MEMS発振器とは
MEMS発振器とは、MEMS構造の振動子を用いた電子機器に不可欠なクロック信号源を発生させる発振器のことです。
従来、発振器は水晶デバイスが一般的であり、現在でも多くの場合に水晶デバイスが用いられていますが、MEMS発振器は、MEMS (メムス:微小電気機械システム) 構造と呼ばれる薄膜微細加工プロセス技術で製造された振動子を共振箇所に活用した発振器です。
MEMS発振器の特徴として、小型なタイミング・デバイスにも使用できること、衝撃や振動の耐性に優れること、信頼性が高いことなどが挙げられます。これらは、従来のタイミング・デバイスと比べて高く評価されています。
MEMS発振器の使用用途
MEMS発振器は、タイミング信号やクロック信号を必要とする様々な電子機器に用いられています。具体的な使用用途は、携帯電話、パソコン、ウェアラブル端末、車載向けコネクティッド・デバイス、医療機器などの多岐にわたる電子機器です。
近年の5Gの導入による回線速度の向上やIoTの高まりなどを受け、自動運転やVR機器などの市場の拡大が予測されている分野でもあり、今後の出荷台数は顕著な伸びが期待されています。
MEMS発振器の原理
MEMS発振器の原理は、発振器の共振子の箇所にMEMSと呼ばれる振動子を用いて回路を構成している点にあります。MEMS (メムス:微小電気機械システム) と呼ばれる薄膜微細加工の技術を用いて製造されている振動子の部分は、チタンと比べて14倍以上の引張り強度をもった単結晶シリコンで作られており、動作する際は振動子の変位が周囲とのギャップ長と比べて、非常に微小な振動です。
このMEMS振動子の動作原理は、圧電効果を用いて圧電駆動を行う水晶デバイスとは異なり、静電解励起力によって駆動します。MEMS専用発振回路とMEMS振動子が相互に電気的に接続し、トータルとして発振維持を行う回路が作動することによって、MEMS振動子を機械的に、ある周波数に固定させた状態で振動させることが可能です。
水晶発振器と比べて、PLL (Phase Locked Loop) を用いて周波数を任意に設定することができる反面、回路の構成が複雑化することによる消費電力の増加が起こる懸念や、周波数ジャンプが影響して、ノイズ特性が劣化しやすいという欠点もあります。
MEMS発振器のその他情報
1. 水晶発振器との温度特性の比較
水晶発振器の構成は、水晶振動子とASICの発振回路の組み合わせが基本です。この場合、発振器の温度特性を補正するために用いる温度センサーがASIC上に作りこまれるため、補正すべき水晶振動子と温度センサーは離れた場所にあることが課題として挙げられます。
よって同一のチップ上に形成可能なMEMSでの温度センサーと比較すると、温度変化に対する発振周波数の変化分が大きくなってしまう可能性があります。
MEMS発振器は、温度変化に対する発振周波数の変化分が小さいだけでなく、質量が小さく、振動に対する特性変動も小さいのも利点です、
2. ノイズ特性
発振器のノイズ特性は、良質なアプリケーション特性の確保に向けて非常に重要な因子です。特に水晶発振器はMEMS発振器との比較において、水晶振動子の構造自体が非常にシンプルであるが故に、低いノイズ特性を得やすい利点があります。
しかしながら、MEMS振動子と比較して、質量が大きい分、振動時のジッタは発生しやすいです。よって適用したいアプリケーション環境によっては、MEMS発振器の方がノイズ特性面で適している場合があります。
3. 周波数偏差
MEMS発振器は、競合関係にあるセラミック発振器などと比較して、コスト対応力では劣る反面、非常に優れた発振周波数安定性を確保可能です。一般のセラミック発振器の場合には、周波数偏差は約1%程度と大きいために、適用されるアプリケーションにも制限があります。MEMS発振器はその種類によってはppmオーダーでの周波数偏差が実現可能であり、特徴の一つにあげられます。
参考文献
https://www.sitime.com/jp/technology/mems-oscillators/architecture
https://www5.epsondevice.com/ja/information/technical_info/pdf/white_paperj140911.pdf
https://www.rf-world.jp/bn/RFW52/samples/p101-102.pdf
https://www.kds.info/class/4-l-mems/?mlang=ja
https://www.mems-core.com/service/mems.html