希釈冷凍機

監修:ブルーフォース株式会社

希釈冷凍機とは

希釈冷凍機とは、ヘリウム同位体 (³Heと⁴He) の量子的な性質を利用して、極低温を実現する冷凍装置です。

その冷却原理は、液体になったヘリウムが示す相分離に基づいています。

液体にした³Heと⁴Heの混合液を極低温まで冷やすと、2つの相に分かれます。
濃縮相:³Heが主成分の層
希釈相:⁴Heに、少量の³Heが溶けている層

この二相が共存する容器の中で、³He原子が濃縮相から希釈相へ移動する際に、液体が蒸発するときのように周囲から熱 (希釈潜熱) を奪います。この「希釈冷却」効果により、絶対零度に極めて近い温度まで試料を冷却することが可能です。この冷却効果を持続させるため、希釈相へ移った³Heだけを取り出し、再び濃縮相へ戻すという循環サイクルを連続的に行います。

希釈冷凍機は、他のどんな方法でも到達が難しい数ミリケルビンという極低温を安定して作り出せるため、最先端科学の研究に欠かせない装置となっています。

希釈冷凍機の使用用途

希釈冷凍機は以下のような用途で使用されます。

1. 量子コンピュータ研究・開発

次世代のコンピュータとして期待される量子コンピュータ。その計算の基本素子「量子ビット」は非常にデリケートで、わずかな熱でも情報(量子状態)が簡単に壊れてしまいます。希釈冷凍機は、量子ビットが安定して動作できる静かな超低温環境を提供し、その性能を最大限に引き出すための必須の基盤技術です。

2. 物性研究

物質を構成する原子や電子の本来の振る舞いは、常温では熱エネルギーの陰に隠れて見えません。希釈冷凍機で熱雑音を極限まで取り除くことで、電気抵抗がゼロになる「超伝導」や、奇妙な量子現象など、物質が秘めている本質的な性質や未知の現象を観測することができます。

3. 宇宙物理の研究

希釈冷凍機の他の用途として、宇宙の謎を探る研究があげられます。宇宙の起源を探る研究では、宇宙から届くかすかな光や電波を捉える必要があります。しかし、観測に使う検出器自身が熱を持っていると、その熱がノイズとなって微弱な信号をかき消してしまいます。希釈冷凍機は、超高感度センサーをミリケルビン単位まで冷却することで、検出器のノイズを抑制。これにより、宇宙背景放射の精密測定やダークマターの探索といった、宇宙の謎を解き明かす最先端の観測を可能にしています。

本記事は希釈冷凍機を製造・販売するブルーフォース株式会社様に監修を頂きました。

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