遮蔽シートとは
遮蔽シートとは、熱・電磁波や放射線など、生体、電子装置への悪影響を遮蔽することができる特殊な素材でできたシートのことです。
遮蔽シートの厚みを増すことにより悪影響の遮蔽率が高くなります。用いる素材の材質によって、加工性などのシートの特性が異なるため、用途に合った遮蔽シートを用いることで高い効果を得ることが出来ます。
また、遮蔽する対象の形状に合わせるため、フィルムや、シール状の製品も作られ始めています。
遮蔽シートの使用用途
遮蔽シートは外部からの放射性を遮断するために使用します。主に下記2つの場面で使用されます。
1. 放射線遮蔽シート
放射線遮蔽シートを用いることで外部放射線を遮蔽できます。原子力関連設備での放射性廃棄物などの処理作業や、原発事故被災地における復興作業などの放射線を扱う環境で、作業者を放射線被爆から守るための防護服や保護用品などの用途に使用されています。
放射線医療施設では腫瘍の患部に電子線や中性子線・陽子線を照射することもあり、それらの粒子線から発生するX線、ガンマ線などの遮蔽にも用いられます。
2. 電磁波遮蔽シート
放送局やスマホ基地局からの送信電波や、スマホ、タブレットなどから発生する電磁波は人体に悪影響を及ぼしたり、電子装置の故障の原因になりうることが知られています。このような電磁波の影響を十分弱めるために電磁波遮蔽シートが用いられます。
遮蔽シートの原理
遮蔽シートは、放射線を遮蔽することができる特殊な素材の性質を利用しているため、使用する材質によって、特徴が大きく異なります。
1. 放射線遮蔽シート
放射線遮蔽シートは、放射線を遮蔽することができる特殊な素材の性質を利用しているため、使用する材質によって特徴が大きく異なります。
鉛やタングステンなどの素材を使用している遮蔽シートは遮蔽効果が高い一方で、重量が重く容易に扱えないことや、使用目的に合わせて曲げ加工や、継ぎ加工などの処理を行う際に、外見の美観などを考慮する必要があるなどの問題点があります。
ゴムや樹脂を用いた放射線遮蔽シートは、シートの中に、放射線を遮蔽したり吸収する効果のある素材を分散させることで遮蔽効果を高める工夫をしています。
2. 電磁波遮蔽シート
電波の遮蔽は銅などの導電性の材料で周囲を取り囲み、その表面で電波を反射・散乱させ、電波の侵入や漏洩を防止します。磁気遮蔽は、遮蔽したい空間を磁気の通りやすい鉄系の材料で囲み、磁気をバイパスさせて侵入を防ぎます。磁気の影響を受けやすいMRIなどの電子装置でニーズが増加しています。
遮蔽シートのその他情報
1. 放射性遮蔽シート
放射線の遮蔽シートは、放射線の種類とエネルギーによって使い分ける必要があります。
アルファ (α) 線
アルファ線は陽子2個と中性子2個から成るヘリウムイオンです。通常は放射性同位元素の原子核からアルファ崩壊という物理現象で放出されます。低エネルギー (10MeV以下) のため、透過力は低く紙1枚でほぼ完全に遮蔽できるため遮蔽シートは不要と考えられます。
ベータ (β) 線
ベータ線は、電子が放射性同位元素の原子核からベータ崩壊という物理現象で放出されるもので、低エネルギー (<2MeV) のため、数mmの厚さのアルミニウム板でほぼ完全に遮蔽できます。健康に値するリスクはなく、電子装置の故障の原因にもならないので、遮蔽シートは必要ありません。
ガンマ (γ) 線
ガンマ線は光子が放射性同位元素の原子核から放出されるものです。透過力が高く、電子装置の電気的故障の直接原因にはなりませんが、構成材料の劣化を招いたり健康に対するリスクが大きいため、エネルギーに応じた厚さの鉛やタングステンで遮蔽する必要があります。
低エネルギーのガンマ線に対しては、遮蔽シートとして環境負荷の小さいタングステンを主成分とするタングステン合金が一般に使用されていますが、高温で焼結するため柔軟性・加工性が悪く値段も高価であるといった課題があり、これまでその用途は限定されていました。
これらの課題を克服する遮蔽材料としてタングステンと樹脂からなる新たなタングステンシートが開発されています。このタングステンシートは、タングステン粉末とリサイクル使用が可能なエラストマー樹脂を加温混練する方法によって製造されています。この製法によりタングステンと樹脂の複合材料が得られ、更にこの複合材料を成形することで高密度で、柔軟性が高いタングステンシートが得られます。
X線
X線はガンマ線と同じ光子ですが、X線菅という装置により人工的に作られます。レントゲン検査に主として使われますが、一般的にガンマ線よりははるかに低エネルギー (数keV) のもので、健康に対するリスクはありません。電子装置の故障の原因にもならないので、遮蔽シートは必要ありません。人間ドックで上部消化管X線検査の際に飲む白い硫酸バリウムはX線の減衰効果があり、X線写真の解像度を上げるために利用されます。
中性子線
極めて低線量率 (1平方センチ当たり毎時約12個) ですが、自然界にも高エネルギー (>1MeV) の中性子線が存在します。人体に害はありませんが、電子装置の故障の原因になることがあります。
一般に、高エネルギーのガンマ線・中性子線の遮蔽には鉛ブロックや、厚さ数mのコンクリート壁が利用されますが、 微弱な低エネルギー中性子の遮蔽にはパラフィン、ポリエチレン、水などの水素を多く含むブロックが利用されるほか、シートを用いる場合には、その中にB-10、ガドリミウム、カドミウムなど中性子を吸収する物質を分散させる手法が採られます。B-10はホウ酸などで、自然界のホウ素はほぼB-11ですが、約20%がB-10です。ガドリニウム、カドミウムは有害物質なので環境に対する配慮が必要です。
腫瘍の治療のために、中性子線、高エネルギー電子線・陽子線などを患部に照射する手法があり、その場合にガンマ線、中性子線も発生するため、照射装置の周囲にも遮蔽体の利用を検討する必要があります。
2. 電磁波遮蔽シート
電磁波遮蔽シートとしては、薄いPET (ポリエチレンテレフタレート) フィルムの表面に、真空蒸着により銅など導電性のシールド層を形成したものが知られています。このシートは優れた電磁波シールド性に加え、柔軟、軽量、通気性が良く多孔質構造がもたらすアンカー効果を備えています。
高いシールド性能と薄膜フィルムの特徴を生かして、省スペースが要求されるモバイル機器、曲面への加工が要求されるケーブル被覆材料など、各種電子機器の電磁波シールドに活用されています。
また、電磁波遮蔽シートとしてステンレス・銅の素材を、抄紙技術を用いてフレキシブルな紙やフィルムにした製品も展開されています。シートはハサミやカッターで任意の形状に容易にカットすることができます。加工時には焼結された金属繊維が加工後繊維の脱落を抑制し、作業環境への影響も配慮されています。
このシートは、金属の特徴である高い導電性を活かした電磁波遮蔽性能と、紙の特徴であるクッション性・柔軟性に加え、多孔質構造がもたらすアンカー効果、通気性を備えています。このような性能に基づき、各種電子機器用のノイズ抑制材、差圧解消用電磁波遮蔽フィルターなどに活用されています。
参考文献
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-01-03-08.html
https://www.togawa.co.jp/product/2014/06/post-3.html
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https://www.nittan.co.jp/products/kabelloy_001_009.html
https://industrial.panasonic.com/jp/products/emc-circuit-protection/emc/shield-film
https://www.tomoegawa.co.jp/product/icas/microwave-barrier.html
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-01-03-08.html
https://www.kajima.co.jp/news/digest/jul_2002/techno/index-j.htm