バイアルとは
バイアルとは、ガラスまたはプラスチック製の透明容器で、注射針を刺して中の液体を吸い出せるように蓋にゴム製の部分を持つ瓶のことです。
注射剤や高速液体クロマトグラフィーで分析試料などを入れる容器として使用されており、日本薬局法では密封容器に分類されます。開口部はゴム栓により蓋をされますが、ネジ口のバイアルも存在しています。
バイアルの使用用途
1. 注射剤の保管容器
注射剤を入れるための容器として使用する場合は、無菌状態で薬剤を充填した後に開口部へゴム栓を打栓し、アルミニウムキャップ等でゴム栓と開口部を巻締めます。なお、ゴム栓は複数回の刺針が可能なため、薬液を複数回採取することができます。
しかし、汚染した注射針で薬液を採取する等の操作が原因で感染事故も起こりうるので、無菌状態で操作を行う必要があります。
2. 化学・分析試験用サンプルの保管容器
高速液体クロマトグラフィーで、オートサンプラへ分析試料を入れるためにバイアルが使用されます。ガラスバイアル中の成分が溶出するおそれがある場合は、合成樹脂製バイアルを用います。
その他、塩基性物質がバイアルの内壁に付着する可能性もあるため、その場合も同様に合成樹脂製バイアルを用います。
バイアルの特徴
バイアルは、ホウ珪酸ガラスを原料としています。ホウ珪酸ガラスは、二酸化ケイ素と無水ホウ酸から作られます。熱膨張率が小さく、硬く、耐水性が高い点が特徴です。
また、ソーダガラスや鉛ガラスに比べて、耐熱性・耐冷性があり、化学薬品に対する耐腐食性にも優れています。 その他、酸素等のガスが透過せずに酸化を防げる点も特徴の1つです。
バイアルは、金型を用いずにホウ珪酸ガラスを火で加工して作られます。ソーダ石灰ガラスよりも低温で製造可能なため、アルカリ成分の溶出が比較的少なくなります。近年では、耐薬品性向上のためにバイアルからの溶出物が減る低アルカリ処理バイアルや、薬剤の吸着量を減らせる低吸着バイアルのニーズが増えました。
また、合成樹脂製のバイアルも存在し、ガラス製に比べて割れにくく軽い他に、無機物の溶解がありません。一方で、酸素の透過性はガラス製に比べて劣るのが欠点です。
バイアルのその他情報
1. バイアルの表面処理
バイアルは、脱アルカリ処理やコーティング等のガラス内表面の性質を改質させる表面処理を行っています。脱アルカリ処理とは、ガラス転移点付近の温度まで上昇させた状態で、ガラス表面と硫黄化合物を反応させることによって、表面層のアルカリ成分を中和させたり選択的に抽出除去する操作です。
この操作によって、シリカ成分を多く含む表面が露出し、アルカリ成分の溶出を減少させることができます。コーティングには,シリカやシリコーン樹脂、フッ素樹脂などを用いて行う方法があります。
これらの処理を行うことにより、薬液をガラス内表面へ直接接触させることを避けられるため、ガラス成分が溶出し難くなる等の効果が得られます。
シリカ加工
ガラス内表面にシリカを高温で溶融させて、内表面へシリカの薄膜を形成させる方法です。
シリコーン加工
ジメチルポリシロキサン溶液へ浸漬・焼付け処理を行い、ガラス表面へシリコーン樹脂の薄膜を形成させる方法です。
フッ素樹脂加工
カップリング剤によりフッ素樹脂を塗布・焼付け処理を行って、ガラス内表面へフッ素樹脂の薄膜を形成させる方法です。
2. バイアルとアンプルの違い
バイアルが開口部をゴム栓により蓋をするのに対して、アンプルは薬液を充填した後、容器の先端を熱で溶閉して保管します。薬液を使用する際には、容器の頭部をカットして、開口部から注射針を差し込んで薬液を吸い出します。
アンプルのカットの際は、容器の種類に応じて対応が異なります。カット位置にポイントマークやラインの入った容器では、そのまま手でアンプル頭部を折って開封しますが、マークやラインがないアンプルの場合には、アンプルカッターややすりでアンプル頸部に傷をつけたあとにアンプル頭部を折るのが一般的です。
比較的量の少ない注射剤では、アンプルを使用する場合が多いです。アンプルはバイアルと同様に、ホウ珪酸ガラスが原料であるため、ガラス成分が溶け出すことはほとんどありません。また、酸素等のガス透過性もないため、バイアルと比較してより安価に密閉性の高い容器にできることがメリットです。
3. ゴム栓付きバイアルの取扱い方
ゴム栓付きバイアルを使用する際の注意事項として、コアリングがあります。コアリングとは、注射針を刺すときに針によってゴム栓が削れ、この削れたゴム片 (コア) が薬液内に混入する現象のことです。コアリングの発生は、ゴム栓の形状や材質、注射針の径や形状、穿刺方法などに影響を受けます。
例えば、プラスチック製の鈍針と18Gの金属針では、プラスチック製の鈍針の方がコアリングの発生率が高いことが報告されています。また、針を刺す際のスピードが速いほど、コアリングの発生率が高くなる報告もあります。
コアリングを防止するためには、以下のような方法が有効です。ゴム栓付きバイアルを取り扱う際は、これらの方法を熟知したうえで、コアリングの発生に細心の注意を払う必要があります。
刺す場所
ゴム栓の指定位置 (刻印部) に穿刺します。刻印部がない場合にはゴム栓の中央部分とし、注射針を複数回刺す場合には同じ場所を避けます。
針の種類
針はなるべく細いもので、刃面の長さが短いものを選択します。
刺し方
ゆっくりと垂直に刺します。途中で針を回転させないよう注意が必要です。
参考文献
http://www.iwataglass.com/products/vial/
https://www.toseiyoki.co.jp/material/glass/324
https://www.fpa.or.jp/
https://www.an.shimadzu.co.jp/hplc/support/lib/lctalk/100/100intro.htm
https://answers.ten-navi.com/dictionary/cat04/3362/
https://answers.ten-navi.com/dictionary/cat04/3356/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdsa/46/1/46_52/_pdf/-char/ja