ロジン

監修:荒川化学工業株式会社

ロジンとは

ロジンとは、松に含まれている松脂 (松やに) を精製して得られる天然樹脂 (再生可能なバイオマス素材) です。

現代は非常に多種の工業製品が石油から合成された樹脂を使って製造されています。樹脂は本来、粘り気のある高分子化合物のことを指し、天然樹脂と (化学) 合成樹脂があります。天然樹脂には、植物由来、動物由来、鉱物由来のものがあります。天然樹脂の主なものとしては、漆、松脂 (ロジン) 、天然ゴム、琥珀、シェラック、膠 (にかわ) 、鼈甲 (べっこう) 、カゼイン、天然アスファルトなどがあります。

粉末状のロジンはスポーツ時のすべり止めとして、また、バイオリンの弓など弦楽器にも塗られるなど、古くから使用されています。また、各種工業製品の製造時において、その製品の特性を改良するための中間素材としても広く使われています。

ロジンの使用用途

ロジンはスポーツ時のすべり止めとして使われている他、各種工業用の中間素材としても活用されています。また、ロジンを原料として製造されるロジン誘導体は、製紙用薬品、合成ゴム、インキ、塗料、はんだ、粘着・接着剤さらにはチューイングガム等に幅広く使用されています。

1. サイズ剤 (インキのにじみ止め)

製紙会社が紙を製造する過程で、紙に書いたインクがにじんで広がってしまうのを防ぐ目的で使用されるのが製紙用サイズ剤です。水系で紙に均一に浸透するサイズ剤として、ロジン誘導体が使われています。

2. 粘着・接着剤用樹脂

粘着・接着剤の粘着力の発現や各種基材への密着性を向上するために使用されるのが、粘着付与剤 (タッキファイヤー) です。粘着付与剤にはロジン誘導体や水素化石油樹脂などがあり、粘着・接着剤の主成分であるエラストマーや合成樹脂などに幅広く相溶性を示すのがロジン誘導体の特徴です。

3. 印刷インキ用樹脂

印刷物をキレイに仕上げるための色を表現する顔料の分散性を良くし、印刷時の乾燥性 (生産性) を向上するために使用されるのが印刷インキ用樹脂です。主にオフセット印刷に使用されるインキ用樹脂としてロジン変性フェノール樹脂が使われています。

4. 合成ゴム重合用乳化剤

自動車のタイヤ用などをはじめ SBR (スチレンブタジエンゴム) 、ABS (アクリロニトリル・ブタジエンゴム・スチレン樹脂) 、CR (クロロプレンゴム) 等の合成ゴム類の重合用乳化剤として、粘着性付与やゴムの諸物性の向上の役割を果たすために主に不均化ロジンソープ (アルカリ金属塩の水溶液) が使用されています。

5. はんだフラックス樹脂

フラックスは、はんだ付けされる基板電極や部品、はんだ自身の金属酸化膜を除去して清浄な表面を作り出します。このことで、はんだのぬれ性を十分に確保し、はんだの付きを良くします。このフラックスにロジン誘導体が含まれています。

6. チューインガムベース

チューインガムの噛み心地の度合いを調整しているのが、ロジンを原料とした食品用「エステルガム」です。安全な食品添加物として登録され、粒ガム・板ガムを問わず広く添加されています。

ロジンの性質

1. ロジンの製造方法

ロジンは松の木の樹脂から作られています。ロジンの製法の違いによって、ガムロジン (脂松香) 、トール油ロジン (浮油松香) 、ウッドロジン (木松香) などがあります。

ガムロジンは伝統的な製法です。先ず、松の木の樹皮に傷をつけ、傷口から流れ出る樹液 (生松脂) を採取します。生松脂から揮発性油 (テレピン油) を蒸留分離して残ったものがガムロジンになります。

トール油ロジンは、製紙工場においてクラフトパルプを作る際の蒸解廃液から出たスキミングを酸分解した粗トール油をさらに減圧蒸留精製して製造します。現在もこの方法で多くのロジンが生産されています。

ウッドロジン (木松香) は、松の古い切り株をチップに加工して溶剤を使って抽出したものです。1910年にアメリカで始まった製法ですが、切り株が枯渇したことでこの製法は大幅に減少しました。

2. ロジン誘導体

ロジン誘導体は、ロジンを原料として作られ、身の回りの生活を支える様々な製品の中間素材です。ロジンには多くの誘導体が存在し、ロジンの活用用途を広げています。

ロジンエステル
ロジンをアルコールとエステル化させて得られる物質です。ロジンエステルは、粘着・接着剤用のタッキファイヤー (粘着付与剤) として、また、チューインガムのベース (基礎剤) 、塗料、インク、ゴム、紙などの用途に用いられます。

水素化ロジン
ロジンに水素を付加させて得られる物質です。未変性ロジンと比較して、空気中の酸素による酸化を受けにくく、耐熱性、耐候性に優れており、かつ酸価を有することからはんだフラックス用途を中心に、顔料コーティング、インキ、塗料、ゴムなどさまざまな用途に使われています。また、エステル化物は粘着・接着剤などの用途に広く用いられています。

不均化ロジン
ロジンを触媒存在下、異性化して安定化させたロジン誘導体であり、主に合成ゴムの乳化重合時の乳化剤原料として使用されています。自動車用タイヤなど合成ゴムの乳化重合時は不均化ロジンソープ (アルカリ金属塩の水溶液) として使われ、粘着性付与やゴムの諸物性の向上に役立っています。

重合ロジン
ロジンを触媒存在下で二量化し樹脂酸を含む誘導体としたもので、ロジン対比で軟化点が高く、ホットメルト接着剤やはんだ用フラックスなどで使用されています。

酸変性ロジン
ロジンをマレイン酸やフマル酸などで変性して得られる樹脂であり、主に製紙用サイズ剤、塗料や水性インキ用樹脂などの原料として幅広く使われています。

ロジン変性フェノール樹脂
ロジン骨格をレゾール型フェノール樹脂で結合させ、さらに各種ポリオールのエステル化により高分子量化したようなもので、アルキルフェノールのアルキル鎖の親油性部分やフェノールやポリオールの水酸基やロジンのカルボン酸による親水性部分を有しており、インキ溶剤などへの溶解性やオフセット印刷の光沢や乾燥性などの諸物性の調整の役割を果たしています。

アクリル化ロジン
ロジンにアクリル酸を付加させて得る物質です。アクリル化ロジンは、粘着・接着剤、塗料、インク、ゴム、紙などに使用されます。

超淡色ロジン
従来のロジン及びロジン誘導体の黄褐色に着色している色調面の課題に対して超淡色化に成功した樹脂です。初期色調や経時安定性に卓越したロジン誘導体であり、粘着付与剤やはんだフラックス用樹脂、医療用貼付剤など幅広く使用されています。

ロジンの選び方

ロジンは、アビエチン酸を主成分とする樹脂酸からなる天然の樹脂で、塗料、粘着・接着剤、印刷インキ、ゴム、紙などの中間素材として広く利用されています。ロジンの選択時に考慮すべき事項は、以下のようなものがあります。

1. ロジンの製造由来と性質

ロジンには、松の樹脂から得られるガムロジン、松の切り株から得られるウッドロジン、製紙工場の副産物であるトール油ロジンなどがあります。これらのロジンは、樹脂酸の種類や含有量などによって、溶解性、硬度、粘度、色調、安定性などの物理的・化学的性質が異なります。用途に応じて最適なロジンを選択することが必要です。

2. ロジンの改質と添加

ロジンには性能を向上させた様々な誘導体があります。各種ロジン誘導体によって性質は異なるため、目的に合ったロジン誘導体や添加方法を選択する必要があります。

3. ロジンの価格と入手性

ロジンは天然由来の原料であるため、気候や需要などによって価格や入手性が変動することがあります。その時々の価格や供給安定性に注意が必要です。

4. 使用用途に応じた対応

ロジン誘導体に関して、用途によっては「登録されたもの」を使う必要があります。チューインガムベースとして使用する場合は、食品添加物公定書やFDA (英: Food and Drug Administration, アメリカ食品医薬品局) に登録された材料から選定する必要があります。医療用貼付剤用のタッキファイヤー (粘着付与剤) 、医薬品・医薬部外品・化粧品原料として使用する場合は、薬添規 (医薬品添加物規格) 、外原規 (医薬部外品原料規格) 、化粧品原料国際命名法 (英: International Nomenclature of Cosmetic Ingredient, INCI) などに登録された中から選択する必要があります。

本記事はロジンを製造・販売する荒川化学工業株式会社様に監修を頂きました。

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