IGBTモジュールとは
IGBTモジュールとは、複数のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を1個のモジュールに集積させた高集積モジュールのことです。
IGBTは、従来から用いられているベース電流制御タイプのバイポーラトランジスタと、その弱点を改善したゲート電圧制御タイプの電界効果トランジスタ(FET)の良い所をデバイス構造およびプロセス上の工夫で組み合わせて、昭和後期に日本で発明されました。
当初は絶縁ゲートタイプのバイポーラトランジスタと呼ばれており、その後、「Insulated Gate Bipolar Transistor」の頭文字を並べて、IGBTと呼ばれるようになりました。
IGBTモジュールの使用用途
現在ではパワーエレクトロニクス技術と呼ばれていますが、当時IGBTはあまり日の目を見ていなかった専門家だけの特別な世界の技術でした。それがインバータエアコンを始めとした電化製品のインバータ(電力変換技術による省エネ)化や部品の小型高効率モジュール化によって、その内部に格納されているIGBTモジュールの用途は、大電力製品を中心に飛躍的に世の中に広がりました。
現在、大きな電力を必要とする製品に当たり前にIGBTやそのモジュールが使われているのは周知の事実となっています。
IGBTモジュールの原理
IGBTについては、大電流が流れる部分は従来のバイポーラトランジスタ構造を採用し、バイポーラの制御部であるベース部分を(それまでは弱電系の信号回路にしか採用されておらず、高速制御が出来て損失が少ない)FETのゲート回路構造に切り替えた日本が生み出した画期的なパワー半導体です。それらを複数個格納して、保護回路用ダイオードや駆動回路用ICなども含め小型高機能にモジュール化したのが、IGBTモジュールになります。
IGBTは単品(ディスクリート)でも部品として存在しており、モジュールと同じような回路を単品で組むことは可能です。しかし、単品で回路を組んだ場合、一般に基板の大きさがモジュールの倍以上になったり、基板パターン配線の影響で、信号遅延や不安定性などの誤動作を起こしたりする可能性も懸念され、ユーザーにとっては多くの課題が発生します。
それに対して、モジュール化により、高密度配線実装が可能になり、放熱改善による信頼性も考慮されているために、ユーザーは比較的簡便にIGBTを自身の製品に適用することができます。ここがIGBT単体ではなく、IGBTモジュールを用いる最大のメリットと言えるでしょう。
IGBTモジュールの実例として、主流のブラシレスモータを駆動する6個のIGBTを格納したモジュールを説明します。モジュールのパッケージ内に絶縁材料が充填されているのが特徴で、モジュール内の配線も可能な限り最短極太にし、電気的損失を低減図っています。
また放熱板も付加されて、単品で基板実装するよりも明らかに低損失かつ高放熱なIGBTの動作が可能です。よって、モジュール化に伴い、単品(ディスクリート)での対応に比較して、高効率動作と装置の小型化の両立を図ることができます。
IGBTモジュールのその他情報
IGBTモジュールの進化(IPM)
現在では、IGBTモジュールは、更に進化したIPM(IGBTに外付けだった高耐圧ドライバーも格納したモジュール:Intelligent Power Module)などとも呼ばれ、その技術革新は今も継続中です。従来の複数のIGBTを一つのパッケージへ集積したモジュールをさらに高性能、高機能化を図るために、IGBT専用の駆動ICや、過電流過熱保護目的の各種保護回路用ICをIGBT一緒に集積し、かつ小型放熱性対策を施したモジュールをIPMと呼ぶことが多いです。
IPMはIGBTの生みの親である日本が得意技術として世界をリードしている分野になります。また、昨今ワイドバンドギャップ半導体である、SiCやGaNといった新規半導体材料を用いたパワーエレクトロニクスの分野もにわかに活況を呈しており、Si基板でのIGBTをEVなどの電気自動車分野を代表例に特性でさらに優れたSiC-MOSFETやGaN-FETへ置き換える動きも出てきています。
とはいえ、これらの新規半導体材料基板はまだウエハー大口径化やコスト、製造能力面でSi基板に及ばないため、当面製品用途でのデバイスやモジュールのすみ分けが続くでしょう。
参考文献
https://www.fujielectric.co.jp/products/semiconductor/model/igbt/
https://www.mitsubishielectric.co.jp/semiconductors/products/powermod/igbtmod/index.html