クロロスルホン酸とは
クロロスルホン酸 (英: Sulfuric chlorohydrin) とは、化学式 HSO3ClもしくはSO2Cl(OH)で表される無機化合物です。
「塩化スルホン酸」「クロロトリオオキソ硫酸水素」とも呼ばれています。式量は116.52 g/mol、融点は-80 °C、密度は1.753 g/cm3、CAS番号は7790-94-5です。常温常圧では無色から淡黄色の濁った油状の液体で、強い刺激臭があります。
クロロスルホン酸の使用用途
クロロスルホン酸の用途は、合成洗剤原料・医薬品・染料の原料などのスルホン化剤として使用されています。クロロスルホン酸はさまざまな用途があり、日本でも大量に消費されています。
1. 有機化学における反応剤
クロロスルホン酸は、主にスルホン化反応における反応剤として用いられます。スルホン化とは、有機化合物の水素原子をスルホ基に置換させる反応のことです。通常は硫酸または発煙硫酸、アセチル硫酸などを作用させて行いますが、クロロスルホン酸は特に反応しずらい化合物のスルホン化試薬として有用です。
その理由として、硫黄原子に結合している塩素原子がスルホン化反応では塩化物イオンとして脱離しますが、塩化物イオンが脱離基として非常に安定で優秀であるためこの置換反応は素早く進行するという点が挙げられます。
他にも、クロロスルホン酸を用いる方が価格が抑えられたり、硫酸を用いた激しいスルホン化反応ではさまざまな不必要な副生成物を生じてしまうため、それらの発生を抑えられたりすることも理由の1つです。ただし、反応性が非常に高く、その制御が必要になるというデメリットもあります。
多くの中性洗剤では、両末端にスルホ基と第4級アミンを持ち電荷的に中性となっているためスルホ基の導入は非常に重要です。また、多くの染料も分子中にスルホ基を持つものが多いです。そのため、このスルホン化反応は中性洗剤や染料などの製造において重要な工程であり、クロロスルホン酸は中性洗剤や染料の製造における原料となります。
2. その他
水と反応して塩酸と硫酸の白い煙を形成することから、軍事舞台で使用される煙幕の原料としても使用したり、 ステルス爆撃機のエンジン排気による飛行機雲の発生を抑えることを目的に、排気中の水分を吸着させるために排気中に散布したりします。
クロロスルホン酸の性質
クロロスルホン酸は反応性の高い物質で、水やエタノールと激しく反応します。特に水と激しく反応すると、分解して硫酸と塩酸を生じ、また、吸湿性が強く空気中で発煙します。
そのため、溶媒に溶かして使用する際には、求核性のない溶媒を選択することが大切です。クロロホルム、ジクロロメタン、 ピリジンには可溶ですが、二硫化炭素と四塩化炭素には不溶であることが知られています。
クロロスルホン酸のその他情報
1. クロロスルホン酸の合成法
クロロスルホン酸は、濃硫酸に対して五塩化リンを反応させることによって合成することができます。また、三酸化硫黄と塩酸を反応させる方法でも合成可能です。
2. クロロスルホン酸の危険性
クロロスルホン酸は、毒物および劇物取締法の劇物に該当します。腐食性が強く、皮膚に接触すると、激しい薬傷を生じるため、取り扱いには注意が必要です。皮膚だけでなく、目にも強い刺激性を持ち、さらに摂取してしまうと内臓にも大きなダメージを与えてしまいます。
触れてしまった場合には、すぐに大量の水で洗い流すことが重要です。飲み込んでしまった場合には、すぐに医師の処置を受ける必要があります。
また、空気中に放置すると空気中の水分と反応して危険な塩化水素や硫酸を生じ、特に塩化水素は揮発性が高いので保管する際には注意が必要です。取り扱う際には白衣や保護服、ゴム手袋及び保護メガネの着用が必須です。