ABS樹脂加工とは
ABS樹脂とは、耐熱性、耐衝撃性、表面処理性、金属めっき性などに優れ、高精度な寸法管理品を成形するためのバランスのとれた特性を持っている熱可塑性樹脂です。
ABSは、「Acrylonitrile-Butadiene-Styrene」 (アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン・共重合体) の略です。鉱酸や塩基、植物油、鉱物油、ほとんどの家庭用洗剤にも耐性があります。低価格で生産量、消費量が多く、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルと共に五大汎用樹脂とも呼ばれています。
図1. ABS樹脂の構造
ABS樹脂加工の使用用途
ABS樹脂は家電製品や精密機器の外装、自動車部品、文房具、各種ケースなど、身近なプラスチック用品に幅広く使用されています。最近は、3Dプリンターの素材としても注目を集めています。
ABS樹脂は、射出成形と押出成形の両方のグレードがある汎用性が高い素材です。配合技術により、多種多様な着色剤をABSに配合することもできます。また、安定剤、難燃剤、補強フィラーなどの添加剤を添加することで、ABS製品の用途を拡大させることも可能です。
例えば、ABSは紫外線を受けるとブタジエン成分の二重結合部分が酸化して変色を起こすため耐候性が低いですが、紫外線吸収剤等を配合したり、外装を塗装したりすることで劣化を遅らせられます。
ABS樹脂加工の性質
ABS樹脂は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの3つのモノマーを組み合わせて製造されます。アクリロニトリル成分は、強度、剛性、硬度、耐熱性、耐候性、耐油性に、ブタジエン成分は弾性、靭性、耐衝撃性、耐寒性に、スチレン成分は強度、剛性、硬度、加工性、寸法安定性、光沢性などに影響します。これら構成成分の組成によって、用途に適したバランスを調整することが可能です。
ABS樹脂加工のその他情報
1. ABS樹脂の高温加工
ABS樹脂は熱可塑性を備えるため、容易に異なる温度条件で処理することができます。一度加熱した後に冷却することで形状を形成し、再び加熱することで形状を変更することも可能であり、リサイクルにも応用が可能です。
ABS樹脂を高温で加工することで、製品の外観や仕上がりが良くなります。また、耐熱性や耐薬品性も向上します。ABS樹脂の耐熱温度は70~100℃です。参考として、プラスチックの中で耐熱温度が低いものはアセテート (40~60℃) 、高いものはフェノール樹脂 (150~180℃) などが挙げられます。
ABS樹脂を直火にあてることは厳禁です。火のそばでも柔らかくなって変形する場合があります。煮沸には耐えられないため、沸騰水などをかけることも厳禁です。
2. ABS樹脂の応用
ASA樹脂
図2. ASA樹脂の構造
ASA樹脂は、ABS樹脂中の「ブタジエン」を「アクリルゴム」に変化させたものです。二重結合部分を有さないことで耐候性が向上する一方、薬品の抵抗力は低下します。屋外で使用する部品や建材などに用いられます。
AES樹脂
図3. AES樹脂の構造
AES樹脂は、ABS樹脂中の「ブタジエン」を「EPDM (エチレンプロピレンジエンゴム) 」に変化させたものです。耐候性、耐寒性、電気的性質、表面光沢が向上し、加工による着色もしやすくなります。
短所としては、成形時に事前の乾燥が必要であること、有機溶剤に溶けること、引火時匂いを出すことなどが挙げられます。農業器具や医療機器に用いられます。
ACS樹脂
ACS樹脂は、ABS樹脂中の「ブタジエン」を「塩素化ポリエチレン」に変化させたものです。「塩素化ポリエチレン」はポリエチレンを塩素ガスで処理したポリマーであり、塩素の含有量は合成条件によって異なります。耐候性や柔軟性、耐熱性、耐衝撃性が向上します。一方、引張り強さはABS樹脂に比べて低いです。家電製品の筐体や電気部品に用いられます。