監修:東京フェライト製造株式会社
プラスチックマグネットとは
図1. プラスチックマグネット
プラスチックマグネットとは、プラスチックに磁性材料を混ぜて成形したマグネットのことです。
混合する磁性粉末は、フェライト磁石以外に、ネオジム磁石 (NdFeB) 、サマリウムコバルト磁石 (SmCo) 、サマリウム鉄窒素磁石 (SmFeN) などがあります。小型軽量で高性能化なため、多くの用途に使用できます。
プラスチックマグネットの製造には、樹脂の射出成形同様、ペレット状 (お米のような大きさの粒状) のプラスチック樹脂と、数種類の添加剤を混合した材料を用います。
プラスチックマグネットの使用用途
プラスチックマグネットの主な使用用途は、工業製品や生活家電の各種センサーやモーター、OA機器駆動部や、トナーを均一にするマグネットローラー (マグロール) 、ポンプ、吸着雑貨、映像音響機器装置などです。
幅広い分野の製品内部に用いられており、近年ではハイブリッド自動車、電気自動車などの自動車用電動ウォーターポンプ駆動や、EGRバルブ、ガソリン封鎖弁、車載センサー等にも使用されています。
プラスチックマグネットの性質
長所
焼結磁石と比較して樹脂は柔軟性があり、割れ欠けクラックが少なく、研磨無しの焼結磁石よりも寸法精度に優れています。焼結磁石より複雑で特殊な形状で成形が可能です。生産工程が少なく、焼結磁石に比べ短納期です。設計よっては、シャフト (棒状の金属) 一体成形、プレート (板状の金属) 一体成形など、金属や他の樹脂部品と一体で成形する事も可能です。
また、焼結磁石のような研磨ではなく、切削加工によって寸法精度を向上することも可能です。樹脂を含有するため膨張収縮がありますが、焼結磁石も研磨前の製品にバラツキがあり、後加工による寸法精度は焼結磁石と同等程度です。研磨は一度にマグネット投入し加工できますが、切削加工はマグネット1つ1つセットして加工するためコスト的には研磨の方が安くなります。
短所
同じフェライト磁石の場合、焼結磁石と比較すると価格は数倍高価です。更に樹脂が含有する分、焼結磁石よりも磁力は低くなります。また使用する樹脂により、吸水や加熱によって膨張収縮の寸法変化が発生します。耐熱性として磁石自体の耐熱温度もありますが、プラスチックマグネットの場合、プラスチック自体の耐熱温度も加味しなければなりません。
形状によってはプラスチック特有のソリやヒケなどの考慮も必要です。形状や設計、金型の取数によっては、バリや気泡の発生、マグネットの粗密、割れ欠けに繋がる恐れがあります。設計の際は、射出成形知識とマグネット知識、そしてプラスチックマグネット特有の知識が必要です。
プラスチックマグネットのその他情報
1. 樹脂の種類
樹脂の種類は、12ナイロン (PA12) ・6ナイロン (PA6) ・ポニフェニレンサルファイド (PPS) など、材質が分けられています。6ナイロンは吸水性が高い為、腐食の可能性がある希土類磁石との組み合わせはありません。フェライト磁石は酸化鉄 (鉄錆び) を使用している為、基本的に磁石自体は腐食しません。
2. 成形方法
図2. プラスチックマグネットの成形
成形方法は2種類あり、熱可塑性樹脂はインジェクション成形 (射出成形) 、熱硬化性樹脂はコンプレッション成形 (圧縮成形) で成形されます。
また、射出成形の場合はまずペレットを乾燥させます。ナイロンは吸水性がある為、乾燥することで成形機内や金型内において樹脂の加水分解を抑制します。プラスチックマグネット専用の成形機や金型を使用して、射出成形機シリンダー内で、加熱と圧縮でペレットを溶融します。このマグネット入り溶融樹脂を成形機スクリューによって、成形機内の金型に流し込みます。流し込んだ溶融樹脂を金型内で冷やし、固化することによって金型形状が転写製造され、プラスチックマグネットが完成します。
この一連の動作中には、ペレット内の磁性粉を、金型内で磁場配向を行わずに成形する等方性と、磁場配向を行って成形する異方性が存在します。
3. 異方性と等方性
図3. 異方性と等方性
磁極性は、磁区配向により、等方性と異方性の2種類に大別されます。等方性は磁石内の配向を揃えておらず、どの方向にも着磁ができます。製法として磁力は異方性と比較して弱くなります。異方性は、磁場を配向させることにより、一定方向への磁力を高くできます。製法として等方性と比較してある一定方向への磁力が高くなります。
4. 磁化 (着磁) 方向
異方性の磁区配向は、アキシャル (上下・軸方向) 、ラジアル (周・放射状方向) 、極異方性など、用途と特徴によって磁化方向と着磁方法が異なります。等方性は着磁機と着磁ヨークを使用して配向させることにより着磁後マグネットとなります。アキシャル品やラジアル品は成形のまま使用するマグネットもありますが、多くは一度ラジアル・アキシャルの脱磁後あらためて使用極数を着磁機と着磁ヨークで配向させることにより、異方性マグネットとなります。
極異方性については、金型内に予め設計した磁場配向を決めたパターンの磁場配向装置を金型内に組み込み、組み込んだ磁場配向装置で配向を決めてマグネットをつくります。極異方性は既にマグネットに合わせて磁力が入った状態でプラスチックマグネットができるため、後からの着磁は基本的に不要です。
本記事はプラスチックマグネットを製造・販売する東京フェライト製造株式会社様に監修を頂きました。
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