工業用インク

工業用インクとは

工業用インクとは、産業用インクジェットプリンターや印字機などで工業的に用いられるインク全般のことです。

業務用では幅広い素材への印字・印刷が必要であるため、さまざまな顔料・染料が含まれます。

工業用インクの使用用途

工業製品ではロットナンバーや品質表示、検査印など様々な印字が必要となる場合があります。スタンプマーキング用インクは、金属・プラスチック・紙・段ボール・陶器・ガラス・木材や、布・皮革製品など、様々な素材の製品への印字に用いられているインクです。

また、産業用インクジェットプリンタは、商業印刷、テキスタイル、建材など多様な用途で用いられています。サイングラフィックスや、デジタル捺染、DTG、幟旗などのテキスタイル製品、UV 硬化樹脂、石膏などを用いた模型、部品、鋳型などの三次元造形や、ネームタグ、ラベル、金属缶印刷などが主な用途です。インクジェットプリンタ用のインクは、このような製品素材に合わせて多様な種類が販売されています。

工業用インクの原理

1. インクジェット印刷

工業生産において、多くの製品の印刷に産業用インクジェットプリンタが用いられています。インクジェットプリンタによるインクジェット印刷とは、液体のインクを一滴ずつ滴下させて画像を描く印刷方式のことです。

インクジェットプリンタ用のインクは、染料や顔料などの色料が溶剤に溶かされた組成となっています。顔料は粒子が大きく、浸透せずに対象物の表面に留まる特徴のある色素ですが、染料は用紙などの対象物の中に染みこんで浸透する色素です。顔料は印刷物がはっきりと鮮明にプリントされる一方で、染料は混じり合う事で繊細な色や階調表現をする事が可能です。溶剤には、MEK (メチルエチルケトン) 、エタノール、アセトンなどの揮発性有機溶剤や、水、その他有機溶剤などが用いられます。

その他には、浸透剤 (紙とインクの表面張力を低下させ、インクが紙に定着するのを促進する) 、乾燥防止剤 (インクの乾燥によるヘッドの目詰まりを防ぐ) 、pH調整剤、防腐剤、防カビ剤などがインクに含まれています。これら補助剤は、インクの品質や印刷の品質を維持するのに必要な物質です。

2. スタンプマーキング用インク

ロットナンバーなどの印字に用いられるインクは、スタンプマーキング用インクです。スタンプ捺印によって使用され、一般のスタンプ用インクと同様の使用方法です。油性顔料系、油性染料系、水性顔料系、水性染料系などがあり、スタンプを押す素材によって使い分けられます。非吸収の素材表面に用いられているインクは、溶剤性染料系です。その他にも特殊インクなどもあります。インクそのものの他、インクを含浸させたインクパッドとして販売されている場合もあります。

工業用インクの種類

工業用インクには、黒・白・赤・青・黄色・緑など、基本的な色の種類が一通り揃っています。染料や顔料など色料による分類のほか、用いられている溶剤によって、水性インクジェットインキ、溶剤性インクジェットインキ、UV硬化型インクジェットインキなどの種類があります。これらの溶剤の違いにより、印刷に適した素材が異なるため、選択の際は注意が必要です。また、溶剤性インクジェットインキでは、溶剤の揮発しやすさにより、速乾性のものとそうでないものがあります。

1. 水性インク

水性インクは、溶剤に精製水が使用されています。有機溶剤と異なり人体への悪影響もなく環境汚染の心配もないと言えますが、メチルエチルケトンやエタノールと比べて乾燥時間が長く乾燥しにくい性質です。そのため、印刷対象物は紙などの浸透性のあるものに限られます。連続帳票、商業印刷、段ボール、軟包装、ラベルなどの印刷に適したインクです。

OA用のインクジェットプリンタでは水性インクが主流である一方、産業用インクジェットプリンタでは、水性インクの使用は少ないです。水、色料以外に、保湿剤、浸透剤、pH調整剤、防腐剤などの添加剤が含有されます。

2. 溶剤性インク

速乾性の溶剤性インクには、主にMEK (メチルエチルケトン) が用いられます。メチルエチルケトンを使用したインクは速やかに乾燥して固化するため、常にインクを循環させている連続式のインクジェットプリンターでのみ使用が可能です。印刷後に速乾して速やかに固まるため、非浸透性材質にも印字できるのが特長です。また、メチルエチルケトン含有インクは第四類危険物 第一石油類 (非水溶性液体) に指定されています。

メチルエチルケトンを使用しない溶剤性インクでは、エタノールやアセトンが用いられています。エタノールは、メチルエチルケトンよりは乾燥に時間がかかるものの揮発性があり薬品汚染の心配がないため食品包装などで使用されている溶剤です。アセトンは可燃性ではあるもののメチルエチルケトンよりもさらに速乾性が高いため、ラップなどの軟包材への印字に用いられています。安全対策や法規制対応のコスト削減などから、メチルエチルケトンを使用しないこのような溶剤性インクの需要が高くなっています。

参考文献
https://www.shachihata.co.jp/tat_meister/product/about/
https://www.kishugiken.co.jp/technical_category/ink/
https://www.inx.co.jp/product/use/inkjet.html
https://bipj.brother.co.jp/ink/