アントラキノンとは
図1. アントラキノンの基本情報
アントラキノンとは、アロエなどの天然植物にも含まれる芳香族に属する有機化合物です。
IUPAC系統名では、アントラセン-9,10-ジオン (英: anthracene-9,10-dione) です。別名には、9,10-アントラセンジオン (英: 9,10-anthracenedione) 、アントラセン-9,10-キノン (英: anthracene-9,10-quinone) 、アントラジオン (英: anthradione) などがあります。果皮や葉の色素の元になっています。
アントラキノンの使用用途
アントラキノンは、主に工業分野で使用されます。一例としては、アントラキノン系の染料を製造するための、出発材料として利用可能です。アントラキノンを材料とした染料は、「日光や洗濯に強い」、「色調も豊かで鮮明」という特徴があり、高級染料に位置づけされます。
その他、下剤の製造中間体、パルプ蒸解の添加剤、過酸化水素の製造の水素キャリアなどの用途で使用されます。農業分野では、鳥の忌避剤としても使用可能です。
アントラキノンの性質
アントラキノンの融点は286°Cで、沸点は379.8°Cです。常温では、黄色の結晶の状態で存在します。日本国内で特定化学物質には、該当しない化学物質です。
アントラキノンは、ニトロベンゼンやアニリンに溶けます。ベンゼンやトルエンに熱時溶解しますが、水やアルコールには溶けません。通常の条件下でアントラキノンは、化学的に極めて安定です。
アントラキノンの構造
アントラキノンは、アントラセン (英: anthracene) の誘導体です。アントラセンの化学式はC14H10、アントラキノンの化学式はC14H8O2です。モル質量は208.21g/molで、密度は1.308g/cm3です。
1,2-アントラキノン、1,4-アントラキノン、9,10-アントラキノンの3種類の異性体が存在します。ただし普通は、9,10-アントラキノンのことを指します。
アントラキノンのその他情報
1. アントラキノンの合成法
アントラキノンは、アントラセンを酸化して得られます。
また、フリーデル・クラフツ反応 (英: Friedel–Crafts reaction) を用いても合成可能です。すなわち、塩化アルミニウムを使用して、無水フタル酸とベンゼンの縮合によって、アントラキノンが生成します。この反応では、o-ベンゾイル安息香酸が生じると自発的に環化して、アントラキノンを得ることが可能です。
さらに、1,3-ジエンやナフトキノン (英: 1,4-naphthoquinone) のディールス・アルダー反応 (英: Diels–Alder reaction) でも、アントラキノンが合成できます。
2. アントラキノンの反応
図2. アントラキノンとグリセロールの反応
アントラキノンを用いた古典的な反応の具体例として、バリー・スコール合成 (英: Bally-Scholl synthesis) が挙げられます。アントラキノンはグリセロール (英: glycerol) と反応して、ベンズアントロン (英: benzanthrone) を生成します。バリー・スコール合成では銅と硫酸の存在下で、キノンの1つのカルボニル基がメチレンになって還元されて、グリセロールが付加します。
3. アントラキノンの応用
図3. アントラキノンによる過酸化水素の製造
天然色素の多くは、アントラキノン骨格を有します。例えば、色素であるアリザリン (英: alizarin) の原料としても、アントラキノンが利用されます。
それ以外にも、工業的に誘導体の2-エチルアントラキノン (英: 2-ethylanthraquinone) は、過酸化水素の製造のために使用されます。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-0431JGHEJP.pdf