薄膜蒸発装置とは
薄膜蒸発装置とは、薄膜を形成して低沸点成分 (溶媒) を濃縮・蒸発させることにより混合物を分離精製する装置です。
低沸点溶媒を短時間で蒸発させることができます。加熱時間を短縮できるため、特に熱に敏感な化合物の分離精製に有効です。また、高真空にすることで高沸点液の処理に用いることもできます。
薄膜蒸発装置の使用用途
薄膜蒸発装置は溶媒の留去による溶質 (サンプル) の濃縮・乾燥・粉末化、使用済み溶剤や廃液、処理液などから再利用可能な溶剤や水の回収を行うために使用されます。
1. 化学
化学工業においては、アミン類、エステル類などの芳香物質、ラテックス類や、モノマー類など、有機化合物一般の分離精製に用いられます。酢酸の回収にも活用されている他、モノグリセライド、脂肪酸アマイド、各種脂肪酸や各種脂肪酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アセチレン誘導体、高沸点化合物の精製にも用いられます。
2. 医薬品
医薬品工業における主な用途は、ビタミン類や、DHA、EPA、スクワレンなどの油脂類などの蒸留処理や、一般的な有機化合物の濃縮精製です。
3. 食品
薄膜蒸発装置は、食品工業においても汎用されている装置です。具体的な用途には、タンパク類、糖類の濃縮精製や、各種ジュース、ミルクなどの濃縮処理などがあります。
4. 機械・電子
薄膜蒸発装置は、真空ポンプ油、冷凍機油、トランス油の精製や、電子部品、半導体部品等に使用される封止材、モールド材の真空加熱処理などにも使用されています。
5. 廃液処理
薄膜蒸発装置は、工業生産一般における処理液・廃液の濃縮回収・水回収・溶媒回収・減容化に活用されている装置です。金属工業における切削油廃液や、金属表面処理工業、化学工業、繊維工業、皮革工業、染料工業など、様々な分野で用いられています。
薄膜蒸発装置の原理
薄膜蒸発装置は、加熱機構を備えた蒸発管内に薄膜を形成させて溶媒を蒸発させる原理で、溶質を濃縮・乾燥させます。蒸発管内にはワイパーなどが内蔵され、均一な薄膜を効率よく形成する仕組みです。通常、蒸発管内は減圧を行うことが可能な構造になっているため、減圧によって溶媒の沸点を降下させることで低温・短時間での溶媒除去が可能です。
また、固体として析出した溶質は、ワイパーなどで掻き取られて回収容器へ送られるようになっています。蒸発した溶媒は、気体として管を通って冷却管でトラップされ、再冷却されて液体として回収されます。通常、ラボスケールの装置の蒸発管や液体・気体の流路の材質は、ホウ珪酸ガラスなどの耐食・耐薬品性に優れ、かつ内部観察が可能な透明な素材です。
薄膜蒸発装置の種類
薄膜蒸発装置には、実験室サイズのものから工業用の大型のものまで、様々な大きさのものがあります。実験室サイズのものは通常ガラス製ですが、工業用スケールではステンレスなどが用いられます。
通常の薄膜蒸発装置では、留分が流下するよう蒸発管が鉛直に立てられており、効率良く分離精製を行うことが可能です。そのため、分離したい混合物を上部から投入する装置が多いですが、下部から混合物を導入して加熱上昇させる方式の上昇薄膜蒸発装置もあります。それ以外の形状では、工業用などに用いられる水平薄膜蒸発器が挙げられます。
1. 遠心薄膜蒸発装置
工業用の薄膜蒸発装置の一種に、遠心薄膜蒸発装置があります。遠心薄膜蒸発装置は、内部に回転翼を備え、遠心力で処理液を胴体内表面に薄膜化する装置です。ジャケットからの伝熱と真空減圧によって溶媒を蒸発させます。一般に工業用に大型の装置であり、横形、立形、掻き取り型、サニタリー型など、様々な種類があります。分離効率が高く、特に高沸点溶媒などの蒸留に最適です。
2. ショートパスエバポレーター
薄膜蒸発装置に似ている装置に、ショートパスエバポレーターがあります。ショートパスエバポレーターは、薄膜蒸発装置よりもガラス器具内をより高真空に引くことができる装置です。高沸点成分の蒸留・分離など、高真空での運転が必要な場合はショートパスエバポレーターの方が適しています。また、運転温度を下げ、時間を短くすることができるため、熱敏感性分離により適していると言えます。
参考文献
https://www.theglassplant.com/product/thinfilm-evaporator/
https://www.ubemachinery.co.jp/product/chemical/evaporator.html
https://www.sibata.co.jp/item/6631/
https://www.yashiro.co.jp/fd_md/