ベリリウム銅

ベリリウム銅とは

ベリリウム銅 (ベリリウム銅合金:BeCu) とは、をベースに0.5-3.0%のベリリウムを加えた合金です。

銅の高い導電性、熱伝導性を保ちながら特殊鋼に匹敵する高い強度と耐久性、更には耐熱性、耐食性も兼ね備えています。

特殊鋼とは、普通の鉄合金と比較して特長的な性質をもつ鉄合金のことです。ニッケルクロムなどを添加して合成されます。したがって、ベリリウム銅は数ある銅合金の中で最も特性バランスに優れた銅合金と言われています。優れた特性を持つベリリウム銅は、様々な産業において信頼性の高い部材として使用されています。

ベリリウム銅の使用用途

ベリリウム銅の主な使用用途を4つ紹介します。

1. 導電バネ材

導電バネ材とは電気を流すことが可能で、コイル状にしてバネとして利用できる材料のことです。板や線状のベリリウム銅は、高導電性、高強度、高耐久性に優れています。この性質を利用して、自動車や産業機器、携帯電話、家電など電子部品の導電バネ材として使われています。

2. 摺動部材

摺動部材(しゅうどうぶざい)とは、部品同士の接触部分に使用される材料のことです。ベリリウム銅は高強度、高耐久性に加え、鉄鋼材料に対する耐摩耗性、耐かじり特性に優れています。したがって、航空機のランディングギア等の摺動部材に使用されています。

3. 抵抗溶接用電極部材

まず抵抗溶接とは、溶接したい金属に電気を流したときに発生する抵抗発熱を用いる溶接方法の一つです。抵抗溶接用電極部材とは、この抵抗溶接で使用する電気を流す電極に使用する材料です。

抵抗溶接用電極部材には、高い導電性に加え、圧力をかけることから耐久性も求められます。ベリリウム銅は高導電性、高強度、高耐久性に優れていることから、抵抗溶接用電極部材として自動車産業等で使用されています。

4. 安全工具

ベリリウム銅は特殊鋼に匹敵する高強度でありながら、非着火性、非磁性、耐食性に優れています。したがって、作業現場での爆発事故を防ぐ安全工具として、ペンチスパナなどに使用されています。

ベリリウム銅の強化機構

金属の内部には「転位」と呼ばれる原子配列の欠陥が多数含まれています。この転位が結晶中を移動することで金属結晶は変形します。したがって、材料の強度を上げるためには「転位」ができる限り移動しないように、転位の移動を抑制する必要があります。

転位の移動

図1. 転位の移動

一般的に、鉄やチタンアルミニウムなどの合金は強度を上げるために、熱処理が行われます。これは金属強化の方法の中でも、固溶強化、析出強化という方法を用いています。

1. 固溶強化

固溶強化とは、母相となる金属元素中に合金添加元素を溶かし込み、添加元素を母相中に均一に分散させることで材料を強化させる方法です。大きさの違う元素が混ざると、混ざった周辺でひずみが発生します。結果、転位の移動が阻害されて、金属が強化されます。ベリリウム銅の場合、母相となる金属が銅、添加元素がベリリウムです。

固溶強化

図2. 固溶強化

2. 析出強化

析出強化とは、結晶の中にナノレベルの微細で硬い結晶を析出させることで、転位の動きを阻害して金属を強くする手法です。微細な結晶を析出させるためには、時効と呼ばれる熱処理を行います。時効熱処理時間の経過に伴い、微細結晶が析出します。しかし経過時間が長すぎると、微細結晶が粗大化し、逆に金属結晶は軟化するため注意が必要です。

析出強化

図3. 析出強化

ベリリウム銅も適切な温度と時間で熱処理を行うことで、特殊鋼に匹敵する強度や性質を得ています。

ベリリウム銅のその他情報

ベリリウム銅に関する法規制と取扱い

ベリリウム銅は、ベリリウムを含んでいるため、環境や健康などの面から利用制限などを懸念されることがあります。しかし、現在ベリリウム銅の使用に制限を与える法規制はなく、EUにおけるRoHS指令やELV指令、REACH規則等も非該当です。ただし、ベリリウム自体は有害性が高いため、日本国内ではPRTR制度において、事業規模取扱量等によっては排出量や移動量を行政に届け出る義務が生じます。

また労働衛生面においても、ベリリウム銅はベリリウム含有量が3%未満であるため特定化学物質障害予防規則について非該当であり、通常の使用において健康影響はありません。ただし、溶接や乾式での研削・研磨等でヒュームや微粉じんを発生させる加工をする場合には局所排気や防塵マスクの着用などの防護措置が推奨されています。

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