アルシン

アルシンとは

アルシン (英: Arsine) とは、化学式がAsH3で示されるヒ素の水素化合物です。

ヒ化水素 (英: Hydrogen arsenide) や水素化ヒ素  (英: Arsenic hydride) とも呼ばれます。ヒトに対して猛毒で、アルシンの許容濃度は時間加重平均濃度 (英: Time-Weighted Average) で0.005ppmです。

ヒトが大量に吸入した際には、腎臓や血液に影響が出て、最悪の場合には死に至ります。アルシンの症状は、数時間から数日後に見られる場合もあり、医学的な経過観察が必要です。

アルシンの使用用途

アルシンは、半導体の製造過程で使用される半導体材料ガスの一つとして知られています。ただしアルシンは非常に毒性が強く、血液や腎臓に重大なダメージを与えます。そのため、アルシンによる半導体製造作業環境汚染が問題となっており、半導体製造環境下での最適なアルシンの定量方法の研究が重要です。

またアルシンは、熱を加えるとヒ素が生じます。この性質を利用して、微量のヒ素を検出可能です。マーシュ法 (英: Marsh test) と呼ばれ、1836年にジェームズ・マーシュ (英: James Marsh) によって創案されました。

アルシンの性質

アルシンの融点は-117°Cで、沸点は-55°Cです。常温では無色の気体として存在し、独特のにんにく臭を持っています。

0°Cの100gの水に、0.0019gのアルシンが溶解します。極性溶媒に溶けやすく、有機溶媒には溶けにくいです。酸解離定数はpKa=25です。燃焼によって、水と三酸化ヒ素 (As2O3) が生じます。光、熱、水などにより分解し、ヒ素と水素になります。

アルシンの化学的性質は、PH3やSbH3などの対応するプニクトゲン (英: pnictogen) の平均により予測可能です。アルシンには還元作用があり、酸化剤と爆発的に反応します。引火しやすいため、取り扱いには注意が必要です。硝酸銀水溶液と反応して銀が遊離し、標準酸化還元電位はEº=-0.225Vです。高濃度の硝酸銀水溶液によって、ヒ化銀を含んだ黄色の複塩であるAg3As・3AgNO3が沈殿します。

アルシンの構造

アルシンは水素とヒ素の化合物であり、分子量は77.95です。気体での密度は4.93g/Lで、−64°Cでの液体の密度は1.640g/mLです。

アルシンの立体構造は、アンモニアに似ています。∠H–As–Hは91.8°で、3つの等価な1.519ÅのAs–H結合を持つピラミッド型の分子です。水素の結合角はアンモニアよりも小さく、直角に近いです。ヒ素の電気陰性度は2.0、水素の電気陰性度は2.1であり、アンモニアと比べて極性が弱く、水素結合を作りません。

アルシンのその他情報

1. アルシンの合成法

ヒ素を含む化学物質に触媒として亜鉛を加えて、希硫酸で反応させると、アルシンを合成可能です。アルシンと水素ガスを燃焼して、その炎が冷たいガラスや磁製皿に触れると、単体のヒ素が付着し、光沢のあるヒ素鏡が得られます。

ヒ化カルシウムと希硫酸が反応しても、アルシンを生成可能です。バクテリアやカビによって、顔料のシェーレグリーン (英: Scheele’s Green) が分解すると、アルシンが生じる可能性があります。

2. 有機アルシンの特徴

ヒ化水素の水素原子を炭化水素やハロゲンなどで置換した化合物も、総称してアルシンと呼ばれます。一連の誘導体の一般式はRR1R2Asです。それぞれの置換基はHまたは有機基を示します。一般的に不快臭を有し、猛毒です。

具体例としてメチルアルシンが挙げられ、化学式はCH3AsH2と表されます。トリフェニルアルシン (英: Triphenylarsine) は配位子として使用可能です。化学式は(C6H5)3Asです。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku1952/40/3/40_3_149/_pdf

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