工具鋼

工具鋼とは

工具鋼

工具鋼とは、高い硬度、耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性などの特性を持ち、切削や成形などの工具として使用される鋼材です。

JIS (日本産業規格) では、工具鋼を炭素工具鋼と合金工具鋼と高速度工具鋼の3種類に分類しています。炭素工具鋼は工具鋼の中でも最もよく使用されている工具鋼です。合金工具鋼は高い硬度、耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性などの特性を持ち、切削や成形などの工具として使用される特殊な鋼材です。合金工具鋼には冷間金型用や熱間金型用などがあり、高速度工具鋼にはタングステン系やモリブデン系などがあります。

工具鋼の使用用途

以下は、工具鋼の主な使用用途の例です。

1. 切削工具

旋盤用の刃物、フライス盤用の刃物、ドリルビットなどが挙げられます。

2. 圧延工具

金属板や棒を加工する圧延ロール、金属棒材を形成するためのプレス金型などが挙げられます。

3. 金型

プラスチックや金属を成形するための金型などが挙げられます。

4. 制御装置部品

自動車や航空機などの機械の部品などが挙げられます。

5. 電子部品

高周波加熱器のチューブ、真空管などが挙げられます。

6. 刃物

包丁やはさみ、裁断器の刃などの刃物などが挙げられます。

7. ベアリング

高負荷の回転部品に使用される高硬度・高耐摩耗性のベアリング部品などが挙げられます。

工具鋼の種類

JISでは、工具鋼を炭素工具鋼と合金工具鋼と高速度工具鋼の3種類に分類しています。

1. 炭素工具鋼 

炭素工具鋼は主に切削工具や金型などの工具に使用される高炭素鋼です。一般的に硬度が高く、耐摩耗性、耐熱性、耐食性に優れています。また、加工性もよく熱処理によって高い硬度と耐久性を持ちます。JIS G 4401では11種類に分類されています。

2. 合金工具鋼 

合金工具鋼は一般的に高い硬度、耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性などの特性を持ち、工具や金型などの製造に使用されます。合金工具鋼は、JIS G 4404では「切削用工具鋼用 (8種類)」、「耐衝撃工具鋼用 (4種類)」、「冷間金型用 (10種類)」、「熱間金型用 (10種類)」の4つのグループに大きく分類され、合計32種類あります。

3. 高速度工具鋼

高速度工具鋼は、JIS G 4403では「タングステン系 (4種類)」、「粉末冶金で製造したモリブデン系 (1種類)」、「モリブデン系 (10種類)」の三つのグループに大きく分類され、合計15種類あります。

タングステン系高速度工具鋼はタングステンを主な合金元素として含む工具鋼の一種であり、高い硬度、耐摩耗性、耐熱性、切削性などの特性を持ちます。主に金属を切削する工具や金型の製造に使用され、高速度での切削作業に適しています。

モリブデン系高速度工具鋼は、モリブデンを主要な合金化元素として含む工具鋼の一種で、高速度で切削する際に高い耐摩耗性、耐熱性、靭性を発揮することが特徴です。

粉末冶金によって製造されたモリブデン系高速度工具鋼は均一な構造と密度を持ち、高い耐摩耗性、耐熱性、靭性を発揮できます。また、均一な配合と焼結により、一般的に、通常の鋼よりも硬度が高く、寿命がより長くなります。

工具鋼の性質

工具鋼の主な性質は以下の通りです。

1. 硬度

工具鋼は高い硬度を持ち、切削や加工などの高負荷な作業に耐えられることが特徴です。工具や金型など、耐久性が求められる部品の製造に使用されます。

2. 耐摩耗性

工具鋼は耐摩耗性に優れており、長期間の使用にも耐えられることが特徴です。切削や加工作業中に生じる摩擦や熱による変形や摩耗が起きにくいため、高速切削工具や金型などに広く用いられています。

3. 耐熱性

工具鋼は高熱状態下でも変形しにくく、熱による軟化を抑制できることが特徴です。そのため高温下での切削作業や鋳造工程など、高温環境下での作業に適しています。

4. 可鍛性

工具鋼は鍛造加工に適しており、様々な形状に加工できることが特徴です。そのため複雑な形状の金型や刃物など、高い精度を要求される部品の製造に適しています。

5. 鋼種

工具鋼には高速度鋼、高炭素鋼、特殊工具鋼など、様々な種類があります。各鋼種によって異なる特性を持ち、用途に合わせて適切な鋼材を選択することが必要です。

工具鋼のその他情報

1. 寸法の安定性

工具鋼は高い硬度や耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性が求められるため、長期間使用されても変形や摩耗が少ないことが重要です。また、工具鋼を使用した製品や部品は、形状精度が高いことが求められることがあります。工具鋼は高い寸法安定性を持ち、熱処理後に形状変化が少ないように作られています。

寸法安定性を高めるためには、鋼材に含まれる不純物を取り除くことや、適切な熱処理を施すことが重要です。例えば、鋼材に含まれる酸化物や炭素などの不純物は高温下で反応して酸化や変質を引き起こすことがあるため、工具鋼の製造には高温下での精製工程が含まれています。また、熱処理は鋼材の特性を変化させることで、硬度や強度などの機械的性質の調整のために行われる重要な工程です。

2. 耐食性

工具鋼は湿気や腐食性のある環境下で使用されることが多いため、耐食性も重要な特性の1つです。金型や切削工具などは、湿気や腐食性のある材料に接触することがあるために、部品や製品の寿命が短くなることがあります。特にプラスチックや食品加工など、腐食性のある材料に接触する工具や金型には、耐食性が必要です。

一般的に、工具鋼の耐食性は合金元素の添加や特殊な処理によって向上できます。例えばクロムやモリブデンなどの耐食性を向上させる合金元素を添加することがあります。また、適切な熱処理や表面処理を施すことで、工具鋼の耐食性を向上できることも特徴の1つです。

3. 機械的性質の制御

工具鋼は構成材料や熱処理によって様々な機械的性質を持ちます。工具鋼の主な機械的性質は、硬度、強度、靭性、疲労強度、耐熱性、耐摩耗性、耐腐食性などです。これらの機械的性質は、合金元素の添加量、冷却方法、熱処理の種類や条件などによって制御されます。

一般的に、工具鋼の熱処理には焼き入れ、焼き戻し、焼きなまし、表面硬化などの方法があります。焼き入れは、工具鋼を高温で加熱してから急冷することで、硬度を高める方法です。焼き戻しは、焼き入れ後に再度加熱して冷却し、硬さをやわらげる方法です。焼きなましは、工具鋼を低温で長時間加熱することで、靭性を向上させます。表面硬化は、表面を高周波で加熱して硬度を向上させる方法です。

工具鋼の合金元素の添加量も、硬度や強度、靭性などの機械的性質を制御するために重要です。一般的な合金元素としては、クロム、バナジウム、モリブデン、コバルト、タングステン、マンガン、シリコン、ニッケル、銅などがあります。これらの合金元素を加えることで、工具鋼の特性を調整できます。

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