メントン

メントンとは

l-メントンの基本情報

図1. l-メントンの基本情報

メントンとは、飽和環状テルペンケトンの1種で、植物精油中に含まれる、無色透明の液体です。

ペパーミント油やハッカ脱脳油に含まれています。主に含まれているのは「l-メントン」で、IUPAC名では(2S,5R)-trans-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサン-1-オンです。

l-メントンは、ハッカ特有の香りがします。ハッカ脱脳油を分留することによって得られます。消防法にて「危険物第四類」に指定されており、取り扱いには注意が必要です。

メントンの使用用途

メントンの主要な用途として、ミント等の合成香料原料が挙げられます。また、ラベンダー・ローズ・ゼラニウム等の調合香料や食品香料、化粧品などとしても広く用いられています。

ゼラニウム油は、ローズ油に似た特有の香りを有し、高級調合香料として用いられている他、一般香粧品や石鹸香料、ロジノールの製造原料としても利用可能です。ペパーミントの主成分の1つとして、アロマテラピーなどでも利用されており、血圧を下げる効果などがあるとされています。

そのほか、害虫を忌避する効果もあるため、農薬の製造にも使用可能です。さらに、有機合成の原料としても利用されています。 

メントンの性質

メントンは水には微溶ですが、アルコールやベンゼン等の有機溶媒には可溶です。密度は0.893g/cm3、融点は-6°C、沸点は207-210°Cです。

分子式はC10H18Oで、分子量は154.25です。カルボニル基を持つモノテルペンであり、構造はメントール (英: menthol) に類似しています。メントールのヒドロキシ基をカルボニル基へ変換した構造、もしくはp-メンタン (英: p-menthane) にカルボニル基が付加した構造です。

幾何異性体と光学異性体を考えると、合計4種の異性体が存在します。分子内に2個の不斉炭素があるため、「d-メントン」と「l-メントン」という光学異性体 (鏡像異性体) が存在し、「メントン(トランス体)」と「イソメントン(シス体)という幾何異性体 (シス・トランス異性体) も存在します。

ペパーミント油やはっか脱脳油などに、多く含まれているのはl-メントンであり、d-イソメントンは少量です。ただし熱によってイソメントンに異性化するため、それぞれの異性体が共存しています。

メントンのその他情報

1. メントンの合成法

メントンの異性体の構造

図2. メントンの合成法

クロム酸とともにメントールを加熱すると、メントールの酸化反応によって、メントンを合成できます。メントールは普通の2級アルコールと同様に、多種多様な反応に適用可能です。

2. メントンの異性体

メントンの合成法

図3. メントンの異性体の構造

l-メントンは(-)-メントンとも呼ばれています。l-メントンの光学異性体であるd-メントンは、(+)-メントンや(2R,5S)-trans-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサン-1-オンとも呼ばれます。

(-)-イソメントンと(+)-イソメントンは、l-メントンやd-メントンの幾何異性体です。(-)-イソメントンはl-イソメントン、(+)-イソメントンはd-イソメントンとも呼ばれています。

3. メントンの応用

有機化学においてメントンは、これまでに重要な役割を果たしてきました。エルンスト・オットー・ベックマン (英: Ernst Otto Beckmann) によって、濃硫酸にメントンを溶かすと別のケトン化合物が生成し、原料と生成物は同じ大きさですが、旋光度が逆向きであることが明らかなりました。

そして、エノール型互変異性体を中間体として経由して、不斉炭素原子上の立体反転が起きたという機構を提唱しています。これは、ほとんど検出ができない中間体を反応機構中に置くことで、生成物の形成過程を説明する理論における初期の例です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0097JGHEJP.pdf

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