加熱コイルとは
加熱コイルとは、誘導加熱で使われるコイルのことです。
コイル内に加熱する対象物を置くと、加熱することができます。加熱する対象物の特性や形状、加熱したい範囲など、加熱要件によって加熱コイルの形状、巻き数、直径が異なります。要件に合ったコイル設計で、熱分布を最適化することが大切です。
また、対象物をコイルに挿入しやすく、取り出しやすくして、作業効率を最大化するためにも、要件に合ったコイル設計が必要です。さらに、加熱中は加熱コイル自体も対象物から出る熱などで間接的に加熱されるます。そのため、絶えず冷却できる構造を持っているのが一般的です。
加熱コイルの使用用途
加熱コイルは誘導加熱で使われ、対象物と直接接触せずに精密かつ制御可能な熱処理が必要な場面で活躍します。具体的な産業用途の使用例は、以下のとおりです。
- 溶接の予熱
- 焼き入れ
- 焼き戻し
- 焼きなまし
- ろう付け
- 焼き嵌め
- はんだ付け
- 金属溶解・鍛造
- ゲッター加熱
- 浮遊溶解
- 材料テスト
- キャップシーリング
- 材料の硬化
- 金属とガラスの接合
- かしめ
- サセプタ加熱
加熱コイルは火炎を使わないため、二酸化炭素や環境負荷を低減するだけでなく、無駄なくクリーンな熱処理ができます。この特性を一般家庭に応用した調理器具が、よく知られたIHクッキングヒーターです。
加熱コイルの原理
加熱コイルの原理は、コイルを交流電源に接続して、コイルの周りに磁力線を発生させて対象物を加熱する、というものです。このような電磁誘導によって加熱する方法が「誘導加熱」です。誘導加熱の方式は、以下の2つがあります。
1. 直接加熱方式
誘導加熱では、コイルの中に導電性の対象物を入れて電流を流すと、対象物自体が発熱していきます。これが、「直接加熱方式」です。
この加熱方式では、対象物の中で磁束の変化を妨げる方向に渦電流が流れ、電気抵抗によりジュール熱が発生する仕組みを利用します。渦電流は、表面に近いほど大きく、内部にいくにつれて小さくなります。これを「近接効果」と呼び、直接加熱方式は表面加熱に適した方法です。
2. 間接加熱方式
加熱コイルでセラミックなどの絶縁体を加熱する場合、導電性の容器に対象物を入れ、容器を直接加熱することで熱伝達を起こし対象物を加熱します。これが「間接加熱方式」です。
この加熱方式では、発熱体と対象物を接触させて加熱する方法と、発熱体と対象物を離して加熱する方法があります。後者は、赤外線が対象物を加熱するため、遠赤外線加熱と呼ばれます。
加熱コイルの構造
加熱コイルの形状は、対象物の寸法・形状に合わせて最適なものを選ぶため、単純ではありません。軸の外径表面を加熱する場合は、コイル内に製品を挿入する外面コイル、鋼管などの内部を加熱する場合は、コイルを挿入する内面コイルなど、多種多様に存在します。
例えば、誘導加熱を利用した高周波焼入れ法には、対象物を移動しないで加熱する「定置一発焼入れ法」と、対象物を移動しながら順次焼入れしていく「移動焼入れ法」があります。使用する加熱コイルはそれぞれ異なります。
1. 高周波焼入れ法の加熱コイル構造
「定置一発焼入れ法」は、対象物の形状にあわせる形で加熱コイルを製作するので、製品の種別に応じて用意する必要があります。加熱コイルの形状が重要であり、設計や製作に経験やノウハウが求められます。
しかし、複雑な形状であっても、均一に加熱することが可能で、加熱に要する時間を移動焼入れ法と比較すると短くできる点がメリットです。一方「移動焼入れ法」は、単巻きもしくは多巻きのコイルが使用されます。形状は、定置一発焼入れ法に比べて単純な形状で、対象物の軸径や長さを考慮して選定します。
2. 冷却水を噴射する加熱コイル構造
焼入れに使用する場合には、焼入れ水の噴射口が用意された構造になっています。加熱された対象物を急速冷却する必要があるためです。
噴射するタイプには次の2つがあります。
- 加熱コイル内部から対象物に向かって焼入れ水を噴射するタイプ
- 加熱コイル付近に冷却ジャケットを別に設置するタイプ
加熱コイル内部から冷却水を噴射するタイプは、加熱コイルの冷却と対象物の冷却を焼入れ水で兼用できる構造になっています。加熱箇所から直接冷却できるので効率よく対象物を冷却できますが、多くの場合形状は複雑です。
参考文献
https://toyokoshuha.co.jp/technology/hardening
https//www.nkgk.com/index.html