フィチン酸とは
フィチン酸は化学式C6H18O24P6で表され、リン酸とイノシトールが結合して生成される化学物質です。生体物質の1種で、ほぼすべての哺乳動物の細胞にわずかに存在し、細胞の分化、増殖、シグナル伝達といった重要な機能に関わっています。ヒトでは心筋や脳、筋肉などに多く含まれており、細胞機能を制御しています。
生理的pHでは、部分的にイオン化し、フィチン酸アニオンとして存在します。種子やふすま(ブラン)など多くの植物組織に含まれるリンの主要貯蔵形態であり、栄養学的に重要な役割を担っています。マメ科植物、穀物(特にイネやトウモロコシ)、穀類など、食物繊維の多い植物に豊富に含まれています。
キレート作用が強く、多くの金属イオンと強く結合します。食事で摂取されるミネラル分(カルシウム、鉄、亜鉛など)とも強い結合親和性を持ち、小腸における吸収を阻害します。自然界において、フィチン酸が単体として存在することは稀で、フィチン(フィチン酸のカルシウム・マグネシウム混合塩)として多く存在しています。
フィチン酸の使用用途
フィチン酸は食品分野、医薬品分野、化粧品分野など、幅広い領域で使用されます。
キレート作用が強く金属イオンと強く結合することから抗酸化作用があるので、食品添加物(E391)として用いられます。酸化防止、変色防止を目的として、あるいはpH調整や酸味料として、飲料や菓子、調味料に配合されます。
医薬品分野では、取り扱いや服用のしやすさを向上させることを目的として、経口薬に賦形剤として配合されます。この他、強い抗酸化作用、細胞増殖の抑制作用、血小板凝集を防ぐ作用、など複数の有用な作用を持ち、ガン細胞の抑制剤、口腔ケア剤、血液凝固を防ぐ薬として使用されます。
また、化粧品分野において、キレート剤(金属イオン封鎖剤)として使用されます。具体的には、硬水の軟化や品質安定化(変色・変臭、沈殿・濁りなどの防止)を目的として用いられます。泡立ち性の改善を目的として、シャンプーなどに配合されます。また、抗菌剤としても使用されています。
人体への影響
フィチン酸はその高いキレート作用ゆえ、鉄、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル吸収を妨げる可能性が指摘されています。このことは、ミネラルの摂取量が著しく低い地域においては好ましい作用ではありません。
一方で、肉や魚、野菜や果物などバランスのとれた食事を摂れている場合には、フィチン酸の摂取がミネラルの利用性に影響しないことが判明しています。
ナッツ類、穀類、豆類などに含まれているフィチン酸塩は調理によって分解されます。また、フィチン酸のミネラル吸収抑制効果を減少させるに、発芽、調理、発酵、酸への浸漬といった方法がとられています。
具体的には、アスコルビン酸(ビタミンC)や有機酸の添加、ピクルスなどの乳酸発酵がフィチンのミネラル吸収抑制効果を弱めることも判明しています。このように適切に調理されている場合や、栄養が十分に取れている場合には、フィチン酸が人体に悪影響を及ぼす証拠は認められていません。