クメン

クメンとは

クメンの基本物性

図1. クメンの構造と基本物性

クメンとは、ベンゼン環の水素原子のうち1つがイソプロピル基によって置換された構造を持つ芳香族有機化合物です。

別名キュメン、イソプロピルベンゼン、1-メチルエチルベンゼン、2-フェニルプロパンとも呼ばれます。化学式はC9H12で表されます。CAS番号は98-82-8です。

クメンは第二次世界大戦における航空機燃料の原料として大量生産の体制が整えられていました。クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドを得たのち、分解することによってアセトンとフェノールを得ることが可能と判明してからは、アセトンフェノールの工業的製法としてクメン法が用いられるようになりました。

クメンの使用用途

1. クメン法

クメン法

図2. クメン法

クメン法は、ベンゼンとプロペンを原料として、フェノールとアセトンを得る反応です。

酸性条件下でベンゼンにプロペンを置換させることによりクメンを得ます。次に、クメンに酸素を吹き込むことで、クメン中心の炭素原子が酸化され、クメンヒドロペルオキシドに変化します。クメンヒドロペルオキシドに硫酸を加えることで、ベンゼン環と炭素原子の間に酸素原子が挿入される形となり、酸素原子と炭素原子の間で分解が起きてアセトンとフェノールが得られます。

クメン法は常圧での酸化を利用して容易に反応を進行させることができます。溶媒やプラスチック原料として大量生産が必要なアセトンとフェノールを簡便に得られることから、広く利用されています。

2. プラスチック原料

クメンの実需の大部分はフェノールであり、クメンを原料として合成されたフェノールから、フェノール樹脂が製造されます。フェノール樹脂のビスフェノールAはポリカーボネートやエポキシ樹脂の原料として消費されます。

3. 燃料

燃料を燃焼させた際に得られるエネルギーを増加させる目的で、クメンを添加した航空向けの高オクタン価燃料が用いられています。

4. 溶剤

塗料やラッカー、シンナーの溶剤の一部に、少量のクメンが添加されている場合があります。

5. 過酸化物

クメンを酸化して得られるクメンヒドロペルオキシドのような過酸化物は、強力な酸化剤であり、還元性物質や可燃性物質と容易に反応して酸化させる作用を持っています。また、過酸化物を分解することでラジカルが発生し、高分子合成のラジカル重合における重合開始剤として使用されることがあります。

6. その他の原料

医薬品や香料の原料としてクメンが使用されています。

クメンの性質

クメンは、常温常圧で特異臭を持つ無色の液体です。融点は-96℃、沸点は152℃、比重は0.86です。エタノール、エチルエーテル、アセトン、ベンゼン、石油エーテル、四塩化炭素に可溶で、水には非常に溶けにくい性質を有します。

労働安全衛生法において「危険物・引火性のもの」、「名称等を表示・通知すべき有害物質」に指定されています。PRTR法で第1種指定化学物質、消防法で「第4類引火性液体」、「第二石油類非水溶性液体」に指定されています。

芳香族炭化水素であるため、他の炭化水素と同様に発がん性の可能性が指摘されています。また、高温や加圧下で分解すると爆発する危険性があります。このため、取り扱いには注意が必要です。

クメンのその他情報

クメンの合成

クメンの合成方法

図3. フリーデル・クラフツ反応によるクメンの合成

クメンの合成ではフリーデル・クラフツ反応が利用されます。フリーデル・クラフツ反応は、有機化合物の芳香族置換反応の一種であり、ハロゲン化アルキルやアシルハライドなどのエレクトロフィルを芳香族環に付加する反応です。具体的なクメンの合成方法は以下の通りです。

プロピレンとベンゼンを混合し、ルイス酸である塩化アルミニウムを触媒として加熱します。次に、塩化アルミニウムがプロピレンに結合し、プロピレンカチオンが生成します。ベンゼンがプロピレンカチオンに攻撃され、クメンが生成します。この反応混合物を水で加水分解し、クメンを取り出します。

この反応では、塩化アルミニウムがプロピレンカチオンを安定化させ、芳香族環に付加させることができます。フリーデル・クラフツ反応によるクメンの合成は、工業的な生産方法として広く利用されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0705.html

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