油圧ナット

油圧ナットとは

油圧ナットとは、ねじではなく油圧によって発生させた軸力で締結するナットです。

ねじによるボルトとナットの締結力は、ねじの螺旋を使い、ねじの軸を引っ張り上げることによって発生させます。それに対して、油圧ナットでは油圧によってボルトを引っ張り締結力を発生させます。ねじを使ったボルトのように、ねじの摩擦力によるねじりを受けたり、軸力のばらつきなどを抑えることができます。

ナット本体に油圧機能を持たせた部品によって、ボルトを引っ張って締結するため締め付け工具が不要です。油圧ナットはボルトをセットし、油圧ポンプに繋いだホースを油圧ナット供給口に接続します。ホースを取り付けることで、複数のナットの同時締付可能です。油圧をかけられると、油圧ナット内にオイルが送り込まれボルトが引っ張られることで締め付けられます。

油ではなく、不燃性グリコール液を用いて油圧機能を持たせたものを液圧ナットと呼びます。ボルトテンショナとの違いは、油圧ナットがナットの役割を果たすのに対し、ボルトとナットにボルトテンショナをセットし、締め付けた後に外すため油圧ナットのようにその場に残らない点です。

油圧ナットの使用用途

油圧ナットは、比較的大きいサイズのボルトの締結で使用されます。ねじの使用実績はM20~300程度です。

成形プレス機や射出成形機の金型固定ボルト、火力発電用ガスタービンや蒸気タービンのケーシングの合わせ面の大型ボルトの仮締めなどにも用いられています。

油圧ナットの原理

油圧ナットでは油圧によってボルトを引っ張り、ボルトに軸力を発生させます。油圧はパスカルの原理によって、密閉した液体の入った容器に一定の力を加えると、体積は減らずに圧力がどの方向にも等しく、容器の面に垂直作用する性質を利用しています。

油圧ナットでは、油圧によってボルトが引っ張られた状態でナットが被締結物に着座させることによって、油圧を除去した後でもボルトに軸力を発生させ続けることが可能です。一般的なねじによって軸力を発生させる場合には、ねじ面やボルトのヘッド部分の座面の摩擦によってボルトにねじりが生じるので、単純な引っ張りよりも低い軸力で破断してしまいます。

また、ねじや座面の摩擦力はばらついており、締め付けトルクのばらつきと合わせると、軸力には非常に大きなばらつきがあるのが一般的です。油圧ナットを使えば、ボルトにねじりを生じさせることなく、また油圧から正確な軸力を知ることもできます。

油圧ナットのその他情報

油圧ナットの長所

油圧ナットは油圧トルクレンチや、ボルトテンショナでは作業しにくい狭い場所での作業が可能です。その他、工具が入らないような狭い場所や多くのボルトを同時に均一に締めたい時には油圧ナットが向いています。複雑な形状や工具が入りにくい場所でも、油圧ホースが取り付けられれば締め付け作業が可能です。ナットを締めた時に土台がずれる箇所も油圧ナットによる締め付けならねじる動力がないため、ズレの心配がありません。

油圧トルクレンチのように、トルク管理する締付方法より、摩擦の影響を受けずに精度が高い締め付けができます。ホースを取り付けることで、複数のナットの同時締付可能なため、ボルトの締付にバラツキが出ません。フランジの片締めを防ぎ、対角締めが不要なので作業効率がアップするのもメリットの1つです。

また、油圧ナットは頻繁かつ複数のボルトとナットの着脱、締め付けの精度が要求される時、振動による緩みが懸念される時や高温な箇所などで活躍します。作業効率や高温で使用できるため、原子力発電所で使用されており作業者の被ばく軽減にも寄与しています。

手動締めやトルク管理の油圧トルクレンチとは異なり、ボルトをねじって固定せず直接軸力をかけるため、締め付け時に摩擦が生じず高精度な軸力の管理が可能です。また、ボルトをねじらないので摩擦熱が生じず、フランジ部分やネジ部分に焼き付きが生じることもありません。

参考文献
https://www.torque-system.jp/tsm
https://www.titanti-jp.com/products/oil_nut.html
https://www.plarad-rent.net/bolt-tensioners/feature.html
https://www.bolt-engineer.net/nuts/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です