アントラセンとは

アントラセン (anthracene) は、有機化合物の一種であり、ベンゼン環が3個縮合したアセン系多環芳香族炭化水素です。
分子式 C14H10、分子量178.23、融点218℃、沸点342℃であり、昇華性があります。常温では白色固体ですが、400–500nmにおいて紫の蛍光を発します。水に溶けにくく、水への溶解度は 0.00013g/100mL (20℃) です。エタノールやトルエンにも難溶ですが、熱トルエンには溶解します。CAS登録番号は120-12-7です。
アントラセンの使用用途
アントラセンは、アリザリン・インダンスレンなどのアントラキノン系染料をはじめとする、各種合成染料の原料です。また、染料中間体として重要なアントラキノンやカーボンブラック、なめし剤などの原料にも用いられています。
カーボンブラックの製造方法は、アントラセンなどの芳香族成分を豊富に含んだクレオソート油やエチレン残渣油などの石炭系・石油系重質油を用いるものです。アントラセンには、他にも、塗料、防虫剤、木材の防腐剤、除草剤、植物成長調整剤、蛍光色素、などといった用途が挙げられます。そのほか、三重項の増感剤または消光剤などの用途もあります。
アントラセンの原理
アントラセンの原理を製造方法と化学反応の観点から解説します。
1. アントラセンの製造方法

図2. アントラセンの主な合成方法
工業的には、石炭タールのアントラセン油留分から分離、精製することによって製造されています。また、実験室における主な合成方法は、アントラキノンの還元、塩化ベンジル2分子を塩化アルミニウムを触媒として縮合する反応、テトラブロモベンゼンとベンゼンの縮合反応などです。
2. アントラセンの化学反応

図3. アントラセンの様々な反応
アントラセンは、光反応性の化合物です。紫外光を当てると [4+4] 環化反応を起こして二量体が生成します。 この二量体は、加熱または300nm以下の波長の紫外線の照射によって、単量体へと戻すことが可能です。この可逆的な結合とフォトクロミックの性質が、アントラセンの特徴であり、様々な誘導体の応用の基礎となっています。
また、中央の環の反応性が高く、芳香族求電子置換反応は主に9,10位で起こります。容易に酸化され、酸化の生成物はアントラキノン (C14H8O2) です。還元によって9,10-ジヒドロアントラセンが生じます。また、一重項酸素とは、Diels-Alder反応によって、中央の環で[4+2]環化反応を起こします。
尚、ベンゼン環が折れ曲がって縮合した異性体であるフェナントレンの方が生成熱が大きいため、いわゆる安定な化合物であると言えます。
アントラセンの種類
アントラセンは、主に化学薬品・試薬として、販売されています。容量には、1g , 25g , 100g , 500gなどがあります。純度は、90% , 96% , 97% , 99%など、製品によって異なるため留意が必要です。室温保存可能な試薬であり、通常は常温試薬として販売されています。
重水素化誘導体である、アントラセンd-10も一部販売されています。これは、アントラセンの10個の水素をすべて重水素に置換したもので、重水素化合物のひとつです。GC-MS分析の内部標準として使用される用途が主流です。こちらに関しては冷蔵試薬として取り扱われることもあります。