熱線風速計

熱線風速計とは

熱線風速式とは、プローブに風を当てた際に、プローブ内部の熱線が風によって冷まされる原理を利用して、風速を測定する機器です。

風速計には、ベーン式風速計やピトー式風速計などがあります。熱線風速計は他方式の風速計と比べて、温度の変化が少ない室内での測定に適しています。

また、プローブを小さくすることができるため、スペースが狭くても測定できるのが利点です。

熱線風速計の使用用途

先述した通り、熱線風速計は室内での測定に使用します。空調システムの保守管理やクリーンルームの環境評価に活用されています。センサーを備えたプローブと本体がケーブルで繋がっており、空調システムの排気口などの風口付近に直接プローブを当てて測定します。

機器によりますが、風速だけではなく風量や温度を測れる場合が多いです。クリーンルームで使用するケースを除いては、熱線にホコリやゴミが付着することが多く、測定に影響を及ぼします。そのため、定期的なメンテナンス・校正が必要です。

なお、熱線風速計の代表的な使用用途は、以下のとおりです。

  • 空調設備のメンテナンスや検査
  • 分煙効果の確認
  • 換気扇の風速測定
  • 空調設備の排気測定
  • 室内の対流測定
  • クリーンルームの空気環境調査
  • 製造現場での室内環境調査

熱線風速計の原理

Fig1 熱線式風速計の原理

図1. 熱線式風速計の原理

熱線流速計には、定温度型と定電流型の2つの方式があります。 前者は細線温度Twを一定にし, 後者は電流Iを一定に保つ方式です。電気回路としてはI を一定に保つ定電流型が簡易ですが、 現在ではフィードバック制御に優れた定温度型が主流となっています。

熱線風速計は、金属線の熱損失を応用して風速を求めています。プローブの内部には熱した金属線 (熱線には、プラチナなどが使われます) が組み込まれています。プローブ部に風を当たると、風によって冷やされ金属線の温度は下がります。

Fig2 Kingの式

図2. Kingの式

この冷却された熱の量が、放散熱量です。風が強ければ強いほど、金属線の温度は下がります。この風量と放散熱量の関係から風速を求めます。この「失われる熱の量は、風速の2分の1乗に比例する」という、Kingの式による近似式に基づいています。

熱線風速計のその他情報

1. 熱線風速計の温度補償

失われる熱の量は、金属線の電気抵抗によって計測します。熱線風速計は、温度の変化を利用して風速を測るため、風温が変化すると正しく風速を計算できなくなります。

風温の変化による影響を避けるには、風温による補正が必要です。この機能を温度補償機能と呼びます。例えば、素子の表面温度が60℃に設定されているとき、風温が10℃から60℃に変化すると風速素子と風温の温度差が50℃から0℃に変わり、風速素子の冷却量はおおよそ1/5になります。

風速が一定であっても冷却量が減少したことによって風速の指示値は減少し、風速が下がったように見えます。これを避けるために、風温の変化が風速に影響を与えないようにその温度に応じた風速値を補償することが必要です。これを温度補償と呼びます。

温度補償を行うには、温度によって抵抗値の変わる素子を組み込みます。風温の変化に応じて、風速素子の加熱温度を変えることで、風の温度が変わっても風速の指示値に影響を与えなくします。

2. 熱線風速計の利点

Fig3 風速計の比較

図3. 風速計の比較

熱線流速計は、熱線が流れによって冷却されたことによって生じたブリッジの電圧変化から流速を換算するものです。出力電圧と流速の関係は相対的なものであり、計測に際しては必ず校正が必要になります。

レーザードップラー風速計やピトー管による計測のように流れ場の基本的な性質 (ドップラーシフトやベルヌーイの式) を利用したものではありません。校正が十分にできない環境の場合には、ピトー管のほうが正確だと言えます。

熱線式風速計の利点は、その応答速度の速さにあります。プローブを小さくできるため、熱容量も小さくなり、風速変化による冷却熱量の変化に敏感に反応可能です。また、風の向きが正確にわからない場合、熱線式風速計は無指向性のプローブも販売されています。無指向性のプローブを使うと、プローブの向きを気にせず風速を図ることができるため大変便利です。

そのほかに用いられる風速計として以下のものを例に挙げます。それぞれの特徴を生かして選択してください。

ピトー管式風速センサ
産業用途でよく使用されています。ピトー管式風速センサは、風の流れに対して正面と側面に小さな穴を設け、その圧力差を測定してベルヌーイの定理から風速を測定します。空気の流れに対して垂直に向けていないと正確な流速は得られませんが、原理が単純なため安価なものが多いです。

ベーン式風速センサ
ベーンホイール風速センサの測定原理は流体により回転するベーン (羽根車) の回転数を計測して速度を演算します。回転数は速度に対して比例するという原理に基づきます。

回転数は流体の密度、圧力および温度からの影響はほとんど受けません。ベーンの回転数は近接スイッチやフォトカプラによりカウントされます。

熱線式に比べて、熱の影響を受けないため屋外でも使用可能ですが微風領域の精度が低くなり、応答速度も遅いため風速が小刻みに変化する場合には適しません。

参考文献
https://royalsocietypublishing.org/doi/abs/10.1098/rsta.1914.0023
http://www.kanomax.co.jp/technical/detail_0013.html
http://www.hiyoshidenki.co.jp/hpmatrial/genri.pdf

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