結晶多形分析

結晶多形分析とは

結晶多形分析 (英:polymorph analysis) とは、同一の化学組成を有する化合物で結晶構造の異なるものである結晶多形を分析することを言います。

同一元素での結晶多形は,ダイヤモンドとグラファイトの例がよく知られています。どちらも炭素のみから構成されますが、結晶構造が異なっており、物質としては全く違う性質を有します。

分析手法には、X線回折・熱分析・赤外分光・ラマン分光・固体核磁気共鳴などがあります。

医薬品の開発などでは、結晶多形分析が重要なツールとなります。

結晶多形分析の使用用途

結晶多形分析は、医薬品の評価に多く使用されます。医薬品の多くは結晶であり、複数の結晶形を有しています。同一の組成でも結晶形により溶解性などの物理化学的な性質が異なり、医薬品の有効性や安全性にも影響があります。

そのため、結晶形の同定が非常に重要です。1つの方法は、X線回折 (XRD) を使用して、医薬品の結晶多形を分析する方式です。X線を対象物に入射させて、スペクトル図から、結晶多形を見つけます。

また、油脂類の結晶多形分析が行われています。例えば、チョコレートでは安定形結晶多形のV型、マーガリンでは準安定形結晶多形などがあります。結晶多形現象の解析などが重要です。 

結晶多形分析の原理

結晶多形分析は、X線回折・熱分析・赤外分光・ラマン分光・固体核磁気共鳴などの手法があります。この他、赤外線吸収スペクトル法や偏光顕微鏡法などによっても結晶多形を確認できます。

1. X線回折

X線回折 (XRD) は、結晶性物質にX線を入射すると各原子がX線を散乱し、その物質特有の散乱スペクトルを取得する方法です。

XRDによる回折パターンの違いから結晶多形を判別をします。例えば、α型は単斜晶、γ型は六方晶の結晶です。XRDでピーク面積を解析することで、結晶化度が算出できます。

2. 熱分析

熱分析 (DSC、TGなど) は、物質を加熱または冷却して、物質の物理的な変化を調べる手法です。
 
DSC (Differential Scanning Calorimeter) 示差走査熱量計 により、温度変化に対する熱量を測定して、融解・分解等の熱挙動から、結晶多形を判別します。

TG (Thermogravimetry) 熱重量は、吊り下げ方式・上皿方式・水平方式などの熱天秤を使用して、温度変化に対する重量を測定します。

DTA (Differential Thermal Analysis) 示差熱分析は、TGの結果と合わせて、吸熱や発熱を検出し、分解・脱水・燃焼・昇華・蒸発・酸化・融解・結晶化などの諸反応を正確に把握できます。

3. ラマン分光

ラマン分光は、物質に光を入射すると、入射光とは波長が異なる微弱なラマン散乱光が発生します。これを分光分析して、物質の分子構造や結晶構造などを調べる手法です。

ラマン分光測定結果から、結晶多形を識別します。比較的微量で測定が可能です。

4. 固体核磁気共鳴

固体核磁気共鳴 (固体NMR) は、核磁気共鳴 (NMR、Nuclear Magnetic Resonance) 分光法の一種で、有機化合物・医薬品・蛋白・無機化合物の構造解析・組成分析に使用します。

医薬品の結晶多形技術

1. 製剤技術

新薬の開発に伴い、新しい製剤技術開発も推進されています。経口製剤の場合、体内で医薬品の有効性を高めるには、医薬品結晶が消化液に早く溶けるのが第一です。これには、結晶多形の利用が微粉化と並んで、重要な役割をします。

薬の溶解性は、準安定形結晶の方が安定形結晶より、優れている場合が多いとされています。結晶多形を利用して、準安定形結晶を製造する技術開発が行われています。

2. 製造プロセス

医薬品の約80%に結晶多形が存在すると言われています。結晶多形は、医薬品の安定性・溶解性などに重大な影響を与えます。製造プロセスの開発では、目的の結晶多形を作り出す目的で、結晶多形のスクリーニングを行います。

医薬品の開発途中で新たな結晶多形が見つかると、その対処のため、開発日程に大きく影響します。また、プロセスに悪影響を及ぼす結晶多形もあり、品質管理面での管理技術も必要になります。さらに、新薬の発売後に、新たな結晶多形が突然発生することもあります。

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