S55Cとは
S55Cとは、日本工業規格 (JIS) では炭素鋼に分類され、JIS G 4051で規定されている機械構造用炭素鋼鋼材の一種です。
炭素鋼は炭素含有量が高いほど硬度が高くなります。機械構造用炭素鋼鋼材は一般的にはSC材とも呼ばれ、SはSteel (鋼) 、CはCarbon (炭素) を意味します。S55Cは、炭素量が高いため硬くて強い材料であり、熱処理により硬度を調整できます。また比較的低価格であり、耐久性や加工性に優れています。
S55Cの使用用途
S55Cの使用用途の例は下記の通りです。
1. 金型
金型はプレス金型、鋳造金型、プラスチック成形金型、精密プレス金型などで使用されます。鋳造とは、金属を液体状態で型に流し込んで成形する方法です。
2. 切削工具
切削工具ではドリル、タップ、研磨ホイールなどに用いられます。タップとは、ネジを切るための工具の一種で、金属やプラスチックなどの素材に穴を開けて内部に螺旋状の溝を切り、ネジを作成するための工具です。研磨ホイールとは、金属、木材、プラスチックなどの素材を研磨・磨耗加工するために使用される工具です。
3. 機械・電子部品
機械部品では歯車、シャフト、軸、ボルト、ナット、バネに使用され、電子部品ではモーターシャフト、コネクタ、端子に使用されています。
4. 刃物
刃物では主に包丁、ハサミ、カッターナイフ、チェーンソーに使用されています。
5. 自動車部品
自動車部品ではクランクシャフト、ギア、スプリング、ホイールハブに使用されます。ホイールハブとは、車輪を車両に取り付けるための部品です。
6. 精密測定工具
精密測定工具では定盤、マイクロメーターに使用されています。定盤とは、測定器具の一種で、平面度・直線度・平行度などを測定するための板状の器具です。マイクロメーターとは、測定器具の一種で、小さな寸法を正確に測定するために使用される器具です。
7. 建築材料
建築の分野では建物の支柱、階段、手すり、柵、鉄骨構造などに使用されます。
S55Cの性質
S55Cの主な性質は下記の通りです。
1. 化学組成
- 炭素 (C): 0.52%~0.58%
- シリコン (Si): 0.15%~0.35%
- マンガン (Mn): 0.60%~0.90%
- リン (P): 0.030%以下
- 硫黄 (S): 0.035%以下
2. 強度
S55Cは機械部品や金型、工具などの材料として使用する場合に十分な強度を持っています。焼入れにより非常に高い硬度を得られます。焼入れ後のS55Cは、金型や工具などの高強度、高耐摩耗性が必要な部品に適しています。ただし、高炭素鋼であるため焼入れ後に脆くなることがあります。そのため焼入れ後の焼戻しや使用条件の管理が必要です。炭素鋼は、炭素含有量によって以下のように分類されます。
- 低炭素鋼 (炭素含有量: 0.25%未満)
- 中炭素鋼 (炭素含有量: 0.25%-0.6%)
- 高炭素鋼 (炭素含有量: 0.6%を超える)
3. 切削性
S55Cの切削性は、以下のような特徴があります。
切削性が良好
S55Cの炭素量は約0.55%であり、硬度が比較的高いため切削性が良好です。溶接性は一般的に良好とは言えません。
粗い表面ができやすい
非常に硬い材料であるため、切削時には粗い表面ができやすいです。表面加工をする場合は追加の加工工程が必要になることもあります。
切削速度と切削深さに注意が必要
S55Cは硬度が比較的高いため、切削時には切削速度と切削深さに注意が必要です。切削速度が低い場合は、スムーズに切削できず、表面が荒くなることがあります。また、切削深さが深過ぎる場合は、工具の破損する可能性があります。
冷却剤の使用が推奨される
S55Cは切削時に発生する熱が多くなるため、冷却剤の使用が推奨される材料です。冷却材の使用により工具の摩耗が減少し切削精度が向上します。
4. 耐食性
S55Cは錆びやすいため適切な表面処理が必要です。表面処理には、塗装、めっき (ニッケルめっき、クロムめっき) 、黒染めなどがあります。黒染めは、酸化皮膜を形成して表面を保護する方法です。
S55Cのその他情報
チップの処理
S55Cを切削加工する場合、大量のチップが発生するため、その処理に注意が必要です。チップを取り除かないと、切削加工品の表面に傷がついたり、加工品自体が破損したりする可能性があります。
チップとは、工具によって削り取られた材料の切れ端のことです。切削工具が材料に接触する際に、摩擦力や圧力によって材料が削り取られチップが発生します。