薬品庫とは
薬品庫とは、大学の実験室、企業の研究室や工場など、研究や製造時に使用する試薬を常時保管するための密閉式のキャビネットまたは倉庫のことです。
試薬に関係する法律などにより、特定の機能や運用上のルールが必要とされる場合があります。例えば、毒物および劇物取締法、労働安全衛生法、消防法などです。
大学や企業はこの法律をもとに、薬品庫による試薬の保管・運用ルールを個別に策定しています。適切な保管・運用を実現するため、薬品庫を設置、薬品の保管場所を指定して管理しています。
薬品庫の使用用途
薬品庫の使用用途は、薬品の保管と管理です。管理方法は関連法令をもとに、実用性や管理方法を勘案して定めます。法令上高頻度に要求され、実務上も盗難を避けるために必須な機能は施錠です。
関係者以外が取り出して悪用したり、環境中に放出されてしまうようでは問題となります。毒物または劇物であれば、法令上も施錠を行い、鍵を管理することが必須です。
薬品庫に収める試薬の保管方法や関係法令は、購入した試薬容器に記載されているラベルと購入時に添付されるSDS (Safety Data Sheet) と呼ばれる書類で判断します。
薬品庫の原理
薬品の管理に共通して求められるものは、施錠ができること、堅牢なものであるであること、腐食しにくいことです。試薬瓶の盗難や落下による破損があってはならず、試薬には腐食性のものが多いことから来ています。
そのため、薬品庫の1つの形態は鍵付きのステンレス製のキャビネットです。ステンレスは腐食に強いためです。また、施錠できるコンクリート造の倉庫に堅牢な棚を設けて薬品庫とされることもあります。
薬品庫の種類
薬品庫と言っても、その種類は多数存在します。収納する試薬と管理方法を勘案して選択することが必要です。
1. 前面がガラス張りのキャビネット
前面がガラス張りになっているステンレス製キャビネットの薬品庫が最も一般的です。ガラス張りになっているため、薬品庫のドアを開けなくても試薬の種類が分かり、かつ試薬の消失などないか運用管理の面でも把握がしやすい構造となっています。
ただし、大きな地震が発生した場合などは、転倒や他のものが倒れかかってくることにより、ガラスを突き破って試薬が飛び出してくる可能性があります。そのため強酸・強アルカリや毒物・危険物などの試薬を保管することはあまりありません。
2. 引き出し型の試薬ラック
他のタイプの薬品庫として、ステンレス製の引き出し型ラックに試薬を収納するものもあります。ステンレス製の引き出しを引いて試薬を出し入れします。
ガラス張りではないため、大抵の衝撃などでは試薬が外に飛び出すことはなく、人体に被害を及ぼすことはありません。溶媒瓶を収納したときを想定し、溶媒蒸気を逃がす換気扇を備えたもの、その排気の浄化のために活性炭フィルターなどを備えたものもあります。
デメリットとしては、外から中の状態が見えないため試薬を紛失している場合すぐに気づかない可能性があるので、定期的に試薬の在庫を確認するなどルール決めが必要なことです。
3. 薬品庫
特定の部屋を薬品庫として運用することもできます。出入口が限定され、施錠できることが重要です。実験棟を新築するときに初めから設けることもあります。部屋の中に固定された試薬棚を設けます。
一定の換気が必要で、危険物を収納する場合には照明や換気扇を防爆とする配慮も欠かせません。指定数量以上の危険物を保管する場合は危険物貯蔵所に、政令・条例で定める指定数量倍数 (多くの地域で5分の1) 以上指定数量未満の危険物を保管する場合は少量危険物貯蔵取扱所とする必要があります。
試薬が漏出したときに浸透しないよう、床材に配慮することも重要です。例えば、塩ビシート張りとする、耐溶剤性の塗装仕上げとする方法が挙げられます。
薬品庫のその他情報
1. 試薬の収め方
薬品庫への試薬の収め方に決まったルールはありませんが、大抵は性状的に似通った試薬同士、例えば酸、アルカリ、有機溶剤などをグルーピングして同じ棚に保管していきます。
混蝕危険がある場合には、離して管理します。試薬によっては蒸気が問題となることもあるので、基本的には異なる棚に置くことが望ましいです。
2. 災害対策
地震対策として転倒防止が重要です。転倒によって試薬瓶の破損、試薬の漏洩、漏洩した試薬の混触発火につながるためです。試薬瓶が転倒・落下しないように、仕切りラックを活用するなどして適切な固定をします。
火災対策としては、危険物に該当する試薬を適切に管理するほか、消防活動阻害物質に指定されている試薬を把握しておくことも重要です。
参考文献
http://www.epc.osaka-u.ac.jp/yellow/Chemicals&Laws.htm
https://www.monotaro.com/s/c-9864/