アルゴンとは
アルゴン (英: Argon) とは、地球大気中に水蒸気を除き、窒素や酸素に次いで3番目に多く含まれる気体です。
元素周期表の第18族に属し、貴ガス (英: noble gas) と呼ばれています。ただし、化学的に分離や抽出が困難であった時代の名残で、希ガス (英: rare gas) とも呼ばれています。
大気中にアルゴンはおよそ0.93%存在します。貴ガスの中で、空気中の存在比が最も大きいです。現代では空気を-200℃程度の極低温に冷却し、窒素や酸素と分離して得られます。
アルゴンの使用用途
アルゴンは、他の物質と反応しにくいため、不活性ガスとして製造現場で広く使用されています。代表的な用途として、溶接のシールドガスが挙げられます。
アルゴンに数%の酸素を加えたシールドガスを用いることで、局所的にアークを集中できるため、高品質な溶接加工を行うことが可能です。また、半導体基板の材料であるシリコンウエハを製造する際の雰囲気ガスとしても、アルゴンがよく用いられています。
他の物質と反応しにくい不活性ガス雰囲気を用いて、純度99.99%の高品質なシリコンの製造も可能です。他にも、ステンレス鋼を製造する精錬炉の雰囲気ガスとしても広く使用されています。
アルゴンの性質
常温常圧でアルゴンは、無色無臭の気体です。他の物質と化学反応を起こしにくいため、不活性ガスと呼ばれます。三重点は83.8058Kです。
アルゴンの構造
アルゴンは第18族元素の貴ガスで、第3周期元素の1つであり、元素記号はAr、原子量は39.95です。最外殻には価電子がなく、オクテット則を満たすため、化学的に構造が安定しています。電子配置は、[Ne] 3s2 3p6です。
比重は−233°Cの固体状態で1.65、−186°Cの液体状態で1.39であり、空気に対する比重は1.38です。固体状態では、面心立方構造を取っています。
地球上に存在するほとんどのアルゴンは、質量数が40 (40Ar) であり、地殻中にあるカリウム40 (40K) の崩壊によって生成しました。40Arの半減期は1.25×109年です。その一方で、宇宙にはアルゴン36 (36Ar) が最も多く、超新星爆発によって生じました。アルゴンの同位体の中で、安定同位体は36Ar、38Ar、40Arの3種類です。
アルゴンのその他情報
1. アルゴンの精製
液体空気の分留により、アルゴンの単体を得られます。分留の反復以外にも、活性炭による分別吸着、アルカリ金属との加熱、ガスクロマトグラフィー、分別蒸発などで、アルゴンを精製できます。
2. アルゴンの同位体
アルゴンには、25種類の同位体が知られています。地球の大気中には、圧倒的に40Arが多いです。
宇宙線の作用によって、39Arや40Arが生成します。地球表面では、39Kの中性子捕獲などによって39Arが生じます。天然のアルゴンに含まれる39Arの割合の測定値は、(8.0±0.6)×10−16g/gです。
さらに、大気圏での核実験によって、37Arが生成します。37Arの半減期は35日です。また、地球大気中の42Arの割合は、およそ6×10−21です。
3. アルゴンの化合物
アルゴンの単原子はオクテット則を満たすため、長い間他の原子と結合した化合物は知られていませんでした。しかし、2000年に初めて、アルゴンフッ素水素化物 (英: argon fluorohydride) が合成されました。化学式はHArFで、アルゴン、フッ化水素、ヨウ化セシウムを混ぜて、7.5Kで紫外線を照射すると合成できます。
アルゴンフッ素水素化物は-256℃以下では安定していますが、-256℃以上ではアルゴンとフッ化水素に分解します。アルゴンは水和物結晶やキノール分子化合物などを除いて、安定な包接化合物を作りません。
具体的には、水とは8Ar・46H2O、ヒドロキノンとは包接化合物であるAr・3C6H4(OH)2を作ります。