化炭素などに可溶です。水と激しく反応し、塩化水素が発生して、ホスホン酸になります。三塩化リンはNH3でP(NH2)3に、ROHでP(OH)3に、O2で塩化ホスホリル (POCl3) に、Sで塩化チオホスホリル (PSCl3) になります。

三塩化リンの構造

三塩化リンの分子量は137.33g/molで、密度は1.574g/cm3です。塩素原子の酸化数は−1価、リン原子の酸化数は+3価を取っています。

四塩化炭素中では0.8Dの双極子モーメントを有し、液体の標準生成エンタルピーは−319.7kJ/molです。三塩化リンの分子は、リン原子を頂点とした三方錐型構造を取っています。P-Clは2.039Åで、∠Cl-P-Clは100.27°です。

三塩化リンのその他情報

1. 三塩化リンの合成法

工業的には、黄リンや白リンに塩素を吹き込んで得られる三塩化リン溶液を加熱還流して、三塩化リンを合成する方法が知られています。実験室では、毒性が低い赤リンを用います。

2. 三塩化リンを用いたホスフィンの合成

有機リチウム試薬やグリニャール試薬を用いた置換反応によって、三塩化リンから多種多様な有機ホスフィン化合物を合成可能です。例えば、グリニャール試薬 (RMgX) との反応によって、トリアルキルホスフィン (PR3) が生じます。

3. 三塩化リンとアルコールの反応

三塩化リンの反応

図3. 三塩化リンの反応

トリエチルアミンなどの塩基の存在下で、エタノールと反応して亜リン酸トリエチルが得られます。塩基が存在しないときには、クロロエタンとホスホン酸ジエチルが生じ、反応条件次第で塩化アルキルと亜リン酸を与えます。フェノールと反応すると、亜リン酸トリフェニルを生成可能です。

4. 三塩化リンとアミンの反応

2級アミンとの反応によって亜リン酸トリアミドが生成し、チオールが反応するとトリチオ亜リン酸トリアルキルを合成可能です。ホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドを使用して、2級アミンとの反応によりアミノホスホン酸が合成できます。アミノホスホン酸は、水質改善のために、水垢防止剤や金属封鎖剤として利用可能です。

5. 三塩化リンのその他反応

三塩化リンは芳香環と置換反応が起こります。具体的には、ベンゼンと反応すると、PhPCl2を合成可能です。非共有電子対を持っている三塩化リンは、ルイス塩基としても働きます。ルイス酸であるBBr3と1:1付加物のBr3B-PCl3+を生成可能です。Ni(PCl3)4などの金属錯体も知られています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7719-12-2.html

三フッ化ホウ素

三フッ化ホウ素とは

三フッ化ホウ素 (英: Boron trifluoride) とは、ホウ素のフッ化物の1種で、化学式BF3で表される無機化合物です。

無水和物の他、一般的には二水和物があります。それぞれCAS登録番号は、7637-07-2と13319-75-0です。

粘膜に対して刺激性を持つ気体であるため、取り扱いには注意が必要です。ジエチルエーテルと形成する錯体は液体であり、しばしばルイス酸として用いられます。

三フッ化ホウ素の使用用途

三フッ化ホウ素の主な使用用途は、触媒 (ルイス酸触媒など) 、半導体製造用途 (ドーピング用) 、重合開始剤、光ファイバー製造用途などです。

1. 触媒

三フッ化ホウ素はアンモニアやジエチルエーテルなどのルイス塩基と容易に複合体を形成し、ルイス酸触媒として有機合成分野で用いられる物質です。触媒する反応には、例えば異性化やアルキル化、エステル化、縮合反応などの反応があります。

特に、ジエチルエーテルとの錯体は蒸留が可能なほど安定であり、市販もされている物質です。

2. 半導体製造

三フッ化ホウ素は、半導体製造の分野では、イオン注入におけるドーパントや、エピタキシャル成長されたシリコンがP型半導体となる際のドーパントとして利用されています。ドーパントとは、半導体に混入させる不純物です。

三フッ化ホウ素は、電子機器や光ファイバーなどに用いられる半導体を製造する際にドーピング源として利用されています。

3. 重合開始剤

三フッ化ホウ素は、重合開始材としても利用されています。重合開始剤としての三フッ化ホウ素は、ビニルフェノールやその誘導体の重合をする際に、限定した分子量分布で重合を行うことができる重合開始材です。

また、三フッ化ホウ素を用いることでリビング重合性を有したカチオン重合を実現することができます。

三フッ化ホウ素の性質

三フッ化ホウ素の基本情報

図1. 三フッ化ホウ素の基本情報 

三フッ化ホウ素は、分子量67.82、融点-126.8℃、沸点-100.3℃であり、常温では無色の気体です。なお、二水和物の分子量は103.837であり、常温では無色の液体です。

密度は0.00276g/mL (二水和物は1.64g/mL) であり、水に溶解する他、プロパン、ペンタン、ケロセン、ナフサ、クロロホルム、ベンゼン、ニトロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの各種有機溶媒に溶けます。分子構造はホウ素原子に3つのフッ素原子が結合し、正三角形状に並んだ構造です。

三フッ化ホウ素の分子構造

三フッ化ホウ素の分子構造は正三角形状であり、共有結合は強く分極しています。ただし、分子自体は非極性です。これはホウ素原子がsp2軌道を取っており、分子が3回対称であるためです。

三フッ化ホウ素の種類

三フッ化ホウ素は、産業用高圧ガスとして販売されている他、メタノール錯塩 (メタノール溶液) としては研究開発用試薬製品としても販売されています。

1. 高圧ガス製品

産業用高圧ガス製品は、半導体製造、医薬中間体合成触媒、重合触媒等の用途を想定して販売され、1kg、30kgスチール製ボンベや300kgカードルで提供されます。保管、使用にあたっては高圧ガス保安法、毒劇法の規定に従う必要があります。

2. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品は、メタノール錯塩 BF3・CH3OHとして販売されています。5mL、100mL、250mL、500mL、25g、100g、400gなど、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。通常室温で保管可能な試薬製品として取り扱われます。通常の試薬グレードの他、ガスクロマトグラフ用など分析用のグレードの製品も存在するため、用途に合わせて選択することが必要です。

三フッ化ホウ素のその他情報

1. 三フッ化ホウ素の合成

三フッ化ホウ素の合成

図2. 三フッ化ホウ素の合成

三フッ化ホウ素は、工業的には酸化ホウ素とフッ化水素の反応で合成されます。実験室スケールでは、テトラフルオロホウ酸のジアゾニウム塩の分解や、テトラフルオロホウ酸ナトリウムとフッ化水素酸と硫酸を用いた反応などにより合成されています。

2. 三フッ化ホウ素の反応性

三フッ化ホウ素の化学反応の例

図3. 三フッ化ホウ素の化学反応の例

三フッ化ホウ素は、腐食性がある物質です。ステンレス鋼やモネル、ハステロイなどは、水蒸気の存在下で腐食されます。ポリアミドとの反応性もありますが、テフロンやポリプロピレンなどは腐食されません。

ホウ素は電子不足であり、化学反応においてはルイス酸として働く物質です。例えば、フッ化物と反応してテトラフルオロホウ酸塩を生成します。また、他のハロゲン化ホウ素とは異なって加水分解を受けます。加水分解による生成物は、ホウ酸とホウフッ化水素酸です。

3. 三フッ化ホウ素の法規制情報

三フッ化ホウ素は、毒物及び劇物取締法における毒物です。その他、労働安全衛生法で名称等を表示すべき有害物質などに指定されており、PRTR法では第一種指定化学物質です。さらに、消防法では、貯蔵等の届け出を要する物質に指定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7637-07-2.html

一酸化ケイ素

一酸化ケイ素とは

一酸化ケイ素 (英: Silicon monoxide) とは、組成式がSiOで表される化合物です。

星間分子として検出でき、宇宙には酸化ケイ素として多量に存在すると考えられています。分子雲同士の衝突などによる衝撃波が生じた場所で、星間分子として見つかっています。

一般的に販売されている固体の一酸化ケイ素は、近年の研究によって、ケイ素と二酸化ケイ素の混合物だと明らかになりました。一酸化ケイ素は消防法や労働安全衛生法などの国内法規によって指定されていません。

一酸化ケイ素の使用用途

一酸化ケイ素はリチウムイオン二次電池の負極材料として注目されています。一酸化ケイ素を負極材料として用いると、従来のケイ素系負極材料であるケイ素などと比べて放電時の体積膨張率が低く、高容量の電池として繰り返し利用可能です。

一酸化ケイ素をリチウムイオン二次電池の負極材料として利用するため、一酸化ケイ素を炭素と均一に混ぜる、一酸化ケイ素を炭素でコーティングするなどの研究が進められています。

一酸化ケイ素の性質

一酸化ケイ素は気体で二原子分子として存在し、急速に冷えると茶色や黒のアモルファス固体を形成します。融点は1,702°Cで、沸点は1,880°Cです。ケイ素の酸化数は+2です。

一酸化ケイ素は、すぐにケイ素と二酸化ケイ素に不均化します。室温で空気によって容易に酸化して、材料を酸化から保護するSiO2表面層を与えます。

一酸化ケイ素の固体は黄褐色で、電気や熱の絶縁体です。固体は酸素中で燃焼します。水によって分解し、水素を放出します。温かい水酸化アルカリやフッ化水素酸に可溶です。一酸化ケイ素の燃焼熱は、ケイ素と二酸化ケイ素の平衡混合物の燃焼熱よりも200〜800カロリー高いと報告されており、一酸化ケイ素が混合物とは異なる化合物である証拠です。

一酸化ケイ素の構造

一酸化ケイ素のモル質量は44.0849g/molで、密度は2.13g/cm3です。ケイ素原子と酸素原子が1:1の割合で結合している化合物です。2016年に一酸化ケイ素はケイ素と同様の構造を取る部分と、二酸化ケイ素と同様の構造を取る部分で構成されることが明らかになりました。

ヘリウムで冷却するとアルゴンマトリックスに一酸化ケイ素がトラップされます。Si-O結合長は148.9pmであり、二酸化ケイ素の結合長に近く、一酸化炭素に見られる三重結合性は確認されません。

一酸化ケイ素の2〜4量体は、(Si-O)nと表される環状構造を有し、Si-Si結合を持っています。(Si-O)nは400〜800°Cでは数時間で、1,000〜1,440°Cでは急速に不可逆的にSiとSiO2へ不均化します。

一酸化ケイ素のその他情報

1. 一酸化ケイ素の合成法

1887年に初めてチャールズ・F・メイベリー (英: Charles F. Maybery) によって、シリカを木炭で還元するとガラス質の光沢を持つ一酸化ケイ素が形成されました。

ケイ素と二酸化ケイ素を熱すると、気体の一酸化ケイ素が生じます。原料の二酸化ケイ素は、鉱物や鉱石から分離可能です。

高温で二酸化ケイ素を一酸化炭素や水素分子で還元しても、一酸化ケイ素は得られます。

2. 一酸化ケイ素の反応

塩素分子やフッ素分子とともに一酸化ケイ素を濃縮して、光を当てると、平面状分子のOSiCl2やOSiF2と直線状分子であるOSiSが生成します。OSiCl2のSi-O結合長は149pmであり、OSiF2のSi-O結合長は148pmです。OSiSのSi-O結合長は149pmで、Si-Sは190pmです。

マイクロ波放電によって、濃縮した一酸化ケイ素と酸素原子から二酸化ケイ素が生成します。二酸化ケイ素は直線状の構造を有します。

アルミニウム、ナトリウム、パラジウム、金、銀などの共沈殿によって、さまざまな三原子分子を合成可能です。具体例として、PdSiOやAlSiOのような直線状の三原子分子だけでなく、AgSiOやAuSiOのような非直線状の三原子分子のほか、NaSiOなどの環状の三原子分子が挙げられます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0561JGHEJP.pdf

リン酸亜鉛

リン酸亜鉛とは

リン酸亜鉛とは、化学式Zn3 (PO4) 2で表される化合物であり、亜鉛のリン酸塩です。

一般に無水物と四水和物の形で取り扱われています。別名は、ビスオルトリン酸三亜鉛、ピグメントホワイト32、リン酸三亜鉛です。リン酸亜鉛は、GHS分類において、生殖毒性、特定標的臓器毒性 (反復ばく露) 、水生環境有害性が認められています。

なお、リン酸亜鉛の法規制は、無水物、四水和物とともに毒物・劇物取締法において劇物に指定されています。

リン酸亜鉛の使用用途

1. リン酸亜鉛処理

リン酸亜鉛の使用用途として、亜鉛メッキや鋼材に対するリン酸亜鉛処理が挙げられます。リン酸亜鉛処理とは、鋼材などの金属表面に金属塩の皮膜を生成させる技術です。

リン酸亜鉛処理を行うことで、錆の生成防止、塗装塗膜の剥離防止などに効果があります。他のリン酸塩を用いた処理と比較して処理温度が低く、作業性が優れているのが利点です。

塗装下地として優れた性能を持つことから、特に高い耐食性が求められる自動車の塗装など、多くの工業用途に用いられている処理方法です。

2. 顔料

リン酸亜鉛は、防錆顔料として鉛やクロム系の顔料の代替として使用されており、現在では使用量が最も多い防錆顔料です。

比較的安定な物質で、塗料化した際の貯蔵安定性がよく、他の塗料よりも高濃度で使用することが可能です。また、中和作用が働いて酸性の腐食イオンを不活性化する効果があります。

各種溶剤系塗料の他、油性塗料、水溶性塗料、エマルジョン塗料など幅広く利用されています。

リン酸亜鉛の性質

リン酸亜鉛は、分子量386.13、CAS番号 7779-90-0で表される白色、無臭の個体です。融点は900℃以上で、引火点、沸点に関する情報はありません。水およびアルコールに不溶で、希鉱酸、酢酸、アンモニア、水酸化アルカリ溶液に可溶です。

混触危険物質、危険有害反応可能性、危険有害な分解生成物に関する情報はなく、比較的安定しています。

リン酸亜鉛のその他情報

1. 安全性

生殖能又は胎児への悪影響のおそれの疑いがあり、長期にわたる又は反復ばく露により血液系の障害が生じる恐れがあります。水生生物に非常に強い毒性があり、長期継続的影響によっても非常に強い毒性があります。

毒物及び劇物取締法において劇物に指定されています。取り扱い時は、購入した製品のSDS等の取り扱い情報の確認が必要です。

2. 応急処置

吸引、皮膚に付着した場合、眼に入った場合、飲み込んだ場合は、直ちに医師の診断および手当を受ける必要があります。漏出物は、保護具を着用し速やかに回収します。

肝傷害、分泌反応 (紅涙、流涙、流涎、鼻の分泌物) 、呼吸器症状などが発生した場合は、徴候症状の可能性が高いため特に注意が必要です。必要に応じて医師の診断を受けます。

3. 取扱方法

使用者は、保護眼鏡やゴーグルを着用し、必要に応じて保護マスクや呼吸用保護具、耐劣化性、耐透過性の保護手袋を着用します。また、大量に取り扱う際や、飛散する可能性がある場合は、保護衣、保護エプロン等を着用します。

作業場には、洗眼器と安全シャワーの設置が必要です。ばく露を防止するため、取り扱い場所の密閉化、または防爆対応の局所排気装置を設置します。

作業中は、飲食、喫煙を避け、作業後は手をよく洗います。粉じん、煙、ガス、ミスト、蒸気、スプレーを吸入しないように注意が必要です。

4. 保管

破損や漏れの無い密閉可能な容器を使用し、施錠して保管します。廃棄時は、関連法規ならびに地方自治体の基準に従い、許可を受けた産業廃棄物処理業者、もしくは地方公共団体が処理を行っている場合には、委託して処理します。委託する場合は、処理業者等に危険性、有害性の十分な告知が必要です。

漏出時は、環境中に放出しないよう適切な処置を行います。作業者は適切な保護具を着用し、物質を密閉式容器内に掃き入れ、残留物は注意深く集め、安全な場所に移動させます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7779-90-0.html

リン酸ジルコニウム

リン酸ジルコニウムとは

リン酸ジルコニウムは、酸性の化合物(CAS番号:13765-95-2、MITI番号:1-723)で、英語名はZirconium phosphateまたはZirconium bis (phosphate)、化学式はH3O4PZrと表記します。
白色の粉末で、水および有機溶媒にほとんど溶けませんが、酸には良く溶けます。加熱すると分解され、塩基性の溶液中で加水分解されます。

通常、リン酸ジルコニウムとは、ビス(リン酸)二水素ジルコニウム(IV)、トリス(リン酸)水素二ジルコニウム(IV)、テトラキス(リン酸)三ジルコニウム(IV)、テトラキス(リン酸)八水素ジルコニウム(IV)等の総称として使われています。
ビス(リン酸)二水素ジルコニウム(IV)(化学式:H2O8P2Zr、CAS番号:13772-29-7、MITI番号:1-723)において、化学物質管理促進法(PRTR 法)及び毒劇物取締法においては非該当、消防法では危険物に該当しない物質です。

リン酸ジルコニウムの使用用途

ジルコニウム化合物の一種であるリン酸ジルコニウムは、試験研究用試薬、封着材、吸着材、電解質材、イオン交換材等に利用されており、様々な用途に合わせた粒子に加工して用いる事が出来ます。

さらに、粒子を凝集したり、焼結したセラミックスとする利用法もあり、無機系抗菌剤、臨床透析器、イオン交換体などの用途で使用されています。

Fe、Co、Ni、Cu、Agを含む金属リン酸ジルコニウムを触媒として、アンモニアを分解することによって、水素を発生させることもできます。

リン酸アルミニウム

リン酸アルミニウムとは

リン酸アルミニウムとは、アルミニウムイオンとリン酸イオンからなる無機化合物です。

化学式AlPO4で表わされ、常温常圧で白色の粉末状固体です。天然に存在するリン酸アルミニウムは、ベルリン石という鉱石として扱われています。

リン酸アルミニウムは、アルミニウムイオンを含む水溶液に、リン酸イオンを含む水溶液を加え、結晶化させることで得られます。加熱により、酸化アルミニウムと五酸化二リンに分解する性質を持つ化合物です。

リン酸アルミニウムの使用用途

1. アルミナセラミック

リン酸アルミニウムは、アルミナセラミックの原料として用いられています。アルミナセラミックは硬度、耐熱性、耐食性、熱伝導性に優れており、電気伝導性が低いです。

電気伝導性が低い性質を活かして、電気絶縁部品を中心とした様々な機械部品の材料として利用されています。

2. セメント

リン酸アルミニウムは、歯科用セメントにも用いられています。酸や塩基への耐性を付与するだけでなく、圧力や張力への耐性も付与する効果があります。

3. バインダー

リン酸と水酸化アルミニウムから生産される第一リン酸アルミニウム (別名酸性リン酸アルミニウム) は、耐火物バインダー、鋳物砂用バインダーに利用されています。

第一リン酸アルミニウムは、化学式Al2O3・3P2O5・6H2Oで表わされる水溶性の酸性リン酸塩です。加熱脱水による縮合、高温加熱による結晶転移によって硬化結合する性質があります。バインダーの他、金属表面処理剤、防炎剤などにも利用されています。

4. その他

吸着剤、耐火レンガ、耐火コンクリート、ノンアルカリガラス、窯業の原料や、特殊コーティング剤に利用されています。

化学工業的には、高温下で無水酢酸を製造する際に使用されています。

リン酸アルミニウムの性質

リン酸アルミニウムは、分子量121.95g/mol、CAS登録番号は7784-30-7です。臭い関するデータはありません。

融点は450℃以上、沸点、引火点などに関する情報はなく、GHS分類において可燃性物質ではありません。

密度は、2.56 g/mL (25°C)、水への溶解度は6.92 grm/l (20°C) です。標準的な大気条件では化学的に安定ですが、強塩基類との接触を避ける必要があります。

リン酸アルミニウムのその他情報

1. 取扱い方法

GHS分類基準には該当せず、人体への毒性情報はありませんが、保護眼鏡および安全手袋を着用して作業を行います。ホコリが生じた場合は、フィルター式呼吸器保護具の着用が推奨されています。

可燃性物質には該当していませんが、可燃性有機物質及び製剤に概ね該当していることから、分散、舞い上がった場合は、粉じん爆発を起こす可能性があるため、換気が必要です。

取扱後はよく手を洗い、汚染された衣類は直ちに取り替え、作業場所以外に持ち出さないように注意します。

2. 応急措置

GHS分類では、人体への有害性を示されていませんが、人体に曝露した場合には、適切な処置が必要です。吸引した場合は、新鮮な空気を吸い、皮膚に付着した場合は汚染された衣類を直ちに脱ぎ、皮膚を水で洗い流します。眼に入った場合は、大量の水ですすぎます。

飲み込んだ場合は、水を飲ませ (多くても2杯) 、体調が回復しない場合は、医師への連絡が必要です。

3. 火災時の措置

水、泡、二酸化炭素粉末を使用して消火を行います。使用してはならない消火剤は無いため、周辺環境、現場状況に応じて適切な消火剤を使用して消火を行います。

火災時には、リン酸化物、酸化アルミニウムなどの可燃性物質や、有毒な燃焼ガス、蒸気を生じる危険性があることから、自給式呼吸器の着用が必要です。

4. 保管

乾燥した環境にて、密閉し、強塩基類と離れた場所で保管します。廃棄時、内容物及び容器は、関連法規及び各自治体の条例等の規制に従い、産業廃棄物として適切に処理を行います。

参考文献
https://www.audec.co.jp/products/pdf/msds_coat008.pdf

ラノリンアルコール

ラノリンアルコールとは

ラノリンアルコール (英: Lanolin Alcohol) とは、羊毛から採取できる油脂を精製した高級アルコールとステロールの混合物です。

ラノリンを加水分解することで得られる天然アルコールをラノリンアルコールと呼びます。別名として、ウールアルコール (英: Wool alcohol) やウールワックスアルコール (英: Wool wax alcohol) があります。

ラノリンアルコールの使用用途

1. 化粧品添加剤

ラノリンアルコールは、エモリエント効果を期待され、または乳化安定剤として、化粧品に添加されます。エモリエント効果とは、肌表面から水分が蒸発することを防ぎ、潤いを保って肌を柔らかくする効果のことです。ラノリンアルコールの他に、天然油脂や脂肪酸エステルなど疎水性の脂質成分が、主なエモリエント剤として知られています。

エモリエント効果を持つ成分の中でも、ラノリンアルコールは抱水性に優れます。疎水性でありながら水分を保持できるため、保湿性に優れた成分です。ラノリンアルコールは、30%以上のコレステロールを含み、分岐鎖アルコールを多く含むため、皮膚馴染みのよいクリームに仕上がります。

乳化性、およびエモリエント効果に優れたラノリンアルコールを化粧品に添加することで、べたつかずにさらっとした、キメの細かいテクスチャーが得られます。また、ラノリンアルコールを添加することで乳化が促進され、より流動性の高い液体にすることが可能です。

天然アルコールであるラノリンアルコールは、皮膚刺激性や眼刺激性をほとんど持たず、安全に使用できます。シャンプーやボディークリーム、ボディーソープ、スキンケア用品など、様々な化粧品の添加剤として用いられています。

2. 医薬品添加剤

ラノリンアルコールは、主に基剤や分散剤として、外用薬や舌下適用薬に添加されます。

ラノリンアルコールの性質

ラノリンアルコールのCAS番号は、8027-33-6で登録されています。淡黄色~黄褐色のロウ状または軟膏状物質で、融点45〜75℃の吸水性を持つ液体です。わずかに特異臭を持ち、味はありません。エタノールには容易に溶けますが、水には不溶です。

ラノリンアルコールは、直鎖アルコールやイソアルコール、アンテイソアルコールなどの脂肪族アルコール、コレステロールなどのステロール、ラノステロールやジヒドロラノステロールなどのトリテルペンアルコールの混合物です。脂肪族アルコール中では、分岐鎖アルコールが大部分を占めます。

乾燥させると、30%以上のコレステロールが含まれます。ラノリンアルコールは消防法などの国内法規に指定されていません。最大使用量は、一般外用剤では200mg/g、舌下適用では3.5mgとされています。

ラノリンアルコールの種類

ラノリンアルコールは、複数種類のアルコール混合物です。組成の異なるラノリンアルコールが各社で製造されており、「ラノリンアルコールA」や「ラノリンアルコールCSY」などの名称によって区別されています。

ラノリンアルコールのその他情報

1. ラノリンアルコールの製造方法

羊毛を特殊な界面活性剤の存在下、熱水で洗浄し、遠心分離することでラノリンが抽出できます。その後、得られたラノリンを加水分解することでラノリンアルコールが得られます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

皮膚炎がある場合、ラノリンアルコールを含む化粧品の塗布により炎症が悪化する可能性があります。ラノリンアルコールは、日本皮膚免疫アレルギー学会が選定するジャパニーズスタンダードアレルゲンの1つです。稀ですが、過敏反応やアレルギー反応を引き起こす恐れがあります。

ラノリンアルコールを含む化粧品または外用薬を使用していて炎症が表れた場合は、医師または薬剤師に相談してください。ジャパニーズスタンダードアレルゲンとは、日本人にアレルギー反応が起こる確率が高い原因物質のことです。

ラノリンアルコールの他に、硫酸ニッケルやエポキシ樹脂、ロジン、ウルシオールなど24種類の物質が指定されています。専門機関などで、アレルギーの有無を調べるために、パッチテストを行うことができます。

参考文献
https://cosmetic-ingredients.org/emulsion-stabilizer/1415/
https://www.jcia.org/user/public/knowledge/glossary/moisturizing
https://www.jscia.org/jpn_std_allergen2015.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000336088.pdf

ヨードベンゼン

ヨードベンゼンとは

ヨードベンゼンの基本情報

図1. ヨードベンゼンの基本情報

ヨードベンゼンとは、化学式がC6H5Iで表される有機ハロゲン化物です。

ベンゼンにヨウ素またはヨウ化硫黄と硝酸を加えて加熱すると、ヨードベンゼンを生成可能です。

GHS分類で、引火性液体、急性毒性 (経口) 、眼刺激性に分類されています。ヨードベンゼンは労働安全衛生法で名称等を表示・通知すべき危険物および有毒物に、消防法では「危険物第四類・第三石油類」に指定されています。市販品としてヨードベンゼンの入手は容易です。

ヨードベンゼンの使用用途

ヨードベンゼンは、有機化学で合成中間体として利用されます。とくにフェニル基は多くの天然化合物や有機化合物に含まれる構造であり、ヨードベンゼンを用いた反応は非常に有用です。

具体的には、マグネシウムとの反応によるグリニャール試薬 (英: Grignard reagent) の生成のほか、パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応 (英: Coupling reaction) の基質として使用されます。

ヨードベンゼンの性質

ヨードベンゼンの反応

図2. ヨードベンゼンの反応

ヨードベンゼンの融点は-29°Cで、沸点は188°Cです。無色〜赤褐色の明澄液体であり、揮発性や特異臭があります。時間が経過すると赤味を帯びます。有機溶媒によく溶解しますが、水には溶けません。

露光するとヨウ素が遊離します。金属ナトリウムとの反応で、ビフェニルを合成可能です。水酸化ナトリウムと熱すると、フェノールが生成します。

ヨードベンゼンの炭素-ヨウ素結合は、同じくベンゼンのハロゲン化物であるクロロベンゼンの炭素-塩素結合やブロモベンゼンの炭素-臭素結合よりも弱いです。そのため反応性が高く、目的の化合物にフェニル基を導入する際によく用いられます。

ヨードベンゼンの構造

ヨードベンゼンはベンゼンが持つ6個の水素原子の1個が、ヨウ素に置換された有機化合物です。モル質量は204.01g/molで、密度は1.831g/cm3です。

ヨードベンゼンのその他情報

1. ヨードベンゼンの合成法

ヨードベンゼンの合成

図3. ヨードベンゼンの合成

アニリンをジアゾ化して、ヨウ化カリウムを加える方法なども知られています。この方法はザンドマイヤー反応 (英: Sandmeyer reaction) と呼ばれ、銅塩を触媒に使用して、ハロゲン化アリールを芳香族ジアゾニウムイオンから合成する反応です。

まず、氷冷下で亜硝酸ナトリウムを芳香族アミンの塩酸溶液に加えると、ジアゾニウム塩が生じます。次に過剰量のヨウ化カリウムによって塩が交換され、温度を上昇させると窒素ガスが発生し、ヨードベンゼンが得られます。強塩基によって過剰な亜硝酸は分解し、酸性にして水蒸気蒸留するとヨードベンゼンを精製可能です。

2. 合成中間体としてのヨードベンゼン

ヨードベンゼンとマグネシウムの反応によって、フェニルマグネシウムヨージドが得られます。フェニルマグネシウムヨージドはグリニャール試薬の一種であり、合成化学的にはフェニルアニオンの合成等価体 (英: synthetic equivalent) です。したがってフェニルマグネシウムブロミドとフェニルマグネシウムヨージドは同等です。

3. ヨードベンゼンのカップリング反応

薗頭カップリング (英: Sonogashira coupling) やヘック反応 (英: Heck reaction) のようなパラジウム触媒-クロスカップリング反応の基質としてもよく利用されます。

薗頭カップリングは薗頭反応や薗頭・萩原カップリングとも呼ばれます。パラジウム触媒、銅触媒、塩基を用いて、ハロゲン化アリールと末端アルキンのクロスカップリングによって、アルキニル化アリールを合成する化学反応です。

ヘック反応は塩基存在下でパラジウム触媒によって、ハロゲン化アリールやハロゲン化アルケニルでアルケンが持つ水素原子を置換する反応のことです。溝呂木・ヘック反応とも呼ばれます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0243JGHEJP.pdf