電磁波防護服とは
電磁波防護服とは、空間に存在する電磁波から人への影響を防ぐために、特殊な条件下で着用する防護服のことです、
電磁波とは、電界と磁界に影響をおよぼすエネルギーを持った波の性質を持つ粒子のことを言い、目に見える可視光も電磁波の一種です。電磁波は波長が短いほどエネルギーが高くなります。可視光よりもエネルギーが高い電磁波として紫外線、X線、Y線があります。一方、可視光よりも波長の長い電磁波には赤外線や電波があります。
現在の人々の生活は太陽から来る光を始めとした自然界由来と、送信アンテナや電子機器から出る人工物由来の、様々な電磁波に囲まれています。それでも、基本的には問題なく生活ができています。
しかし、特殊な条件下で仕事をする人や、医療用の電子機器類を付けて生活をする人などの間では、身体に当たる電磁波を弱くする、あるいは遮断する必要が生じます。電磁波防護服は、必ずしも全身を覆う必要はなく、その状況下に応じた様々なタイプがあります。
電磁波防護服の使用用途
電磁波防護服は、仕事で強い電磁波を浴びる場合や、ペースメーカーなどの医療機器を身に着けていて電磁波の影響を防ぐ場合、妊婦を始めとして、オフィスワークや日常生活において、電磁波の影響が心配な場合などに使用されます。
1. 放射能のある場所
最も過酷な電磁波がある場所は、福島第一原子力発電所の事故現場などの強い放射能のある場所です。このような現場では、周囲から飛んでくる強いγ線による外部被ばくと、空気中に漂う放射能を持った原子を含む塵を体内に吸収することによる内部被ばくの危険にさらされます。
そのため、作業者は顔を含めて全身を覆う防護服を身に着け、外気と直接触れないようにします。それでもγ線を完全に遮断することはできないため、被ばく線量を計測できる機器を身に着けた上で、被ばく線量の制限内で作業を行います。
2. 医療現場
医療現場でレントゲン撮影を行うレントゲン技師や医療関係者は、日々の医療活動を通じて一般人よりも多くのX線に晒されます。
X線を使うCT (英: Computed Tomography) 検査や、カテーテル検査並びにカテーテル手術、強力な磁場と電磁波を使うMRI (英: Magnetic Resonance Imaging) 検査では、治療目的を理由に、患者は通常では許されない量の電磁波を浴びます。それでも身体の不必要な被ばくを少しでも減らすために、検査部分以外を覆う目的で防護服を着用する場合があります。
心臓ペースメーカーやICD (植込み型除細動器) にカプセル内視鏡など医療用電子機器を身に着けている場合は、それらの医療機器が電磁波の影響を受けて誤動作を起こさないようにするため、必要に応じて電磁波防護服を着用します。
3. 電化製品
家庭にある電化製品からも電磁波が出ています。通常の場合、家庭用電気製品から出る電磁波は人体に影響を及ぼさないように安全基準を満たしています。それでも電磁調理器具の前で長時間料理に関わる人や、妊婦、それに特に電磁波を心配する人などは、電磁波防護服を着用します。
また、パソコンのディスプレイがブラウン管であったころには、ブラウン管の前で長時間仕事をするオフィスワーカーが、電磁防護機能のあるエプロンを着用した例もありました。
電磁波防護服の原理
電磁防護服は電磁波が身体に当たることを防ぐため、電磁波の影響の強さを考えて必要な部位を覆います。
強力なエネルギーを持ったγ線やX線に晒される危険性がある放射線作業従事者や、レントゲン技師などが着用する防護服は、遮蔽効果の強い鉛や、鉛と同等のY線、X線阻止能力のある重たい防護服を着用します。それでも、これらの電磁波を遮蔽する能力は限定的であり、他の遮蔽物を置いたり、作業時間を短くするなどして、トータルで被ばく線量を少なくするように工夫しています。
可視光線よりも長い波長の電磁波を遮蔽するための防護服は、電磁波シールド機能を持った繊維でできた電磁波防御服を着用します。このシールド機能は、アルミニウムや銀などの金属を含んだ繊維で作られています。
心臓ペースメーカーやICDを装着した人が着る電磁防護服は、その機器を装着した部分を防護すればよいため、胸部など機器周辺部をシールドする機能を持ったパッドを埋め込んだベストなどを着用します。
電磁波防護服の選び方
電磁波の波長は幅広い範囲にわたります。波長によって電磁波のエネルギーが異なり、物質を透過する能力も異なります。強度も場所によって様々です。また人が電磁波に晒される危険性の度合いも立場によって様々です。必要以上に安全を求めると、仕事の作業性や日常生活の快適性を必要以上に落とすことになります。逆に電磁波の波長や強度に適切に対応できない電磁波防御服は危険です。
電磁波防護服を選択する際には、電磁波を防護する目的が何なのか、電磁波に晒される環境での電磁波の波長と強度がどの程度なのかを吟味して、使用目的に合った電磁防護服の選択が必要です。