防災トイレ

監修:株式会社カワハラ技研

防災トイレとは

防災トイレ

大規模な災害直後に被災者にとって最も必要とされるものは何でしょうか? 水?食料?毛布? 被災者支援として「飲食」「睡眠」の確保が優先事項と思われがちですが、実は「トイレ」なのです。

人の平均的な排泄回数は成人で1日5回(排泄総量1~1.5ℓ)と言われており、いかなる状況下においても生理現象を我慢することはできません。

災害時のトイレの実情

1. 水洗トイレは使用できない

災害の種類や規模にもよりますが、特に震災の場合は断水や停電そして下水道や浄化槽の損壊により多くの水洗トイレが使えなくなります。無視して使用すれば、便器はあっという間に大小便で一杯となり衛生環境が悪化し感染症の温床となります。

2. 仮設トイレはすぐ届かない

平成28年の熊本地震の被災者へのアンケート※aで「仮設トイレが避難所に最初に設置されたのはいつですか?」との質問に対し、災害当日に届いたという回答は僅か7%でした。約90%に達したのは発災から8日後です。

災害による交通機関の障害や規制、特に道路の寸断は致命的で物資配送が不可能となります。仮設トイレはすぐに配備されると思いがちですが、トイレはすぐには届きません。

平成28年熊本地震「避難生活におけるトイレに関するアンケート」結果報告 ※a引用文献:平成28年熊本地震「避難生活におけるトイレに関するアンケート」結果報告/特定非営利活動法人日本トイレ研究所

3. トイレに行きたくない

汚い、暗い、トイレの数が少ない、トイレまで距離がある等、トイレの環境が不快・不便であるとトイレに行く回数を減らしたくなります。そのために飲食を控えるようになりその結果、脱水症状になったり慢性疾患が悪化するなどして体調を崩したり、エコノミークラス症候群や脳梗塞、心筋梗塞で命を落とすこともあり「災害関連死」という二次被害につながります。

災害関連死は災害による直接被害の3倍ともいわれており、トイレの充実がその解決策として最も優先されるべき課題と言われています。

このように災害時の「トイレ」は人命に係る重要な位置づけとして対策に取り組むべき問題なのです。

それでは、国や自治体(都道府県、市町村)は防災トイレ問題にどのように取り組んでいるのでしょうか?

防災トイレに関する国、自治体(都道府県、市町村)の対策

災害用トイレの備蓄

発災直後の3日間は「自助・共助によるトイレの備蓄」が国の基本的方針です。

「国」は「トイレ」の備蓄はしていません。自治体も「都道府県」は「国」と同様、計画の作成、法令に基づく実施、総合調整する立場にあり備蓄はしていませんので、防災に関する実務は「市町村」の責務となります。

実務を担う「市町村」の防災トイレ対策状況ですが、「市町村」の指定避難所のトイレの設備状況のアンケート調査※bによると、トイレの必要数を把握しているかという質問に対し、市町村556の内7割の372が「いいえ」と回答しています。必要数の把握がされていないということは、つまり市町村の7割でトイレ対策がされていないということであり、憂慮すべき結果です。

農業集落排水の水害対応に関するアンケート調査 ※b引用文献:農業集落排水の水害対応に関するアンケート調査/一般社団法人地域環境資源センター

誰か(市町村)が用意してくれている。何とかなる。という状況ではないということを認識し、まずは「自助・共助」。災害に備えてトイレを備蓄しておくことが大切です。

災害規模と災害用トイレ

災害用トイレのカテゴリー

現在、国は災害用トイレを3つに分類し推奨しています。

1. 携帯トイレ:既存の洋式便器等に便袋(し尿をためるための袋)を取り付けるトイレ

   簡易トイレ:簡易便器と便袋がセットのトイレです。

2. 仮設トイレ:工事現場やイベント会場等で使用されている完成型トイレです。組立型もあります。

3. マンホールトイレ:マンホールを利用するトイレです。

各種災害用トイレの特長

1. 携帯トイレ・簡易トイレ

備蓄しておけば即使用できるという点がメリットです。

便袋は可燃ゴミ扱いで処分できるものですが、災害時はゴミの回収作業に影響が出たり回収場所自体が被災する可能性もあります。保管状態によっては便袋の破損等により感染症の要因にもなりかねません。

災害が長期化すると使用済みの便袋は膨大な量となりますので保管場所と処分の問題を想定し対応策を講じておく必要があります。

また、屋外で使用せざる得ない場合は個室(囲い)が必要です。

2. 仮設トイレ

仮設トイレには「完成型」と「組立型」があります。

工事現場やイベント会場等で使用されている「完成型」が一般的ですが、重機無しでは簡単に動かすことが出来ませんし道路が寸断された場合は目的地に搬入したくても届けることができませんので備蓄には不向きです。

災害用トイレとしては「組立型」の方が適していますが、組立に時間を要した、組立が大変で放置されていた、また保管期間中に素材が錆びてしまい必要時に使えなかったなど、被災者からは実用面での問題も指摘されています。

3. マンホールトイレ

災害時でも普段のトイレにより近い環境を維持できる点がメリットです。使用の際は便器の囲い(テント等)を別途用意する必要があります。

マンホールトイレ設置を検討する際に知っておきたいポイントとしては、下水道設備に被害が無いことが確認されて初めてマンホールの蓋の鍵を開けマンホールトイレを設置するので使用開始までに時間を要すること、使用が開始できても排泄物が溜まらないように水を流すので上下水道設備が破損した場合は別の水源の確保が必要となること、また私有地内の枝管に設置した場合、災害復旧後に清掃が必要となるため自己負担でのメンテナンス費用がかかることなどがあげられます。

平常時から切迫感を以て危機管理意識を持つことは、なかなか難しいことかもしれませんが、災害時の厳しいトイレ事情を想定し「自助」「共助」を基本に防災トイレの備蓄をしてください。

本記事は防災トイレを製造・販売する株式会社カワハラ技研様に監修を頂きました。

株式会社カワハラ技研の会社概要はこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です