監修:ヘキサコア株式会社
PDU盤とは
PDU盤とは、UPS (無停電電源装置) から供給を受けた電力を、搭載している変圧器で降圧し、PDPなどの下位装置に分配する交流分電盤です。
搭載する変圧器のサイズは、小容量のものから600kVA程度の大容量のものまで、PDU盤が使用される設備によってさまざまですが、近年では500kVA程度の変圧器を搭載した大型のPDU盤が主流となっています。
なお、PDU盤やその周辺機器の定義は、業界や企業によって異なる場合があります。例えば、ラック内に設置するコンセントバーなどをPDUと呼ぶこともあります。
本記事では、主にデータセンター内にて使用される自立型の交流分電盤とその周辺機器を対象として説明します。
PDU盤の使用用途
図1. データセンター内の機器構成図
PDU盤は主にデータセンターへ導入され、UPSから供給を受けた400V電源を、搭載している変圧器で、PDU盤の末端の負荷装置であるサーバーなどが使用する200Vまたは100Vに降圧し、下位装置に電力を分配するために使用します。
PDU盤の主な目的は電力を変圧することであるため、多くの場合は分電機能を補うために、30A程度の分岐ブレーカーを数十個搭載したPDP盤と呼ばれる交流分電盤をPDU盤の下位装置として設置し、大規模システムを構築するPDU+PDP方式が採用されます。
なお、中小規模のデータセンターで使用する場合の多くは、PDU盤よりも搭載する変圧器の容量が小さく、変圧機能と分電機能の両方を備えたPDF盤が採用されます。
PDU盤の原理
PDU盤は、多数の部品を組み合わせることで上位装置から供給を受けた電力を、搭載している変圧器で降圧し、下位装置へ給電を行います。
データセンターで使用される電気設備は、「安全性」「信頼性」の2点が強く求められます。PDU盤を構成する各部品には、それぞれ大切な役割がありますが、その中でも特に安全性・信頼性につながる部品とその役割をご紹介します。
1. 過電流保護協調 (対象部品: ブレーカー)
図2. 過電流保護協調
ブレーカーは短絡事故などにより、定格電流を超える過電流が流れた際に回路を遮断することで、対象の回路や機器の安全を守ります。
遮断方法には、主幹ブレーカーと分岐ブレーカーの両方が回路を遮断する「カスケード遮断」と、分岐ブレーカーのみが回路を遮断する「選択遮断」があります。カスケード遮断の場合、主幹・分岐ブレーカーの両方が動作することで、回路全体を遮断します。遮断容量の小さなブレーカーでも構成することができ、経済性に優れた遮断方法ですが、健全回路への給電も遮断されるため、回路遮断による影響は大きくなります。
一方で、選択遮断の場合、主幹ブレーカーが動作する前に、事故発生点の分岐ブレーカーが事故回路を遮断することによって、健全回路への給電を止めることなく事故に対処することができます。選択遮断のように、事故回路のみを切り離し、健全回路への給電は継続するように主幹・分岐ブレーカーの動作特性 (ブレーカーが動作するまでの時間と電流値) を調整することを保護協調 (過電流保護協調) といいます。
調整には、回路内で使用されている各ブレーカーの動作時間特性が記入されている保護協調曲線図というグラフを使用します。搭載するブレーカーの仕様をもとに、主幹・分岐ブレーカーの動作時間特性が交差しない点を保護協調曲線図で確認し、適切なブレーカーを選定します。
2. 高調波 (対象部品: 変圧器)
変圧器は、上位装置から供給を受けた電圧を、下位装置が必要とする電圧に降圧するために使用します。
PDU盤を設置するデータセンター内にはさまざまな機器が設置され、互いに影響を与えることもあります。その1つが高調波です。
高調波とは、50Hz/60Hzといった基本周波数に対し、その整数倍の周波数を持つ、歪んだ波形のことを指します。高調波は、例えば整流器で交流電流を直流電流に変換する過程などで発生します。高調波を含む交流電流は高調波電流とも呼ばれます。高調波電流は歪んだ波形をしているため、電力が有効に使用される割合である力率が低く、無効電力が大きくなることで、入力電流の値が大きくなります。
高調波電流が流れると、周辺機器の異音や振動を引き起こす可能性があります。また、回路に過大電流が流れることで、主回路の通電部の温度が上昇し、ヒューズや遮断機の溶断・誤作動によって、回路が遮断される可能性もあります。
高調波による影響を防ぐ方法には、いくつかの対策がありますが、今回はPDU盤に搭載される変圧器を用いた対策法として、K-Factor変圧器をご紹介します。
K-Factor変圧器とは、高調波を含む環境で変圧器を運転した場合の巻線損失 (温度上昇) の増加が、規格値以下となるように設計された変圧器です。高調波の影響により、浮遊負荷損 (渦電流損) の増加や表皮効果が発生することで、巻線の異常加熱が発生する可能性がありますが、高調波対策の取られたK-Factor変圧器を採用することで、変圧器二次側から流入する高調波の影響による加熱を防ぎます。なお、K-Factor変圧器の定格容量であるKレートは、高調波成分が含まれる度合を示し、数値が大きいほど高調波に対する耐性が強いことを表します。
PDU盤の種類
PDU盤は、導入先の設備で求められる使用用途に合わせ、ユーザー様ごとに仕様をカスタマイズしてご提供することが多い製品です。カスタマイズの一例は下記の通りです。
1. 高調波対策
高調波対策が必要な場合は、K-Factor変圧器を採用することで、周辺に整流器などの高調波を発生させ得る機器が設置されている場合でも、導電部の異常加熱を防ぐことができます。また、中性相強化として、電線径のサイズアップを行うことも有効です。
2. 各種配線方法への対応
データセンターの配線方法には、主に電線を使用して電力供給が行われるケーブル配線と、導体を使用して電力供給が行われるバスダクトがあります。各種配線によって、回路構成が異なるため、導入先設備の電力供給の方法に合わせた仕様でPDU盤の設計を行います。
3. 監視システムの構築
PDU盤が使用している電力や電流の計測、計測値の遠隔監視を行いたい場合は、電流センサーの搭載や、監視ソフトの導入を行い、監視システムを構築します。
24時間365日安定して稼働することが求められるデータセンターでは、安全に十分配慮した運用が行われていますが、短絡や過電流によりIT機器への電力供給が中断されることで、サービスが停止してしまう事故は多く発生しています。事故を未然に防ぐこと、また事故が発生した場合には被害を最小限にとどめるためにも、常に機器が使用している電力や電流を測定し、運用状態を監視することが大切です。
また、2022年度よりデータセンター事業がベンチマーク制度の対象事業となったことで、対象となる事業者はエネルギー使用量を報告することが求められています。
エネルギー使用量に関する情報を収集し、省エネを実現する手段として、電流センサーや監視ソフトを搭載・導入することは効果的なカスタマイズ方法といえます。
PDU盤の構造
図3. PDU盤の主要構成機器
PDU盤は、自立型の筐体を外観とします。
筐体内部は、主に変圧器、分岐ブレーカー、電線または銅帯で構成されます。上位装置から供給を受けた電力は、電線または銅帯を介して盤の内部へ供給されます。供給された電力は変圧器へ入ります。変圧器の一次側に主幹ブレーカーが搭載される場合は、電力は主幹ブレーカーを介して変圧器へ入ります。変圧器によって降圧された電力は、電線または銅帯を介して分岐ブレーカーを通り、下位装置へ分配される構造となっています。
また、電流値の計測を行う場合は、変圧器の1次側・2次側・分岐回路など、PDU盤の内部へ電流センサーなどの計測機器を搭載します。計測した電流値を監視する場合は、監視ソフトを導入し、監視システムを構築します。
PDU盤の選び方
PDU盤を設計・製作するにあたり主に以下の仕様を、ヒアリングを通じて決定します。
1. 筐体サイズ
W (幅) ×H (高さ) ×D (奥行) の寸法値からPDU盤の筐体サイズを決定します。 設置場所によっては筐体サイズに制約がある場合もあるため、事前にPDU盤を設置予定の設備の確認が必要です。
2. 入力電源
UPSの出力値を確認し、PDU盤に電力を取り入れるための配線方式を決定します。
3. 上位容量
PDU盤の上位に設置される分岐盤に搭載されている分岐ブレーカーの仕様を確認し、PDU盤に入力する電流値を決定します。
4. 短絡電流値
回路内のインピーダンスを記載した単線結線図であるインピーダンスマップを用いて短絡電流値を算出します。
5. 主幹ブレーカーの仕様
定格電流や、PDU盤の上位装置に搭載されているブレーカーとの保護協調などの仕様から、変圧器一次側に搭載するブレーカーを選定します。 なお、変圧器に電圧をかけると、一時的に励磁突入電流という電流が流れます。主幹ブレーカー選定時には、励磁突入電流によってブレーカーが遮断しないことも考慮する必要があります。
6. 変圧器の仕様
一次電圧、二次電圧、結線方式、容量、励磁突入電流倍数などの仕様から、PDU盤に搭載する変圧器を選定します。また、高調波対策が必要な場合は、K-Factor変圧器など、高調波対策を考慮した変圧器を選定します。
7. 分岐ブレーカーの仕様
定格電流や短絡電流、極数、種類、主幹ブレーカーとの保護協調などの仕様から、変圧器二次側に搭載するブレーカーを選定します。また、下位に設置する装置の容量も考慮した選定を行う必要があります。
8. 警報装置や計測、監視システムの有無/仕様
各種計測や計測値の監視を行うか、行わないかを決めます。計測や監視を行う場合は、搭載する計測機器の種類や仕様、搭載場所、遠隔監視システムの構築方法を決定します。
本記事はPDU盤を製造・販売するヘキサコア株式会社様に監修を頂きました。
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