静電塗装機とは
静電塗装機とは、高圧の直流電流を利用した塗装方法を行う量産型塗料設備装置のことです。
1930年代から始まった静電塗装は、霧化塗装やディッピング、押し付け型塗装といった従来の塗装方法に比べ、必要な塗料が少なく、気泡が発生せず塗膜欠損のピンホールも起きません。ただし、静電気によりゴミやホコリが引き寄せられるため、「ゴミ・ブツ」という塗膜欠損に注意が必要です。
また、電気を使用することから、火災への配慮も求められます。静電塗装機を利用することで、省資源・省エネルギーの観点からも効果が期待できますが、安全面にも注意を払いながら適切な管理が必要です。
静電塗装機の使用用途
静電塗装機は、効率的に塗膜を構成できるため、量産型の一般物だけでなく自動車塗装のような工業品の塗装にも使用されます。霧化塗装にはない塗料の回り込みが起きることから、プロセスの簡易化が図れる点がメリットです。また、圧縮空気を逃がす場所のない隅のような箇所でも塗装が可能となり、均一な塗膜を形成できます。
ただし、静電塗装機には電場が集中する凸部に塗料が集中するという欠点もあり、また、電流を使用するため、水性塗料よりも有機溶剤系塗料に適しています。静電塗装機の使用用途は多岐にわたりますが、その特性を理解し、適切な塗料を選択することが重要です。
特に工業品の塗装では、品質向上やコスト削減が求められるため、静電塗装機を活用することで、効果的に生産性を向上させることができます。
静電塗装機の原理
静電塗装機は、静電感応力を利用しています。静電感応力とは、電極や被塗膜物の片方をアースし、塗膜機の放電電極に近づけると反対の電極が現れる現象です。被塗膜物をアースし、負極に印加すると正に荷電し、放電電極の電圧を上げるとコロナ放電が起こり周辺の空気がイオン化し、放電電極から被塗膜物までのイオン電流が発生します。
塗膜機内の塗膜液滴も荷電し、イオン電流に乗って被塗膜物に引き寄せられ密着します。電荷を失い定着し、次にエアスプレーを放電電極に組み込むことで、塗料を微細化します。塗料液滴を短時間で荷電されることで、作業時間の短縮が実現可能です。
据え置き型の場合、気温上昇による塗膜温度の上昇での粘度変化や、汚れによる静電効果の減少に注意が必要です。手持ちの場合は、静電塗装機と被塗膜物との距離が近くなりすぎてスパーク現象が起こらないように、熟練した技術が求められます。
静電塗装機のその他情報
1. 静電塗装機のデメリット
静電塗装は、大量少品種であれば効率的に塗膜を形成できる点が大きなメリットです。一方で、静電気と粉末を利用すことが逆にデメリットになることもあります。
塗装ムラや特有の欠陥発生
静電塗装は静電感応力を利用した塗装であるため、被塗装物の形状が均一でない場合は電場も不均一になりムラが生じます。凸部では電場が集中しやすいため、そこに塗料が集中するので他よりも厚くなったり、また電場が届く範囲であれば塗装できてしまったりすることで、不要な部分も塗装されることがあるため注意が必要です。
静電気により雰囲気中のゴミや埃も同時に引き寄せられ巻き込み塗装されるので、「ゴミ・ブツ」と呼ばれる塗装の欠陥も生じることがあります。また、「ゆず肌」と呼ばれる塗装表面が広い範囲で波打ったような状態なる欠陥で、電圧が高すぎて発生する逆電離現象が原因となります。
薄い膜厚が困難
静電塗装機では粉体を塗料として直接塗装するため、薄い厚みの塗膜を形成することができません。最小値の厚みで、30μm程度とされています。
それより塗膜を薄くしようとするとムラなどの欠陥が発生し易くなるため、有機溶剤塗装のような液状塗料による塗装に切り替える必要があります。
少量多品種が困難
静電塗装は塗装前の洗浄に始まり、塗料の密着、高温での焼付乾燥と工程が長く複雑であるため、細かい色調が求められ複数回の塗装が必要とされる少量多品種では、生産性が著しく低下するため対応が困難になります。
専用塗装設備と安全対策が必要
高圧の電気と粉末を使用するため、感電事故や火災に対する安全対策を施した専用の塗装設備が必要なり、初期投資費用が大きくなります。また、塗装装置だけでなく、塗膜を定着させるための乾燥炉などや油分や錆を落とす前工程の設備も必要となります。工程全体で見ると設備と作業員のコストも掛かることもデメリットの1つです。
塗料の粉末管理
使用する塗料は粉末であるため、使用だけでなく保管においても粉塵爆発などに対する安全対策が重要になります。また、粉末は表面積が大きく酸化などの汚染が進みやすくこれが欠陥の原因にもなります。長期間保管する場合は、清潔な環境を整える必要があります。
2. 静電塗装と電着塗装の違い
静電塗装と電着塗装の最も大きな違いは、静電塗装が塗料をスプレーで噴射し電解の力を利用して塗料を付着させるのに対して、電着塗装は塗料が入った浴槽に被塗装物を浸し、そこに電流を流すことで被膜を析出させる点です。電着塗装の特徴は、液状の塗料に浸し塗装することによる、高い均一性にあります。
参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/73/10/73_512/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1950/28/8/28_8_400/_pdf/-char/ja
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1954/11/5/11_5_2/_pdf
https://www.ncc-nice.com/co_mame/vFl20140815154843-327.html