デジタルオシロスコープとは
デジタルオシロスコープとは、電気信号の時間的変化をデジタルデータに変換して内部メモリに記録した上で、ディスプレイ上に表示する計測器です。
ある一時点の電圧もしくは電流を計測するだけのテスターとは異なり、オシロスコープは電気信号の周期/周波数や立ち上がりの状況、複数の信号間の時間差/位相差などを観測することができます。
オシロスコープは、デジタルオシロスコープとアナログオシロスコープに大別されます。アナログオシロスコープが電気信号をリアルタイムにブラウン管に投影するのに対し、ここで扱うデジタルオシロスコープは、電気信号を離散的な時間間隔でサンプリングして得られた「点」としての情報を集めて、擬似的な波形を表示します。
デジタルオシロスコープの使用用途
オシロスコープは、電気回路内の電圧や電流等の電気信号を時間軸を横軸とする波形として観察するための計測器であり、産業機器や民生機器などの開発時の動作検証やデバッグ、製品が故障したときの原因解析などに使用されます。
デジタルオシロスコープは、電気信号をA/D変換等のデータ処理後波形に変換するため、アナログオシロスコープに比べてリアルタイム性に劣るという短所がありましたが、2000年以降は画面更新レートの高速化が進み、実用上支障がないレベルに改善されました。
また、価格も徐々に低下してきたことから、現在では圧倒的にデジタルオシロスコープが使われています。
デジタルオシロスコープの原理
1. 入力信号の処理
デジタルオシロスコープでは、入力信号をアッテネータ (減衰器) で感度を調節し、アンプ (増幅器) で振幅を最適化した後、A/Dコンバータに印加することが特徴です。A/Dコンバータでは、サンプリング周波数で設定されたタイミングで信号を取り込み、デジタル値に変換し、そのデジタル値は波形中の一つのポイントのデータとして記録メモリに記録されます。
2. 記録メモリ
記録メモリはFIFO (ファーストイン-ファーストアウト) メモリの構造を成していて、記録メモリの容量が一杯になると最も古いデータを捨て、新しいデータを書き込みます。其の結果、記録メモリには常に最新のデータを保持するよう動作します。
3. 信号波形
A/Dコンバータから記録メモリへの書き込みは、トリガ回路によって制御されるものです。トリガ回路からの信号により記録メモリへの書き込みが停止すると、そこに保存された各ポイントのデータの集合体である波形記録は表示メモリへ転送されます。この表示メモリ上のデータを基に、オシロスコープのディスプレイに信号波形が表示されます。
4. プリトリガ
トリガ回路の信号により新たな信号の取り込みを直ちに停止すると、記録メモリに保存されている波形記録はトリガ信号以前のものです。このように、トリガ信号以前の入力信号を観測可能な点はデジタルオシロスコープの特徴の一つで、プリトリガと呼ばれる機能です。アナログオシロスコープでは、トリガ信号を受けてから輝線の掃引が開始されるため、トリガ信号以前の波形を捉えることが困難でした。
デジタルオシロスコープの選び方
機種選定時には、測定内容に対して十分なスペックを備えたオシロスコープを使用することが重要なポイントです。具体的には、以下のポイントを押さえる必要があります。
- 周波数特性
広い周波数帯域ほど有利 - サンプリング周波数
高速なサンプリング周波数ほど有利 - チャンネル数
チャンネル数が多いほど有利 - メモリ長
メモリ容量が大きいほど有利 - 利用可能なプローブの種類
多種のプローブが用意されていると有利 - トリガ機能
様々なトリガ条件が設定出来れば有利
デジタルオシロスコープは波形を観測するという基本的な用途に加えて、タイミング検証や波形解析、コンプライアンステストなどへと用途が拡大しており、それに伴い測定範囲の拡大や高機能化が進んでいます。一方、高性能を求めればその分高価格になることは避けられません。そのため、使用目的に合った機能を有する機種の選定がますます求められています。
デジタルオシロスコープのその他情報
1. 波形記録の活用
デジタルオシロスコープは、入力信号をデジタルデータとして記録メモリに記録しているため、記録メモリ内のデータを使った波形解析、例えばFFT演算による信号の周波数分析も行えます。さらに、そのデータを外部メモリ装置 (USBメモリ等) に出力して、PCによる解析やデータの保存もできます。
2. エリアシング対策
デジタルオシロスコープでは、入力信号の周波数に対してサンプリングの間隔が長いと誤った波形として観測することがあります。これをエリアシングと呼びますが、エリアシングを防ぐには、入力信号の最高周波数の2倍を超えるサンプリング周波数で波形データの取り込みが必要です。