低温恒温器とは
低温恒温器とは、恒温器内部の温度を低温域~高温域 (約0℃~約60℃または約-10℃~約50℃) の恒温設定が可能な環境試験機です。
名称はメーカーによって異なり、恒温器をインキュベーターと呼ぶため、低温インキュベーター、ローテンプインキュベーター、クールインキュベーターとも呼ばれます。なお、設定した時間に、設定した温度に変化させるプログラム運転が可能な大型の機種から卓上で使用可能な小型のものまで揃っています。
低温恒温器の使用用途
低温恒温器は、環境試験機の1種で、低温域での試料の変化が重要な分野の試験に使用されます。食品分野の保管や貯蔵に関連する試験、動植物の低温環境試験、生化学分野の低温実験などが主な使用用途です。
低温恒温状態が必須の用途もあり、微生物の培養や保存試験、植物組織および動物組織の培養や保存試験にも有用です。この他、各種部品や装置の耐久試験や劣化試験にも使用されています。
温度と時間をプログラムして24時間の温度変化を再現した耐久試験や劣化試験、低温と高温を極端に変化させた耐久試験や劣化試験およびこれらの加速試験などが主な用途です。このため、世界中の教育機関、試験機関および研究機関に設置されています。
低温恒温器の原理
低温恒温器は、槽内温度を比較的低温の領域で保つ装置です。試料を入れる槽は、外部環境により内部温度が変化しにくい断熱構造を施した外壁を有しています。
そのため、外部の温度変化の影響を最小限に抑えて、内部温度が一定に保たれる構造です。低温恒温器は、槽内の温度をコントロールする方法により「送風循環方式」と「エアジャケット方式」の2種類に大別されます。順番に解説します。
1. 送風循環方式
送風循環方式では、ファンを使用して槽内の空気を攪拌して温度を均一化しています。この方式では、試料を入れる槽の外に温度をコントロールした空気を作る装置があります。
そして、この空気を槽内に送り込むと共にファンを使用して槽内で拡販および循環させて、槽内の湿度分布を均一にする仕組みです。比較的大型の低温恒温器に使用されています。
2. エアジャケット方式の低温恒温器
エアジャケット方式は、ファンを持ちません。槽の外側にエアジャケットと呼ばれる空気が循環する層を持っています。この層で気流を起こして加熱と冷却による温度をコントロールしています。
そして、エアジャケットに囲まれた槽内の空間温度が自然対流によって均一に維持される仕組みです。この方式の場合、試料を保存する槽内に乾燥した空気や過剰な気流の発生があまりないことから、試料に対するダメージが軽減されるのが特徴です。
低温恒温器のその他情報
1. ペルチェ素子を用いた低温恒温器
低温恒温器の中には槽内の加温および冷却にペルチェ素子 (英: Peltier device) を使用した比較的小型のものもあります。ペルチェ素子は、電気を流すことによって吸熱面から発熱面に熱を移動させる半導体です。このような低温恒温器では、試料を入れる槽の外壁にペルチェ素子を直接接触させて内部の加熱と冷却をおこなっています。
このペルチェ素子を用いた低温恒温器は、非常に小型であり卓上で使用できるサイズのものもあります。例えば、マイクロチューブやバイアル瓶 (1~10mL) 、遠沈管およびシャーレなど少量容器での培養や保存管理に適したサイズのものもあります。
このような小型の低温恒温器では、庫内容量が大きい低温恒温器で問題となる「扉の開閉により温度が安定しない」などの不都合がありません。
2. 低温恒温恒湿器
低温恒温器の中には、低温だけでなく常温域などの幅広い温度の範囲もカバー可能で、調湿機能も備えた低温恒温恒湿器があります。低温恒温恒湿器の基本性能は、一般的な低温恒温器を上回るものが多く、約-20℃~85℃の温度制御域を持ちます。
また、湿度制御能力は、約50%~90%程度です。低温恒温恒湿器は、常温 (10 ~35℃) や冷蔵 (0~10℃) 、冷凍 (−15℃以下) での厳密な温度管理が必要な保存試験に最適です。この低温恒温恒湿器は、主に食品の保存試験や医薬品・化粧品の安定性試験などに使用されています。
3. 低温恒温器とインキュベーターの違い
恒温器はインキュベーターと称されます。ただし、インキュベーターには「孵卵器や新生児の保育器」などの生体保護の目的で使用される機器類も含まれています。この2つの決定的な違いは、例えば孵卵器用途で販売されているインキュベーターの設定可能温度は約20℃から40℃程度で、低温恒温器よりも適用可能温度域が狭いことです。
また、インキュベーターの中には、卵をかえすために必要な転卵機能や孵化環境を整えるための調湿機能を持つ機器もあり、これらは低温恒温器の代替として使用できません。インキュベーターと表記されている装置が低温恒温器なのか孵卵器なのかは、設定温度範囲で判断できます。例えば、−10℃から60℃までの制御に対応するインキュベーターは低温恒温器で、30℃±10℃の体温近傍の温度域に限られたものは孵卵器です。
価格帯にも違いがあり、小型孵卵器として発売されているインキュベーターは1万円未満なのに対し、低温恒温器の性能を有する機器として発売されているインキュベーターは数十万円の価格帯です。
参考文献
https://www.yamato-net.co.jp/word/20
https://www.yamato-net.co.jp/product/category/science/incubator/low-temperature-incubator/
https://files.yamato-net.co.jp/support/catalog/p0199_ic402.pdf
https://www.wakenyaku.co.jp/ctg/ls.php?i=281
https://www.wakenyaku.co.jp/ctg/det.php?i=2764
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000126915.pdf
https://www.espec.co.jp/products/env-test/crh/
https://www.isuzuseisakusho.co.jp/lineup/midori/