複列アンギュラ玉軸受とは

複列アンギュラ玉軸受 (英: Double Row Angular Contact Ball Bearings) とは、アンギュラ玉軸受の一種です。
「複列」とは、内輪と外輪転動面の2本の溝に沿ってボールを2列に配置している軸受です。その他、「単列」があり、内輪と外輪の溝は1本でボールを1列に配置しています。
単列アンギュラ玉軸受は、ラジアル荷重のみを支持できますが、複列アンギュラ玉軸受はラジアルとスラスト両荷重を支持します。特に、高速回転と大荷重の条件においての性能に優れています。

図1. 転がり軸受の体系
複列アンギュラ玉軸受の使用用途

図2. ラジアル荷重とスラスト荷重
複列アンギュラ玉軸受は、ラジアルとスラスト両方向の荷重を支持し、適用幅広く多くのケースに使用できます。例としては、航空機のランディングギアや鉄道車両の台車などです。
高回転数で高負荷の用途に最適で、その他工業用プリンターや産業機械の動力システムがあります。下図は、生産設備でのフィルム製品送り機構の一部で、ローラー側からのラジアルとスラスト荷重の支持目的で複列アンギュラ玉軸受が使用されるケースです。

図3. 複列アンギュラ玉軸受の使用例
複列アンギュラ玉軸受の原理

図4. 接触角と内部隙間
アンギュラ玉軸受はボールと内輪・外輪の接触点を結んだ線が、回転中心線と90度に交差せず接触角を持ち、接触角により片方向のスラスト荷重を効果的に支持します。複列アンギュラ玉軸受は、単列アンギュラ玉軸受の性能に加え、両方向のスラスト荷重とモーメントを支持できます。
複列アンギュラ玉軸受は、内輪か外輪の一方を固定し、固定していない側を軸中心方向に移動させて組み立てます。この移動量がアキシアル内部隙間です。

図5. 複列と単列の比較
複列のメリットは、荷重の分散による安定性や耐久性の向上で、単列の組合せに比べ幅寸法が小さいことです。複列アンギュラ玉軸受は、単列アンギュラ玉軸受の背面組合せと同じ機能を持ち、単列2個の内輪と外輪を一体化した構造です。
単列アンギュラ玉軸受は、「背面組合せ」以外に「正面組合せ」と「並列組合せ」がありますが、正面や背面と同じ機能の構造はありません。
複列アンギュラ玉軸受の構造

図6. 複列アンギュラ玉軸受の構造
複列アンギュラ玉軸受は、内輪、外輪、ボール、リテイナ (保持器) で構成されています。また、密封構造のない開放形と、密封構造のあるシールド形、シール形 (非接触、接触)があり、用途や環境に応じて選定します。
密封構造の目的は、ボール部に充填したグリースの漏洩防止、外部からの粉塵や水分浸入防止です。
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密封種類 |
密封装置 |
防塵性 |
潤滑方法 |
摩擦抵抗 |
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開放形 |
なし |
低い |
グリースを外部から供給、飛沫や油浴潤滑 |
低い |
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シールド形 |
金属シールド板 |
ある程度高い |
グリースを軸受内に密封 |
低い |
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非接触シール形 |
鋼板、合成ゴムの接着シール板 |
シールド形より高い |
低い |
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接触シール形 |
最も高い |
やや高い |
複列アンギュラ玉軸受のその他情報
1. 予圧
マイナスの内部隙間が予圧状態で、JIS B0104転がり軸受用語 「Rolling bearings-Vocabulary」で下記のとおり定義されています。
- 実際の荷重がかかる前に、例えば他方の軸受に対するスラスト方向の位置の調整によって軸受に加わる力
- “負のすきま”になる軌道寸法と転動体の寸法との関係によって軸受内に生じる力、前者を外部予圧といい、後者を内部予圧という
また、予圧にはその方法によって、スペーサでの加圧の定位置予圧、ばねでの一定加圧の定圧予圧があります。
一般的に、予圧を行う目的とは下記のようなものがあります。
- シャフト剛性の向上
- 位置精度とシャフトの回転精度の向上
- ボールのスリップとスミアリングの低減
- 振動、異音の低減
- 外部振動によるフレッチングの防止
なお、スミアリングとは、スリップや油膜不足での微細焼き付きに伴う転動面の損傷のことで、フレッチングとは静止状態での外部振動に伴う転動面の摩耗を指します。
2. 規格
下記は、複列アンギュラ玉軸受関連の規格です。
- JIS B1522 転がり軸受-アンギュラ玉軸受Rolling bearings-Angular contact ball bearings
- DIN 628-3 Rolling Bearings-Angular Contact Radial Ball Bearings-Part 3: Double Row
- ISO 15 Rolling bearings-Radial bearings-Boundary dimensions, general plan
参考文献
https://www.nachi-fujikoshi.co.jp/jik/radial_t/0104a.htm
https://koyo.jtekt.co.jp/2019/02/column01-04.html