においセンサーとは
においセンサーとは、においの強弱を測定し、数値化して表す測定器です。
においの評価は、従来、官能検査のパネリストや臭気判定士などの熟練者によりおこなわれていました。においセンサーは、この評価を人間に代わって行い、数値化して表示します。
においセンサーの使用用途
においセンサーは、主に、「食品・化粧品の研究開発ならびに品質管理」、「環境の悪臭計測」、「ガス・火災などの異常監視」の分野で使用されています。
1. 食品・化粧品の研究開発ならびに品質管理
食品・化粧品の研究開発ならびに品質管理の分野では、個々のガス成分ではなく、対象物が発する総合的なにおいを測定しています。具体的な用途は、原料の受入検査、製品の出荷検査、食品の鮮度測定などです。
2. 環境の悪臭計測
環境の悪臭計測の分野では、臭気の強度が問題となる時に用いられています。具体的な用途は、作業環境の管理や脱臭装置の効果測定などです。
3. ガス・火災などの異常監視
ガス・火災などの異常監視の分野では、安全管理の目的で使用されています。この場合、人間の嗅覚との対応は不要です。
このほか、医療診断を目的とし、がん患者に特有である呼気成分を感知して病気の有無を検査するセンサーの開発も行われています。
においセンサーの原理
においセンサーの主な方式は、「半導体式」と「水晶振動子式」の2種類です。順番に解説します。
1. 半導体式においセンサー
半導体式においセンサーは、ガスセンサーとしても以前から用いられています。半導体表面へにおい分子が吸着すると、表面反応が起こり、半導体の抵抗値が変化します。
この抵抗値の変化によりにおいを検知する仕組みです。なお、半導体式においセンサーには、「酸化物半導体式」と「有機半導体式」があります。
有機半導体式では、ポリピロールやポリアセチレンが半導体膜として使用されています。有機半導体式では、有機化合物よりなるにおいの識別が可能です。しかし、高価であることがデメリットです。
2. 水晶振動子式においセンサー
水晶振動子式においセンサーは、振動子の表面へ脂質膜と呼ばれる人間の嗅細胞を模した感応膜を貼り付けた構造です。におい分子が感応膜に吸着すると、質量負荷効果により振動子の共振周波数が低下します。
この低下量と吸着したにおい物質の質量とが比例する仕組みを利用し、低下量を計測して、におい物質の濃度を測定する仕組みです。特に有機系のにおい物質を得意とし、ウイスキーや日本酒、コーヒー、香水などの識別が可能です。
3. FETバイオセンサー
FETバイオセンサーは、バイオ分子とトランジスタ技術を組み合わせたセンサーです。通常のFETを基盤にしていますが、ゲート部分にバイオレセプターが付着しています。バイオレセプターと対象物質で結合が発生すると、FETのゲート電荷が変化して検知する仕組みです。
微量の物質でも検出できる高い感度を持っています。また、バイオレセプターが選択的に反応するため、特定物質だけを検出することが可能です。
4. 膜型表面応力センサー
膜型表面圧力センサーとは、特殊な薄膜を利用して化学物質の量を検知するセンサーです。薄膜に化学物質が接触するとこれらを捕集し、膜自体が歪みます。この歪みを検知することで、化学物質との接触を検知する仕組みです。医療への応用などを期待されています。
においセンサーのその他情報
1. スマートフォン装着式においセンサー
2019年、スマートフォンに装着するタイプの小型においセンサーが開発されました。においセンサーとスマートフォンをUSB Type-Cで接続して使用する仕組みです。主にガス漏れ、食品などの鮮度管理、体臭、アルコールチェックなどの使用用途が想定されています。
このにおいセンサーでは、PZT (チタン酸ジルコン酸鉛) の圧電薄膜に感応膜を塗布した検出素子を使用してにおいを検出するのが特徴です。各検出素子が異なるにおいを検出できるよう、検出素子ごとに感応膜を変えた20種類の検出素子を用意し、これらを1枚のセンサーチップ上に搭載しています。
そして、電圧をかけて共振させた感応膜に、におい分子を付着させて共振周波数が変化する現象を利用して数値データを取得する仕組みです。この数値データをにおいの種類ごとのパターンと照合してにおいを識別しています。
スマートフォンに接続すれば、スマートフォンが分析基盤の役割を果たすのも特徴で、検知したにおいの種類と強さを解析し、スマートフォンに分析結果が表示されます。
2. においセンサーのにおいの数値化
「におい」とは、「匂い」と「臭い」、「香る」と「薫る」など、明確な基準もなければ、単位もありません。においは、人が嗅覚で感じ取ったときの強さや不快感をもとに測定され、表現されてきました。においの測定法としては「嗅覚測定法」が使用され、人が嗅覚で感じ取る強さや不快感を表現しています。
嗅覚測定法は、「臭気強度表示法」「快・不快度表示法」「臭気指数表示法」「周期頻度表示法」の4種類に分類されており、においを段階式に数値化して表しています。この中の臭気指数表示法とは、臭気濃度と臭気指数を数値化したものです。
臭気濃度は、「無臭の清浄な空気で希釈した場合、無臭に至るまでに要した希釈倍数」と定義されます。臭気指数は、臭気濃度の常用対数を10倍した値です。この方式はにおいセンサーに組み込みやすいため、「臭気指数表示法」に沿った表現が採用されているにおいセンサーがあります。
参考文献
https://www.jemima.or.jp/tech/4-02-04.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu1932/54/4/54_4_386/_pdf/-char/en
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrsm/8/1/8_1_7/_pdf/-char/ja
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1910/15/news078.html
https://www.new-cosmos.co.jp/product/smell/xp3293_mea.html