オーステナイト系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレス鋼とは

オーステナイト系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレス鋼とは、ステンレスの中でも常温でオーステナイトと呼ばれる結晶構造を有する合金の総称です。

主要な成分として鉄以外にクロムとニッケルを含むことから、クロム・ニッケル系ステンレスに分類されます。鋼種によって組成は異なりますが、オーステナイト構造を安定させるためのニッケルを主成分として含むことが特徴的です。ステンレス鋼種の中でも最も一般的に用いられている材料であり、その生産量は全ステンレス鋼のうち約60%を占めるとされています。

特に代表的なオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304は、非常に幅広い用途に用いられています。SUS304にモリブデンを添加したSUS316なども、高い耐食性を有する合金です。

オーステナイト系ステンレス鋼の使用用途

オーステナイト系ステンレス鋼は鋼種にもよりますが、一般に磁性を持たず高い耐食性を有するため、幅広い用途に使用されます。外部の温度環境によって強度の低下が起こりにくく、溶接や塑性加工に優れているため、建築材やプラント設備などの過酷な条件下や信頼性が必要となる場所でも利用可能です。

一般的に用いられている鋼種はSUS304であり、加工硬化を防止したSUS305のほか、耐食性をより向上させたSUS316なども広く用いられています。

オーステナイト系ステンレス鋼の性質

オーステナイト系ステンレス鋼は靭性や延性に優れており、冷間加工やプレス成形に適しています。溶接性が良く、熱処理で高い硬度を示し、ステンレス鋼の中で最も耐食性が優れています。基本的には磁性を持ちません。

磁性を持たない理由は、結晶構造が面心立方格子であるためです。塑性加工を行った際などに加工箇所の構造がマルテンサイトに変態すると、まれに磁性を持つ可能性があります。

オーステナイト系ステンレス鋼は焼き入れによる強度の増加は見込めない材料ですが、固溶化熱処理、焼きなまし、安定化処理によって物性を変化できます。その中でも固溶化熱処理はほぼすべてのオーステナイト系ステンレスに実施される処理であり、高温に加熱した後に急冷すると耐食性の向上、鋭敏化の抑制、加工硬化の除去が可能です。

オーステナイト系ステンレス鋼の構造

ステンレス鋼の金属組織は常温でオーステナイトになります。純鉄ではオーステナイトになるのは高温状態だけであり、常温ではフェライト組織です。クロムを純鉄に加えると、オーステナイトが安定的に存在する最低温度がおよそ830°Cになります。

フェライト生成元素とは、クロムなどのフェライトの安定存在温度領域を広げる元素のことです。クロムの含有量が7%程度以上になると温度領域は小さくなり、クロムの含有量が増えると最終的にはオーステナイトの安定存在温度領域が消えます。

ニッケルなどのオーステナイトの安定存在温度領域を広げる元素のことは、オーステナイト生成元素と呼ばれます。純鉄にニッケルを加えると、オーステナイトの安定存在温度領域は広がって、最低温度はニッケルが30%でおよそ500°Cです。

オーステナイト系ステンレス鋼の種類

オーステナイト系ステンレス鋼は構成元素にニッケルとクロムを含み、その他のステンレスと比較して高い耐食性を有します。代表的な鋼種であるSUS304では、孔食や粒界腐食などの局部腐食が問題となる場合がありますが、添加物の量や種類を変えることで対応可能です。具体的には炭素含有量が0.03%以下のSUS304Lやモリブデンを添加したSUS316などは、SUS304と比較して高い耐食性を有します。

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