酪酸エチル

酪酸エチルとは

酪酸エチル (英:Ethyl butanoate) とは、分子式C6H12Oで表される有機化合物で、カルボン酸エステルの1種です。

硫酸の存在下で酪酸とエタノールを反応 (脱水縮合: エステル化) させ、蒸留等で分離することで得られます。酪酸エチルは、ブタン酸エチルと表記されることもあります。

また、エステルであることを明確にするため、酪酸エチルエステル、ブタン酸エチルエステルと表記される場合もあります。酪酸エチルは無色透明の液体で、空気中に容易に拡散し、甘い果実香を発する物質です。

酪酸エチルの使用用途

酪酸エチルの主な用途は、食品や飲料に添加される香料です。石鹸や化粧品の香料やラッカー等の溶媒、接着剤の溶剤なども用途として挙げられます。まれに、悪臭のマスキング目的で用いられることもあります。

酪酸エチルの果実香は、多くの人にバナナやパイナップルを連想させるような匂いです。同じカルボン酸エステルの仲間で酢酸エチルより分子量の小さい酢酸エチルが、リンゴの香りに例えられるのに比べ、やや力強いと表現されることもあります。

酪酸エチルの性質

酪酸エチルの示性式は、C3H7COOC2H5です。常温では無色透明な液体として存在し、分子量は116.16、密度は25℃で0.875g/mL、融点は-93.3℃、沸点は120~121℃、引火点は約25℃です。アルコールや油類の有機溶媒にはよく溶けますが、水にはほとんど溶けません。

酪酸エチルには引火性があるため、火気や熱源近くでの使用は避け、使用時の安全管理や保管には十分に配慮する必要があります。酪酸エチルは日本の消防法において、危険物第4類・第2石油類に分類されている物質です。

酪酸エチルのその他情報

1. 酪酸エチルの安全性・毒性

酪酸エチルは、天然由来成分としてイチゴの果汁、リンゴのみつなどにも存在が確認されている物質です。食品添加物にも使用されることから、低濃度の使用において毒性はありません。

その他の用途においても、大きな危険性は認められていない物質です。ただし、原液などが直接皮膚などに触れた場合は刺激を受ける可能性があり、蒸気状の気体を吸うことによる呼吸器への刺激のおそれがあります。したがって、高濃度で取り扱う場合には注意が必要です。

なお、酪酸エチルの環境に対する有害性は認められていないため、厚生労働省の安全データシートにおいても、水生環境急性有害性、水生環境慢性有害性はいずれも区分外となっています。

2. 酪酸エチルと同じ分子式をもつ物質

酪酸エチルと同じC6H12Oの分子式を持つ異性体には、酢酸ブチル、ギ酸ペンチル、プロピオン酸プロピルがあります。これらの物質はいずれも、本項の酪酸エチルと同じくエステル類であり、香料や溶媒などの用途に使われる物質です。

3. 酪酸エチルとフルーツフレーバー

酪酸エチルのように、低級または中級のカルボン酸とアルコールからなるエステル類は、空気中に拡散するといずれも果実などを連想させるような香りになります。これらの物質の大半は、植物の精油や果汁の中から検出されており、天然に広く存在している物質です。

酢酸エチルも、日本で人気のある「リンゴのみつ部分」の香り成分の中心となる物質です。したがって、エステル類の香りの組み合わせを工夫することで、人工的にさまざまなフルーツフレーバーを作り出すことができます。天然果汁を補強する香料として、用いることも可能です。

一方で、このようなよい香りのエステル類の構成成分であるギ酸、酢酸、酪酸、イソ吉草酸などの炭素数の少ないカルボン酸は、多くの人にとって不快に感じられる悪臭を放つことで有名です。「エステル化するだけで劇的に臭いが変わってしまう」という点に目をつけると、比較的安全で安価な実験材料を用いて面白い化学実験を作ることができます。そのため、この手の実験は教育目的の学校実験などでもよく採用されています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です