単一光子検出器

単一光子検出器とは

単一光子検出器は光の最小単位と言われている光子を、1個単位で検出できる検出器です。

光は、波と粒子の両方の性質を合わせ持った光子の集まりとされています。多くの物質はそれに何らかの変化が起きたり、加えられたりしたときにエネルギーを吸収したり、放出します。エネルギーが放出される際には、光として放出される場合が多くあります。

光子を1個の単位で検出することは、物質の極微細な変化をとらえることや、特徴を知るうえで有効な手段と考えられてきました。これは人間が太陽光や電灯の光の下で、物体に当たって反射してくる光を眼で捉えて、その物体が何であるのかを知るのと同じです。これを突き詰めてゆくと、暗室の中で物体から放出されてくる極微量の光をとらえて、その物体の性質をより緻密に知ることができます。

単一光子検出器の使用用途

単一光子検出器は極微量の光を捉える検出器の中でも、究極の検出器です。従って、1分子蛍光分析や、散乱光による量子特性評価などの精密観察の分野で活用されてきました。国立研究開発法人産業技術総合研究所 (産総研) は2018年に光子一つが見える「光子顕微鏡」を開発しました。受光した光子一つ一つの持つエネルギーの違いに応じて、検出した光子をカラー化することで、生体細胞からの微弱な発行の観察や、半導体ナノ粒子からの蛍光観察に使用できるとしています。

また近年では、情報の盗まれにくい究極の暗号通信として。量子暗号通信 (量子情報通信) という光ファイバの中を光子一つ一つの単位で送る通信法の研究と開発が活発化しています。そして、この目的に使用するための単一光子検出器の開発に注目が集まっています。

単一光子検出器の原理

光子は、エネルギーを持って光速で空間や物質の中を飛び交う粒子です。

光のエネルギーはE=h(c/λ) の公式で表されます。ここでEはエネルギー、hはプランク定数と言われる定数で、cは光の速さ、λは波長です。

単一光子検出器では、この光子1個が検出器に侵入したことをトリガーにして、検出器内部で電気的な変化を起こし、その変化を信号として捉えます。

一番最初に登場した単一光子検出器は、光電子増倍管 (英: photomultiplier tube、PMT) という真空管に似た原理の検出器でした。光電子増倍管は、光が入る入光窓の後ろに真空管があり、真空管の中には1000Vの高圧で対峙した光電陰極と陽極があります。さらに。この二極の間には、段階的に電子の数を増やして行くダイノードが100Vの電位差を持って複数暖並んでいます。

入光窓から入射した1個の光子のエネルギーによって光電陰極から10個程度の電子が叩き出されます。これらの電子は1段目のダイノードに向かい、ダイノードから入射電子1個当たり、10個程度の電子が叩き出され、それが2段目のダイノードに向かいます。このように電子を加速してダイノードに衝突させて、入射電子の数倍から十数倍の二次電子を放出させることを繰り返して、最終的に数十万倍から一千万倍以上になった数の電子が陽極に到達し、それを信号電流として検出します。

1939年に米国のベル研究所において、光電子増倍管同様に、光子の入射エネルギーをトリガーにして、電流を発生させるフォトダイオードが発明されました。フォトダイオードにはシリコン (Si) やゲルマニウム (Ge) 等の半導体を使用しているので、これらの検出器は半導体検出器と言われています。

現在では、主に量子暗号通信での使用を目的として、超電導を利用した単一光子検出器の開発が進められています。超電導薄膜は、極低温下で超電導が保たれている状態では電気抵抗は0です。この薄膜に光子が飛び込むと、そのエネルギーによって薄膜の温度が上がり、超電導状態が破壊されます。この超電導状態の破壊によって、電気抵抗が発生することをシグナルとして捉えることで、光子を検出します。

単一光子検出器の選び方

単一光子検出器を選択する際には、検出対象の光子の波長、必要な時間分解能、作業環境などを考慮しながら目的に合った検出器を選択する必要があります。

光子は可視光を挟んで、波長の短い、エネルギーの高い紫外線、X線、Y線などと、反対に波長の長い、エネルギーの低い赤外線、遠赤外線などと、幅広い波長の分布があります。各センサーは光子の波長によって、検出できる感度が異なります。従って、検出する光子の波長領域に合ったセンサーを選ぶ必要があります。

一つの光子を検出した後で、次に入射してくる光子を検出できるまでの時間を時間分解能と言います。量子暗号通信のように、光子の検出に高い時間分解能が要求されるのであれば、超電導を用いた検出器が適していると言えます。

その一方で、超電導検出器やゲルマニウム半導体検出器は、極低温の中で使用する必要があります。

光電子増倍管は一番古いタイプの検出器ですが、光子1個単位の低レベルの検出に優れていて、装置の規模も比較的小さくなる利点があり、天文学、原子核物理学、生体計測などで活用されています。

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