鉗子とは
図1. 一般的な鉗子のイメージ
鉗子とは、物を掴んで牽引・圧迫・把持などを行うために使用する、刃のないハサミのような形をした医療器具です。目的により様々な種類や形状のものがありますが、主に手術の際に器官や組織を挟んで使用されます。
金属製が主流ですが、近年では使い捨てのプラスチック製のものも存在します。
鉗子の使用用途
鉗子は、主に外科手術、特に開胸手術・開腹手術において使用されます。代表的な用途は、組織の把持・血管の圧迫による止血などです。鉗子で組織の把持を行うことによって、膜を剥離したり、血管を結紮したり、腹膜を開いて術野を露出させたりするなど、手術中の様々な動作が可能となります。
各鉗子は、種類によって、それぞれ固有の用途があります。例えば、腸間膜や腸管など軟らかい組織に有鈎のコッヘル鉗子を使用すると先端の鈎で組織を穿孔してしまいます。このような場合は、無鈎のペアン鉗子を使用することが適切です。
また、後ほど血流再開が必要な場合の一時的な止血には、ブルドック鉗子という専用の鉗子を使用します。用途の特殊なものの例としては、産科鉗子という、胎児の娩出を補助するための専用の鉗子を挙げることができます。
鉗子の原理
一般的なハサミ状の鉗子の場合、鉗子先端の噛み合う部分の重なりを使用し、挟み込んだ箇所の把持、圧迫、支持を行います。織や血管を挟んで鉗子を閉じると、ラチェット部分の重なりにより器具にロックがかかり、挟んだものを保持することができます。
ラチェット部の重なりが大きいタイプの方が先端部が挟み込む力は強いです。
鉗子の種類
図2. 主要な鉗子と先端部
鉗子の手元形状には、剪刀型 (いわゆるハサミ状の形状) の全体が真っすぐなタイプのものと、先端と手元の間に角度のあるタイプ、直ハンドルタイプなどがあります。
図3. その他の鉗子の例
また、先端形状の種類は両開き曲剪、片開き曲剪、片開き直剪、フック型などです。鉗子の種類により同じ形状で剪刀の長短、鉗子そのものの大小の異なるものもあります。代表的な鉗子は下記の通りです。
1. ケリー鉗子
開腹・開胸手術において、薄い膜を剥離したり、血管の結紮などに使用する鉗子です。先端はややわん曲して細く、繊細な作業に向いています。わん曲の強さによって「強彎」と「弱彎」に分けられる他、長さの違いにより「大人用」と「小児用」の分類があります。
2. コッヘル鉗子
組織の止血や組織・縫合糸の把持などに用いる鉗子です。通常、先端に鉤のあるものを指します。硬い組織にある血管を掴んで止血する際に使用されることが多いです。
3. ペアン鉗子
切断した血管を挟んで止血するのに使用する鉗子です。コッヘル鉗子と類似していますが、通常、先端に鈎はありません。
4. ミクリッツ鉗子
開腹手術において、腹膜を開いておくために使用する鉗子です。把持部の彎曲が強く、溝のある部分が短い、という特徴があります。また、先端部には大きな鈎があります。
5. ブルドッグ鉗子
後から血流を再開させたい血管に対して、一時的な止血を行うための鉗子です。人工透析で必要となる内シャントの造設時などに用いられます。
6. アリス鉗子
粘膜を把持するために用いられる鉗子です。腸管などの柔らかい消化管を吻合する場合などに用いられます。
ミクリッツ鉗子やコッヘル鉗子は外し型とBOX型があります。尚、外し型は洗浄時に鉗子をふたつに分解して洗浄することが可能です。現在ではステンレス鋼製が主流で、使用前には高圧蒸気滅菌で滅菌してから使用します。
参考文献
https://www.nazme.co.jp/product/product_type/4-0-surgical-anatomical-tool/4-03-forceps/
https://nho.hosp.go.jp/files/000120404.pdf